▼(笑)2(閻→曽)
03/11 15:30(0

これの続き。
古いので、書き方が今とちょっと違うかも。
グロ、死ネタ注意。












芭蕉さんが死んだ。
首から下の肉は削ぎ落とされて。

数日後、太子さんも、妹子さんも芭蕉さんと同じように死んだ。
太子さんは、駅近くの路地裏。鬼男は妹子さんの家近くの公園で、綺麗なまま。妹子さんは、自宅の玄関で。
妹子さんの遺体のそばに、妹子さん達の家の、血まみれのナイフとフォークが落ちていたらしい。
机の上には、冷めたカレーがあったらしい。


『人喰い』
世間ではそう騒がれている事件。

芭蕉さんは、真っ暗な客間で無残に畳に倒れていた。
顔は真っ白。服はどす黒い。
「そんな所で寝てたら邪魔です」と蹴った。足は空を切った。そこにあるはずのものがなかった。
こちらを向いた、ある一瞬で止まってしまった表情の芭蕉さんは、何かを訴えかけているようだった。


僕は今、芭蕉さんからのお下がりのスーツで真っ黒だ。
周りの涙ぐむ人々も真っ黒だ。涙の種類は様々だ。
僕は実感が掴めないのか、疲れからかはよくわからないが、涙は流れない。
ただ、ぼーっと隅っこでもない中途半端な場所に突っ立っていた。
何も考えずに、ただ突っ立っていた。


三人と、その親の仲がいいことと、タイミングから、喰われた三人は同時に見送られる。

四角い黒い枠に閉じ込められた三人は、ニコニコと笑っていた。
芭蕉さんのように、沢山のきれいな花にかこまれ、ニコニコと笑っていた。
白黒だけの世界なのに、そこだけが彩りをもっていた。

「曽良くん。」

もう一人、彩りをもつ人がいた。
背後から僕の名前を呼んだ、閻魔さんの赤い目。
僕はゆっくり振り向いた。
芭蕉さんが食べられてから、ずっと切っていない鬱陶しい前髪で、閻魔さんの姿は所々で途切れる。
彼等三人のように淡くはない、はっきりとした赤い目が僕を射抜く。
「俺たち、二人だけになっちゃったね。」
ねっとりとした声。僕はこの声に嫌悪感を覚えている。
そして、声の主にも嫌悪感を覚えている。
彼はいつもヘラヘラ笑うが、腹の底で何を考えているかわからない。肌の白さや、雰囲気も気味が悪くて、いつも距離をあけていた(鬼男には悪いが)。
「…そうですね、よりによってあなたと。」
僕が呟くと、閻魔さんは小さく笑った。
「またまた〜本当は」
そこまで言わせると、彼を遮る。
「嬉しいくせに…そう言いたいんですか?」
僕の声が、嫌に響いた。
閻魔さんから表情が消えた。
「…まさか。そんなフキンシンな。」
「そうですか。」
僕がそう言ったきり、閻魔さんは黙り込んだ。
しばらく三人を眺めているうちに、彼はいつの間にかいなくなっていた。


葬儀が終わった。
三人の親にも挨拶した。
前に会った時よりも、皺の増えた太子さんのお母さんが、うちに来るか、と言ってくださったが、僕は断った。
今、彼女の世話になるのは気が引ける。
お互い気をつかいすぎて、窮屈な思いをしそうだ。
落ち着くまでは一人でいたい。
すると彼女は、困ったらいつでもおいで、と泣きながら僕を抱きしめた。
抱きしめられたのは、高校に入学し、喜んだ芭蕉さんにされたとき以来だった。

葬儀場を出ると、ねっとりとした笑みを浮かべた閻魔さんが扉の側に立っていた。
体中を嫌悪感が包む。
「曽良くん、一人だけになっちゃったね。」
「さっきあなたと二人と言ってませんでしたか。」
「あれ、二人がよかった?」
「あなたと二人きりなら、舌を噛み切って死んでやりますよ。」
そう言ってやると、閻魔さんは悲しそうな顔をするでもなく、再び笑う。
「曽良くん、一人だけになっちゃったねえ。」
ピキリと体がなにかを訴えた。
また同じことを。何が言いたいんだ。
「君なら気付く思ったんだけど。」

鬼男くんみたいに。

肩で風を切られる感覚。

どっちにしろ、君は俺のものになるんだ。

風に混ざってきこえた声。
僕が悟る前に答えは告げられた。



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