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ペットショップクリニック大和
カランカラーン

「いらっしゃいませー」

「ピーピー(お客さんだよ、美春)」

僕の名前はシュウスケ。このペットショップで暮らすオカメインコだ。

オカメなんて言うと女の子と思う失礼な人がいるけど、僕はれっきとした男である。

まぁ、間違えた奴は手に噛みついてやるから皆間違いを正してくれるからいいけど。

僕は美春の肩に止まり、今入って来たお客さんを見た。

美春は僕の飼い主で、ここでアルバイトをしている大学生。まだ小さく捨てられそうになっていた雛鳥の僕を、弟のユウタと一緒に引き取ってくれた恩人だ。今はこのペットショップの3階で住み込みで働いている。

今日最初のお客さんは短い髪に赤メッシュが入った女の人だ。

この人は常連さん。いつもある猫の前で座ってずっと眺めてる。

「また来たよ、跡部さん」

「にゃあ(お前も飽きねぇ奴だな)」

ガラス越しに猫に話しかけるその人は幸せそうに笑った。

猫の名前はアトベ。由緒正しい血統書付きのペルシャ猫だ。親元の大富豪の名前が跡部という人だったらしく、親元に名前を付けられなかったアトベはここに来て愛称としてアトベと呼ばれるようになった。

血統書付きなだけあってなかなかに値段も高いがプライドも高い。

物事も自分が嫌だと何もしないし、質のいい物やお気に入りじゃないとガン無視だったり引っ掻く。

その性格のせいかは知らないけど、今までアトベを飼おうとした人はいない。

「でもごめんね、今日はちょっと用があるの」

女の人は、奥の爬虫類コーナーでイグアナのケンヤに餌をあげていた美春に声をかけた。

僕用に設置された木の上に留まっていた僕は、その光景に驚いた。

あの人が5分と経たない内にアトベの前から動くなんて、初めて見た。

当のアトベも驚いたらしく、珍しい事に自分からガラスの傍に寄って来た。

「ピーピピ?(とうとうアトベもフられたの?)」

「シャーッ!!(うるせぇぞシュウスケ!!コクってもいねぇのになんで俺様がフられなきゃなんねぇんだ!!)」

爪でガリガリとガラスを引っ掻きながら怒るアトベ。でもガラスの内側には特殊フィルムが貼られいて、傷が付いたりキーキーという嫌な音がしないようになっている。そして第一に、アトベの爪は毎週美春がしっかりと切っている為に攻撃的は微々たるものだ。流石僕の飼い主。真面目で抜かりない!!

「ウゥゥッ…(くそ、斉雅の奴が爪なんか切りやがるから…)」

「ピピーッ!!(ちょっと!!美春の悪口言うならその頭つつくよ!?)」

「にゃあ(やってみろ、生憎俺様はこのワンルームに守られてるがな)」

「ピピピーッ!!(売れ残りのくせにえらそうに!!)」

ドヤ顔で言うアトベが一段とムカつく。僕は羽をバサバサはためかせて叫んだ。

辺りに僕の羽が舞い散る。いけない、これを片付けるのは美春だ。余計な事で忙しい彼女の仕事を増やしてはいけない。

「それじゃあ連れて来ますね」

僕達が言い争いをしていると、さっきの人を奥に残したまま美春がやってきた。

「ほら、行くよアトベ」

美春はそのままアトベのショーケースを開け、アトベを抱き抱えた。美春の腕の中で身を捩って抵抗するアトベ。

アトベに引っかかれて手や腕に傷が付いても顔色ひとつ変えずに歩いていく美春。

綺麗な美春の手を傷つけるなんて、何てことをしてくれるんだ!!

「ピーピー!!(アトベ!!美春に怪我させるなんて何考えてるのさ!!)」

「フニャー!!(知るか!!俺様は抱っこされるのが大嫌いなんだよ!!)」

「うるさいよ、シュウスケ。お客さんいるんだから」

「ピピー!!ピーッ(美春!!僕は美春の為に、)」

「メッ!!」

「……(何で僕が怒られるんだ……)」

うなだれる僕をよそに、美春はアトベを奥へと連れていった。僕も後ろから後を追う。

「一崎さん、この子ですよね?」

「っはい!!」

美春は、椅子に座っていたお客さんにアトベを手渡した。

アトベもまさかいつも自分を見ていたあの人が自分を抱くとは思っていなかったらしく、目を点にして常連さんの膝の上に座っている。

「珍しい。その子、普段は人に抱っこされるの嫌がるんですよ。よっぽど一崎さんが相性良いんですかね?」

嬉しそうに優しくアトベの頭を撫でる常連さん。その横には猫用のケースとキャットフード、その他書類や猫用グッズが並べられている。

この光景は、もう何度も見てきた景色だ。

「ピー(あーあ、また1匹減るのか)」

「にゃん?(ああん?なんの話だ)」

「良かったね、アトベ。今日から一崎さんと暮らすんだよ」

荷物を袋に詰めながら、美春はアトベに向かって言った。ポカーンと口を開けているアトベ。突然の話で頭が回って無いらしい。

「一崎さんね、アトベを飼う為に毎日様子見に来ながらコツコツお金貯めてたんだよ?」

「へへへ、毎日誰かに買われちゃってないか心配だったんだ」

照れくさそうにはにかむ常連さんは、アトベを撫でたまま、美春から赤いリボンを受け取った。

「これは僕からアトベさんに初めてのプレゼント」

そう言って常連さんは、真っ赤なリボンの首輪をアトベに付けた。薔薇の留め具がアトベに似合ってる。

「これからよろしくね!!アトベさん」

「……にゃあ(……フン、本当に変な奴)」

悪態をつくアトベは尻尾をしきりに振りながら一声鳴いた。

常連さんとアトベは、幸せそうに店を後にした。

少し静かになる店内。僕はアトベのいなくなったショーケースを片付ける美春の肩に飛び降りた。美春の首に頭をスリ寄せると、優しく頭を撫でてくれる。

「また1匹旅立っていったね」

「ピー?ピーピー(淋しいの?美春)」

「あはは。何だかシュウスケ、俺を心配してるみたい。大丈夫、これが俺の仕事だから」

美春は笑いながらショーケースを片付けていく。

「ピピー(僕はずっと美春の傍にいるよ)」

「くすぐったいよ。お腹減ったの?」

嘴で軽く啄むと、美春は首をすくめて身を捩った。


「ピー!!(違うよ美春!!)」

「待って待って、今おやつあげるから」

「ピー!!(だから違うって!!)」

全然解ってくれない。美春はエプロンのポケットからドライフルーツの林檎を取り出した。

とりあえず林檎を食べる僕。せっかく美春からもらったんだから、食べ物は粗末にしちゃいけないよね。

林檎美味しい!!美春最高!!

【おまけ】

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