曽良くんは無言で私の胸ぐらをつかみ上げた。
苦しいし、曽良くん無言だし、怖くて心臓がバクバクいってる。

いや、心臓が暴れる理由は、それだけではない。
近いって。こんなに顔が近付いたのは初めてじゃないか。
こんな状況でそんな事を考えてしまう私は、君に相当惚れ込んでいるらしい。
「顔、真っ赤ですね。」
「ごごごごめんなさ…え?あ…。」
あれ?怒ってない?
拍子抜けだよ、全く。
首離せよ、この弟子男!

そう思っても、テレパシーが使えるわけではないから、曽良くんは離すどころか余計に締めてくる。そろそろ本格的に苦しくなってきたんだけど。

そんな私をお構いなしに、曽良くんは無表情で問う。
「僕のこと、好きですか。」
真っ直ぐにそんなことを聞くもんだから、照れてしまう。あまりに急なので、これはどういうことか、と悩む余裕もない。
「好きだよ。」
恥ずかしさから、ためらいながら答えたが、それは体の底からの本音だ。

でも、曽良くんは?

気になる。でも聞くのが怖い。でも気になる。でも、でも。
ああもう、ヤケクソだ!
悩んでも仕方ない!
いったれ!
「そそ曽良くんは?」
声が震えた。師匠、というか、恋人なのに。
曽良くん黙っちゃったよ。怖いよ、なんか言えよ…お願い。
なんて、願ったら。
「僕、不器用ですから。」
そう言って、強引に、彼が自称する通り不器用に、唇が重なってきた。
びっくりして、思わず声をあげかけたが、それすら彼に封じられた。
でも、胸ぐらをつかまれていたせいで、元から息が苦しかったので、私はすぐにギブアップのサインに、彼の肩をぐいぐい押しやった。
しかし、彼はそれでもやめない。
しまいには、腰に手を回し、私の頭を押さえてきた。うわあ、男前。
私がうめくと、やっと離してくれた。
ぜいぜい、と息をする私に、彼は言い訳するかのように、先と同じことを言い放った。
「すみません、僕、不器用ですから。」
いや、言い訳ではない。
彼なりに謝っているのだ。
「恋人というものの、どうすればいいのかわからないんです。」
目の前にいるのは、鬼ではなかった。
恋愛、というものが自分なりにわからない、ただの青年だ。
大切にしようとすると、らしくなくて、ギクシャクして。
「…わからなくても、いいんだよ。」
いつも通りにすると、殴って、蹴って。
「無理に『恋人』の型にはまらなくてもいい。」
すると、曽良くんがコツン、と額をくっつけてきた。
この照れ男め、と言ったら鼻にかみつかれた。痛い。
痛みで涙をにじませながら、私は言う。
「私こそ、ごめんね。勝手に焦って、君を無理に急かしてしまった。」

ああ、なんだ。
私も君も、焦っていたのか。
お互いがお互いに、どっぷり浸かっていたのに。
彼は不器用で、口下手なだけじゃないか。
私がそれに気付けずにいたから。

「…もう一回。」
今は、さっきとは違った理由で欲張りになったようだ。
もっともっと、君が欲しい。
それはきっと君も思っていることだろう。
曽良くんは、今度はゆっくりと距離を縮める。
でも、それがもどかしくて、私から飛びついた。
曽良くんも、それに応えるように、私の体を抱きしめた。
お互いを貪り喰う、獣のような接吻。
背中を、髪を、かきむしって。


キスして、君の息で、肺の奥まで侵して。


(201110)
からだに参加させていただきました。
素敵なタイトルもお借りしました。
雪様、ありがとうございました!


念願の接吻物をやっとかけました。


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