「虹村先輩がスイカになる夢見た…。すごい速さで追ってきてね、食べられるかと思った!そしたら目隠しした青峰がメーンってやって何と虹村先輩スイカを割ったわけ!何が言いたいのかっていうとつまりスイカ割りだったのよ!」
「よかったね」

起きたらもう昼過ぎだった。というか夕方に近かった。赤司は私より早く起きてたみたいだけどそれでも昼時ぐらいに起きたらしい。相当疲れてたんだね私たち。
ベッドから出て身体を伸ばす。やけに全身が痛いと思ったら筋肉痛だった。そりゃあれだけ逃げ回ったりなんだりしてたらなるよね。赤司は普段バスケやってるからならないかもしれないけど!私は運動なんてしていないのだ!淑女ってやつだよ。えっへん!

「ポンコツは何かと虹村さんのこと好きだね」
「うん」
「アップルパイとどっちが好き」
「アップルパイ」
「そう」

そんなことを言うからてっきりアップルパイでも作ってあるのかと思ったけど違った。
期待させて落とす!これぞ赤司の必殺技である。私も幾度となくこの技にかかって痛い目を見てきたんだよ。というか何で私の大好物がアップルパイって知ってるんだろうこのボンボン。言った気もするといえばする。今度作ってほしい。
それはそうと夕方かぁ。どうしよう。

「出かける?私、護身用の釘バットが欲しい」
「金ないから。後、暗くなってから出かけるのは危険だとここの従業員に言われたよ」
「おばけがでるの?」
「あーそうそう」

…絶対面倒くさくなったよ赤司。
ちょっと冗談言っただけじゃんよー!ちぇっ、これだから今時のボンボンは困っちゃうよ。
コップの水をがぶ飲みしてから仕切り直し。何かあるのかと問えば赤司は窓枠に座り私を見た。

「霧の団とかいう賊があるらしくてね。盗みをしたりなんだりとって話」
「霧の団?ロケ」
「ット団じゃない。テロリスト集団だ」

私の言葉の先を読まれて悲しい。
それにしてもテロリスト集団って。どこ行っても物騒だなぁ。ああ、いやだいやだ!
私たちが行く場所が物騒なのかこの世界全体が物騒なのか。どっちも嫌すぎる。
こう考えると、どれだけ私たちがいた世界が平和だったかってことよ。私が預かり知らぬところでは色々あったのかもしれないけど身の回りだけは平和だったもん。それなのにテストで赤点とっただけで悲劇的になってたあのころの私はエルボーされろ。

「じゃあ外に出れないの?」
「え?別に出てもいいよ。オレは行かない」
「なら私も行かないよ!」

赤司無しで行くわけないでしょう。
無謀なことはしないタイプなのである。たぶん!
でもそうなると退屈だね。一日を無駄にしちゃった感じが否めないよ。かといって危険に身を投げることはしないけど。トランプとかないのかなぁ。まさるさん持ってないかなトランプ。
って、まさるさんといえばあの人たちどこに行ったんだろう。姿を見てない。

「緑間たちなら出かけたようだよ」
「緑間じゃなくてシンさんね。出かけたの?危ないのに」

あっ、でもまさるさんはあの筋肉だし強いんだろうな。なら大丈夫なのかもしれない。
私が一人納得していると赤司は急に黙り込んで床を見つめていた。…何というかあの真顔は怖いと思う。それに、赤司がそういう顔して黙ってるときって大抵ろくなこと考えてないよ。絶対!断言できるよ私。
恐る恐る顔をのぞき込むと不意に視線をあげた赤司と目が合った。びくり。

「…よし、行くぞ」
「どこ!?」
「緑間の部屋だよ」
「…………………はぁ!?」

ほらね予想的中だよ!これだから困るよこの人!
ずんずん進んで部屋を出る赤司の後をあわてて追う。私は本当に気乗りしないんだけど赤司と離れるのマジ不安だから!仕方なくだよ!着いていく。
しかし赤司のやつ一体何を思いついたんだろう。怖いことじゃないといいなぁ。
私たちの隣の部屋の前まで来たところで立ち止まる。何の戸惑いもなくそのドアに手をかける赤司にはらはらしつつ。

「…閉まってるな」
「そりゃそうだよ!赤司みたいに侵入してくるやつがいるからね!」
「窓から行くか」
「赤司くーん!」

マジか…本気なのかこの人…。確かに目的のためなら何でもする人だけど命までかけるってどうよ!?窓から落ちたら死ぬよここ何階だと思ってんだ。
いや赤司は落ちないかもしれないけど私は落ちるよ。なめんな!高所恐怖症ではないけど落ちるんだからね。
自分の部屋の窓枠に手をかける赤司に絶望を感じた。本当に行くんだ〜!?
でも私たちシンさんたちのお陰でここに泊まれてるわけなのにこんな恩を仇で返すようなことしていいのかなぁ。

「来いポンコツ」
「赤司本当に外道だよぉ〜」
「…オレはひとつ善をくれただけでそいつを善人だとか悪人だとかと簡単に決めつけたくはないし、決めつけられたくもないんだよ。知るべき事を知らない限りはね」
「夜景をバックにかっこいいこと言ってるけど結局のところ外道だよね」

珍しく突っ込みを入れたにも関わらず無理矢理腕を引っ張られたせいで最終的に忍び込む羽目になった。何してんだろう私。ごめんねシンさん。でも今日退屈だったからちょっと楽しいと思ってしまった私って悪い子だわ!とどのつまり私も赤司と同類ってことね。
シンさんたちの部屋は大きかった。てっきり私たちの部屋と同じものかと思ってたのに!なにこれ!でかい!

「本当に何者!?」
「遣随使の話は本当かもな」

鋭い目を光らせながら部屋を物色する赤司にはプロの泥棒も顔負けだと思う。特に目立った高級品とかは無いけど資料とかそういったものがたくさんある。そろりと一枚の紙に目を通してみるも読めなかった。…日本語じゃない!何語!?
バルバッドの壁の落書きでも思ったけど私たちが知ってる文字と違う気がする。言葉は同じなのに。不思議。
どれを見てみても日本語は見あたらない。これじゃシンさんたちが何者なのかも分かんないよ。

「文字が読めないってかなしいよね…赤司」
「…恐らくはどこかの国の王かそれに準ずる者だな」
「何で分かるの?」
「ここらの資料は図からも見るに貿易に関するものだ。それにこの渡航書も一般のそれとは思えない。おおかたバルバッドと貿易を開始もしくは再開するために来たんだろう」

……ちょーっと赤司の言ってる意味が分からないですねぇ。
理解できてない私を放置したままどこからか持ち出した地図を広げた。赤司は渡航書と地図を見比べて少し考えるようにした後、ひとつの島を指さした。

「ここが緑間の国か」
「シンさんね!」
「さながらカメハメハ大王だな」
「ツッコミ入れて欲しいの赤司?」

やめてよ本来私はボケ担当なんだから。
というか赤司ってチートだなぁ。よくこれだけの情報で解答を導き出せるよ。人間技じゃないよこんなの。
呆ける私をよそに赤司は口元に手を当てて思考した。赤司バスケじゃなくてスパイとか潜入捜査とかそういうのやったほうが良いんじゃないかな。いや、マジで。
赤司は一通り漁った物を綺麗に元通りに戻してから息を吐いた。

「緑間は利用するには最適だが信用するのは良くないな」
「それまとめ?」
「そうだよ。さあ戻ろうか」
「うん…、あ、待って待って!」

怪訝そうな赤司の視線を浴びながら物を拾って見せる。

「お金落ちてた!」
「戻してきなさい」

二度目の窓渡りは死ぬかと思った。一回足踏み外して落ちそうになったけど赤司が背中を蹴り上げてくれたおかげで何とか滑り込んで部屋に戻れた。落ちそうになったからって背中をとんでもない力で蹴られるなんて思ってもみなかったけど背に腹は変えられないよね。納得です。
赤くなった背中を押さえてると赤司からため息をこぼされた。なんで…。
部屋から改めて外を眺めてみると霧が深かった。もうとっぷり日も沈んで月が輝く空は綺麗。あれ?下はあんなに霧が深いのに何でだろう。

「何だか騒がしいね」
「そういえばおまえポケットの中に何入ってた」
「え?小銭だけしか入ってなかったけど…赤司は?」
「おまえのシャーペン」
「なんでだよ!」

言われてみれば最近シャーペン一本消えてた気がするわ!
くわっと突っ込めば不愉快そうに思い切り目を細められた。

「借りたままで忘れてたんだよ人聞きが悪いな」
「…ま、まあいいよ。それちょっとお気に入りのやつだから。返して」
「何、虹村さんから貰ったのか?」
「ううん、その尖ったフォルムが好きなの」
「ハッ」

鼻で笑われた。
結局返してくれないし何なんだ赤司!私のシャーペン!なんだかんだ中学一年のころから愛用してたのに!
悲しみに打ちひしがれる私を慰めんとする人はこの空間にいない。よく考えたら元の世界でも私を慰めてくれる人なんてそんなにいなかったような気がしてる。強いて言うなら黒子くん。
部屋の椅子に座る赤司はシャーペンをポケットに戻した後、不意に手をこちらへ突き出した。…なに?握手?
手を握るとはたき落とされた。エー…。

「…頭」
「頭?」
「おかしいから」
「突然罵倒するのやめてくんない!」
「貸して」
「…………」

…貸す?首を傾げる私の頭を痺れを切らした赤司ががっと掴んだ。イッテェ!
椅子に座る赤司と床に正座する私。そんな妙な状況の中で赤司は私の頭を掴んだかと思えばするりとその手で髪を梳いた。お、おお!?こ、これ…。
これはもしかして…撫でられている!?
顔があげられず赤司の表情も見えないので仕方なく自分の膝を見つめる。どういう風の吹き回しだろうか…。何となく嫌な予感がするのは気のせいかな。気のせいだと思いたいけど!

「オレの傍から離れるなよ」

私の頭に手を添えたままそう言った赤司に固まった。

「……………それってもしかして」

ドカーーーン!!!
突如部屋の壁が破壊される。
破片が降りかかる中で現れたのは、いかにもといった感じの怖いお兄さんたちだった。

やっぱりかよ!!!

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