テスト前で部活がない。さっさと帰るにも外は土砂降りでその気も失せた。仕方なしにあいつを引きずって図書室まで来たが退屈だった。テスト勉強に励む周囲に適当に目をやってから、前に座る女へと視線を移す。なまえはまったく手の付けた痕跡がない参考書を開くだけ開いて机に突っ伏している。何やってんだ。机の下の足をがんっと踏みつけると間抜けな声が上がった。

「ぎゃんっ」
「うるせえ」
「痛いんですが」
「おまえ余裕ぶっこいてる暇あんのか?言っとくが今回のテストで赤取ったら部活禁止の上オレに一万払うことになるぜ」
「後者は初耳なんですけど」

なまえの抗議に無視を決め込み窓の外へと目を向ける。相変わらずの大雨だ。当分はやまないだろうと憶測を立て舌を打った。こいつのテスト勉強の面倒を見るのも悪くはないが場所が場所だけに不如意だ。無意識に机に爪を立て歯噛みしているとなまえの物言いたげな目と目が合った。

「…なに見てんだブス勉強しろ」
「先輩、私は今日こんなところで油を売っている暇はないんです。だって今日は私のたん」
「誕生日だからって勉強サボる理由にはなんねーぞバカ」

冷ややかな視線と共に言えばなまえはぐっと怯む。図星を突かれたときのこいつの顔はなかなか良い。僅かに口端を吊り上げると、なまえが何かに気付いたようにはっとして机に身を乗り出した。

「というか先輩、私の誕生日知ってたんじゃないですか!朝は散々知らんぷりしといて!」
「うぜえ黙れ死ね」
「うわぁ信じられないそういうのって人としてどうかと思いますよ相手がザキ先輩とか瀬戸先輩だったら分かりますけどアハハハんぶッ!」

最高に腹が立つうえ図書室でぎゃんぎゃんうるさいため、とりあえず一発殴ってから図書室を出た。立ち去り際あの場にいた全員からの驚きの視線がザクザク突き刺さったがもうどうでもいいと思う。
廊下に引っ張ってきた女の腕を離す。頬を抑えながら何か訳の分からないことを言っているなまえをスルーし廊下を進んでいく。慌ててオレの後をあいつが追ってくる理由は、オレの荷物をあいつに持たせているからだ。なまえは横に並んだかと思えば心なしか嬉しげに言った。

「もう帰っていいってことですか?」
「は?馬鹿かおまえ、外見ろ。滝に打たれにでもいくのかよ」
「でも私、早く帰らないと誕生日ケーキお姉ちゃんに食べられちゃうんですよ」

ワンホールを一人で食うこいつの姉はどうなってんだ。想像しかけてやめる。なまえはオレの話を聞かずにまっすぐ昇降口方面へ足を進めた。おい待て誰が帰ると言った。せめて行くなら一人で行け。オレの荷物を持っていくんじゃねえこのクソアマ。すでに靴に履き替え傘も装備しているなまえに内心覚えてろよと毒づく。

「だって一人で濡れて帰るのって悲しいじゃないですか」
「ふざけんな」

一度傘で奴の尻をぶっ叩いてから腹を括った。勝手に一人で行かせておけばいいと頭では思いつつも付き合っているオレは一体何なのか。いやいつまでもここに居ても無意味だしそれなら濡れてでも帰るほうがどちらかといえば効率的か…。
馬鹿らしい。
さっそく外へ飛び出したかと思えば強風に吹き飛ばされそうになっている女を一瞥し頭を抱えた。とりあえずオレの荷物まで落とされては困ると考えなまえから荷物を奪い返す。

「うわ花宮先輩ずぶ濡れですね」
「てめーはその五倍ずぶ濡れだけどな」
「うっ」

傘もむなしく横殴りの雨に容赦なく打たれる。おいどうなってんだよ何で今日に限ってこんな土砂降りなんだよ。こいつ雨女か。なまえはもはや制服どころか髪までシャワー後と見紛うほどに濡らしていた。オレはまだしもこいつ傘さしてる意味ねえだろ。

「おい下着透けてんぞブス」
「えっマジ」
「嘘だよ…、なんて言うと思ったかバァカ。なんだその柄」
「ギャー!」

謎のチューリップ柄の下着を見られたことが余程嫌だったらしい。動揺を示した瞬間にあいつの傘が風に攫われていく。
「おい傘飛んでったぞ」
「……先輩絶対この下着のこと誰にも言わないで下さいよ!?」
「誰もおまえの下着話なんかしねーよ」
つーかあんな柄どこに売ってんだよ。不可思議だ。

「ってあれ?私の傘がない」
「だから飛んでったっつってんだろうが聞いてんのかブス」
「そんな!先輩!」
「言っとくけどいれねぇからな」
「じゃあその傘ください」
「死ね」

まさに濡れ鼠のなまえを放置して歩く。もう面倒見てられるかあんな女。あいつの場合傘があってもなくてもどうせ濡れるんだし、と思ったところで何か低く轟いた音を聞く。

「いまのおまえの腹の音かなまえ」
「え?先輩のじゃないんですか?」
「んなわけねーだろ、はっ倒すぞ」
「それじゃあ一体なんの音で…」

ゴロゴロピッシャーン、というけたたましい音がなまえの言葉を遮る。雷だ。かなり近い。げんなりするオレをよそになまえは何故かはしゃいでいる。ここまで馬鹿だと生きやすくて良いだろうなと一周まわって感心した。まあどうせ落ちることはないだろ。くだらない馬鹿は放っておく。再び踵を返したとき、耳をつんざく音が響き何事かと見れば、一本横の道に立つ木に見事雷が命中していた。
「………」
「………」

一瞬オレもなまえも動きを止めたが、その数秒後に一斉に走り出す。

「ギャァアア先輩!おんぶ!おんぶ!!」
「なんでだよ!」
「服が!張り付いて転びそう!」
「チッ」

水分をたっぷり含んだなまえの身体はいつにもまして重かった。
これ絶対明日腕が死ぬ。しかし雷に打たれるのも御免だ。とにかく屋根がある場所を探すか。すると背中のなまえが切迫した様子で声を上げた。

「先輩の家!ここから一番近いですよね行きましょう!」
「は?嫌だよおまえ汚いし」
「先輩も同じですけど!?」
「……」

仕方なく両人水浸しのまま家に行くことにした。



とりあえず適当な服に着替えさせひと段落する。髪は未だにずぶ濡れだが先刻と比べれば問題ではない。しかし雷雨は一向にやむ気配がなく、むしろひどくなっているような気さえした。なまえはこれでは確実に誕生日ケーキにありつけないと察したのか床に伏したまま動かない。邪魔だな。

「髪で床濡らすなよ」
「ショックすぎて落ち込んでいるので見逃してください」
「おまえケーキぐらいで何言ってんだ」
「唯一の誕生日プレゼントなのに…」
「寂しい奴だな」

なまえ曰くオレとつるんでいるせいで友達が減ったらしい。それは傑作だ。突っ伏すなまえの背中を片足でぐりぐり踏みながら薄く笑う。そのままこいつの繋がりがすべて切れるのなら、これほど面白いものはない。
不意に部屋の明かりがぱっと消える。停電だ。すかさず背中を踏んでいた足をあいつの腹と床の間に滑り込ませ蹴り上げる。「うぐっ!?」その衝撃によりなまえの身体がうつ伏せからぐるんと仰向きに変わるのを確認し奴の上へ馬乗りになった。

「痛っ、何を…」

邪魔な両腕を床に縫い付けて唇を重ねる。やはり冷えていたらしく唇は冷たい。部屋が真っ暗なためなまえの表情は分からないが身体を強張らせているあたり驚いているのだろう。構わず舌をねじ込み歯列をなぞる。口内はさすがに温かい。人の体温というものは本当に鬱陶しいほど不愉快だ。生ぬるいなまえの舌を散々弄んだ後、一度下唇に噛み付いてから離す。口元についた互いの唾液を舐めとったところで電気がついた。

「は…っ、い、いま、なっ…なにを…!」

顔を真っ赤に染めたなまえが口に両手を当てたまま後ずさる。いい顔だ。
おまえ毎年誕生日が来るたびに今のオレとの行為を思い出すんだぜ笑えるよな。

「…なんでしょう」



水無月さんお誕生日おめでとうございます〜!
遅れましたすみません!
花宮か宮地とのことでしたので、花宮に決めました(笑)
相手が彼ならなにかと赦されるような気がしますね^▽^さわやか
この度は企画ご参加ありがとうございました〜!
良い一年をお過ごしくださいませ!
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