「しっかしアレだね、本当にこれからどうしようか」

バルバッド名物だというエウメラ鯛にかぶりつきながら、前に座る赤司を見る。
ちなみにこの豪華な料理の数々は、言わずもがなじやはるさんとまさるさんの奢りだ。元々いた世界でもこんな豪勢な料理食べたことなかったよ!異世界だから食文化自体違ってたらどうしようかと思ったけど、それほどぶっ飛んだ事はなかったので良かった。というか、今まで食べたものの中で一番美味しいんじゃないかな!
赤司は、水の入ったコップを口元につけながら少し考える素振りを見せた。

「とりあえず金がない分にはどうにも」
「赤司ってば札束のひとつやふたつ持ち歩いてないの?」
「生憎だがオレは札で汗を拭くような人間じゃない」

思わず想像しちゃったよ。
まあ、仮にお札があったとしても多分この世界じゃ使えないんだろうな。でも結構これって死活問題だよね。お金が無かったらなにもできない。いつまでもまさるさん達にお世話になるのはダメだしね。あ、お礼もしなきゃいけないんだった。どうでもいいけどお札とお礼って字似すぎだよね。紛らわしい。
まずは働くことが第一優先かな。でも私ってバイトしたことなかったなぁ。大丈夫かな。赤司もだけど。

「私働くなら花屋とかがいいなぁ」
「小学生の女子かお前」
「私が小学生のときの夢はウサギだったよ」
「人外か…」

皮肉なことに、この世界にくる原因になってるのかもしれないりんごもウサギ型だった。でも今更ながらそれが原因じゃないかもしれないって思い始めてるよ。だってあのときおかしかったのってテレビだもん。真っ白な光が私の目を攻撃してきたんだよ…。さながらバルスだよ。びっくり。
そういえば何で赤司も一緒に来ちゃったんだろ。確かにあのとき同じ部屋にいたけど。
…考えても仕方ないか!

「赤司の小さい頃の夢って何?あ、待って当てる」
「いいだろう」
「…………ライ…オン!」
「何で人外になる」
「分かった!私のお婿さん!なーんちゃって!」
「殺すぞ」

殺される。
エウメラ鯛を切っていたナイフを向けられて震えた。元々冗談に聞こえないのに、この世界に来てから死を身近に感じすぎてさらに赤司の言葉が冗談じゃないような気がしてる。マジ怖い。
でも死ね、じゃなく殺すっていうあたり赤司らしいよね。他人任せはいけないってことなのかな。
鳥っぽいものの骨を口にくわえていたところで。

「赤司くん、なまえさん」

じやはるさんだ。後ろにはまさるさんもいる。後、もう一人黒髪の男の人。
誰だろう…。赤司もじっとその人を見つめていた。それに気付いた黒髪の人は、にこっと人当たりの良さげな笑みを浮かべて言う。

「やあ、君たちが奴隷商人から逃げてきたという勇猛果敢な少年少女だね」

私は、絶句した。
絶句せざるをえなかった。
だって、だって。その、声は。

「緑間!?」
「緑間」
「えっ?」

思わず赤司とハモった。
それもそのはず、目の前の黒髪の男性の声は緑間に酷似していたからだ。
…って、なんで!?こんなことってあるの?いやでも世界は広いからそりゃ緑間に似た声を持つ人の一人や二人いてもおかしくないか…。
黒髪の人は訳が分からないといった様子をみせたが、すぐさまじやはるさんがフォローに入った。

「二人とも、この方は私たちの上司です。先ほど到着なさったようで」
「上司…」
「…改めまして。オレはシン!」
「真太郎?」
「緑間じゃん!」
「緑間だな」

キリが無かった。
とりあえず緑間…じゃなかった、シンさんはじやはるさんやまさるさんを上回るボンボンだということが分かった。すごい人たちに出会ったもんだよ本当に。
その後はシンさんと少し話をした。どこから来たのか、なぜ奴隷商人に捕まったのか、どうやって逃げたのか、とか。異世界から来ましたとはさすがに言えなかったけど。捨て子であると赤司が盛大な嘘をついてその場を乗り切った。今更だけど捨て子って…。無粋な質問をしたと申し訳なさげにするシンさんに良心が傷んだ。

「いい人そうだったよね、シンさん」

例のごとく高級風呂からあがってそう言えば、外を眺めていた赤司は顔をしかめた。
あれ、違ったかな。水が滴る髪を拭きながら首を傾げる。でも確かにあんまり赤司と相性が良さそうではなかったかもしれない。いや、でも私は良いと思ったけどなぁ。親しみがもてる声をしてるしね!ここが重要。
赤司は窓際に座っていた腰をあげると、私からタオルを奪った。見上げると肩を押されてベッドに尻をつく。何すんだと言う間もなく、奪ったタオルで髪を拭いてくれた赤司に納得した。水で床を濡らすんじゃねぇということだったのか。

「探られてるような気がしたな」
「…シンさんに?やだなぁ赤司ってば、ちょっと人間不信になっちゃってるんじゃない?ダメだよぉ〜ビリーブ!」
「この髪むしってやろうか」
「すいません」

髪は女の命なんだからね!
一瞬手を止めた後、また私の髪を拭く作業を再開した赤司に安堵する。よかった毟られなくて。そういえばシンさんの髪の毛長かったなぁ。男の人で髪が長い人ってせいぜい紫原あたりしか知らなかったから、驚いた。赤司も伸ばしたらいいんじゃないかな!より強そうに見えるよ絶対。鬱陶しいとか言って切っちゃいそうだけどね。
…あーあ、でも今日は本当に疲れた。背を倒して赤司に寄りかかるとぶん殴られるような気がしたけど、思いの外何も言われない。赤司も疲れてるんだと思う。

「明日はどうしよっか」
「そうだね」
「ゆっくりできるといいな」
「そうだね」
「そういえばシンさんたちってどこの国の人なんだろう」
「そうだね」
「…赤司さっきからそうだねしか言ってないけど眠いの」

振り向いたら既にぶっ倒れていた。
エーッ赤司死なないで!がんがん身体を揺すると鋭い蹴りが腹に入った。いたいな!ああそういえば赤司って低血圧なんだった。
…これ以上睡眠を妨げるのは自殺行為になりかねない。大人しく自分のベッドで寝よう。と思ったけどこっちが私のベッドじゃん!
それと、何だかこんなに大きいベッドで一人で寝るのは心細いから。
言い訳もいいところに赤司の横にもぐった。

はあ〜…お母さんにお父さん元気かなぁ。私がいなくて寂しがってないかな。後、兄も。こっちにいる間の学校とかって一体どうなるんだろう。ま、まさか無断欠席に…!?
いや待てよ。
そもそも私たち、突然消えちゃって行方不明ってことになってるんじゃね?どうしよう捜査とかされてたら。困る。
そう考えたら心配になってきた。
うわー、怖い。みんなに会いたい。とりあえずお母さんとお父さんに会って手料理が食べたい。それからさつきちゃんと青峰、紫原にその他もろもろと話がしたい。

「……………」

色々考えてたら寝れなくなってきたよ!
すっごく心細いんだけど!なにこれ!寝れない!
何で赤司寝れるの?馬鹿なのこの人?何でこの状況で寝れるの?異世界だよここ!?
って思ったけど私も奴隷商人に捕まってたとき寝てたわ。人の事言えない。
…赤司起きないかな。いや起こすと殺されるから起こしはしないけどね!命を大切にする女だよ私は。

仕方ないので、赤司の手を握って寝た。
昔お母さんと一緒に寝てたときも、寝れない夜はこうしてたもんだよ。
…いや!?ホームシックなんかじゃないよ!!?

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