「逃げよう!っていうかもうこれ逃げるしかないよね?」
「…ブハハハ!馬鹿言ってんじゃねぇ小娘!さっき言ったろ、逃げられねぇってな。オレも何度かこの目で脱走を試みたやつらを見てきたが…成功したやつは一人もいねぇ」

うるせぇゴリラ!
成功するしないに関わらずこのままだと奴隷行きだ。そんなのは御免被る!だって、ほら…奴隷ってあれでしょう。汚いおじさんに跪いて足を嘗めたりイヤらしいことの相手になったり…。
「イヤそれは少し違うな」
違った!

「まあ、それはそれとして。逃げる方法の一つや二つあるんじゃない?ほら、この石ころで地下に穴掘るとかさ!」
「一生やってろ」
「そんなぁ!」

赤司まで私を見放すのね!ふん、いいよそっちがその気なら私だって一人脱獄してやるわ!脱獄って私なんにも悪いことしてないんですけどね!ははっ
がつがつ地味に床を掘る私をよそにゴリラと赤司が話をしてる。おうおう意気投合してるみたいじゃない?私を仲間はずれにしちゃってさ!いやもう全然気にしてないけどね?私は脱獄する!

「それで…一定時間になると商人が見回りに来るんだな?ゴリラ」
「ああ、大抵はな…。オイてめぇ誰がゴリラだ」
「分かった。オレとこのポンコツはここを逃げる。お前はどうする」
「…ハァ?本気で言ってやがんのか?殺されるかもしれねーぞ」
「そうか」

…しっかし延々と石ころで床殴ってるのも疲れたなぁ。いや、マジで。この調子でいくと本当に赤司が言ったとおり一生かかりそうだよ。どうしよう。
かと言って奴隷なんて嫌すぎる。
あーあ、こんなことならもっと人生楽しんでおくべきだったなぁ。ろくなことしてないよ私の人生…。しかも最期に食べたものが赤司特製うさぎリンゴだなんて。そんなことあっていいはずがない…のに……。

ああ、せめて結婚くらいしてから死にたかった。
黒子くんとさつきちゃんの結婚式も楽しみにしてたのに。あ、どうなんだろ?さつきちゃんはやっぱり青峰と結婚するのかな。間をとって黄瀬?…うーん。何はともあれ、さつきちゃんのウエディングドレス姿見たかった。きっと綺麗なんだろうなぁ…こう、おっぱいが……。

「なまえ!」
「ギャッ!?」
「起きろ」
「…………」

ビンタで起こさなくてもいいんじゃないかと、思う。
いや、まあこの際それはいいとしよう。本当なんて心が広いの私。それにしてもいつの間に寝ちゃったんだろう。こんな状態で寝れるって我ながらどうかしてるわ。
というか、あれ、何で起こされたんだっけ?

「いいかオレが合図したら走れ」

え?何言ってるの赤司…。一から説明してくれと言おうとした口をまたもやビンタで閉ざされた。女の子を二度もビンタする赤司もどうかしてるわ!
と、食い下がろうとしたのも束の間。数十分ほど前に聞いた固い足音がこっちに向かってきている。話に聞いていた奴隷商人というやつだろうか。
な、何が始まるっていうんだ…。じわっと汗が流れる。
商人のやつが私たちの牢の前まで来た。し、静かにしていないと…。きっとアレだよ、ちょっとでも動いたりしたら鞭打ちだよ。ここは絶対動いたらダメだよ赤司。

「おい」

赤司ぃーー!!!
てめっこの野郎!私にはアレだけ動くな声出すな息するなって態度とってたくせに!自分は棚上げ!?信じられない!死ぬわ!もうコレ死因赤司だよ!赤司のうさぎリンゴでこんなところ来ちゃった上に赤司が声出したせいで死ぬなんて!

「こいつがトイレに行きたいらしい」
「ちょっ!赤ぶっ」
「……トイレだぁ?」

ほら商人スッゴく怖いじゃん!ヤダ殺される!
しかも何で私のトイレ話をここで持ち出すの!いや確かに行きたかったけど!今それどころじゃないでしょ!
何か恥ずかしいわ!私が!

「その場ですりゃいいだろがゲハハハ」

商人てめぇ乙女に対して何言ってんだ面白くないんだよ!

「それだとオレがすごく不愉快な思いをするハメになる。せめてそっちのゴリラと同じ牢に入れてくれ。そのほうがマシだ」
「赤司ちょっと待って!?」
「……チッ、まぁいいだろう」
「いいの!?」

もうちょっと赤司に厳しくしたほうがいいんじゃないかな商人。だってこれって私が一人ぼっちになるってことだよね?何それ怖すぎる。
というか赤司のやつはどれだけゴリラ気に入ってるの?私たちが長い年月を越えて築いてきた絆はどうしたよ!
ガチャガチャと牢の鍵が外される音を聞きながらうなだれた。いや…ショックだよ本気で。
「い゛っ」
立ち去り様に足を踏まれた。何、追い討ち?赤司って鬼?
「ボケッとするな。目を開けてろ」
…鬼だわ!

商人が鍵を開けた。
ああ、これで赤司ともおさらばか…。今思えば短い付き合いだった気もするなぁ。私ゴリラ以下だしね!ははは!何かもう…この世のことすべて許せる感じがしてきた。死んだらきっと私菩薩になれる。やった、

「グァアア!!」
「あ!?」

急に鈍い音がしたと思えば商人の悲鳴が聞こえた。
えっ…何事!?

「走れなまえ!」
「え!!?」

赤司の声で咄嗟に走った。
あっ、鍵が開いてる…。そうか!商人が鍵を開けたこの瞬間に逃げるって作戦だったのね!?でもだったらやる前に言ってほしいわ!正直ついていけない!
ぶっ倒れてる商人の横を走り抜ける。腹押さえてるけど何やったんだろ赤司。もう赤司には逆らわないようにしよう…。
私の後に続いて赤司も走る。足の鎖が走るたびにジャラジャラうるさいことこの上ないんだけど!これ絶対、他の人に気付かれるよ!?

「オイ!何してやがる!!」

ほらぁーー!!
やばいってやばいって!私たちの前にすっごい大きい人が立ちはだかっている。どうすんのコレ。私虹村先輩じゃないし空手なんてできないよ!かといって護身術なんかも習ってないんだよ。
こんなことならやっておけば良かった!テコンドーとか!

「赤司!どうしよ、うっ!?」

腕が抜ける勢いで引っ張られた。あっ、横に細い通り道があったんだ。さすが赤司!ここならあの大男も入ってこられないよね!
やっぱり持つべき物は赤司だよ。納得。
というかこの建物って本当何なんだろう。私たちが入れられてたところの他にもたくさん牢がある。人も結構入ってるし…奴隷、とか。
ああ嘘、ちょっと半信半疑だったのにこれじゃあ信じる他ないじゃないか!

「奴隷が二匹逃げたぞ!捕まえろ!」

また見つかった。っていうか…え!!?

「何アレ剣!?本物!?銃刀法はどうした!!」
「オレたちも使えるもの探すぞ」
「えっ!?う、うん」

使えるもの…って何だ。
剣とか銃とか?いやいやそんなもの落ちてるわけなくね?RPGゲームじゃあるまいし…。
ここになんか大きい箱があるけど何だろう。食べ物だったらいいなぁ。そういえばずっと食べてない気がする。お腹すいた。第一希望はローストビーフ!第二希望はスペアリブで!開けます!!

「…なんだろこれ?」
「は?」
「ローストビーフでもスペアリブでもなかった…」
「でかしたポンコツ!」

でかしてるのにポンコツって何だ。
赤司は箱の中の玉?というか球体のものを取り出すと、追っ手が迫ってきている方向目掛けて投げた。赤司野球部でもいけたんじゃない、と思ったところで身体を倒される。床に顔面を打った。
「痛ッ!?何すんの赤」
ドカーン!
言葉を言い切らないうちにとんでもない爆発音を聞く。…爆発!?
爆風が襲いかかる中、赤司に無理矢理立ち上がらせられて、よろけながら再び走る。ふと後ろを振り返ってみれば、粉々になった壁と倒れる追っ手の商人たち。さっき赤司が投げたのってもしかしなくても爆弾…。

「ちょ、死んでないあの人たち!?」
「オレに逆らうヤツは皆殺しだ」
「怖いわ!」

結構追っ手の数を減らしたのはいいけど、この建物どうなってるの。出口もなにも分からない。地図ぐらい貼っておいてほしいよね。不親切だよ!
牢が並ぶ通路を駆け抜ける。今更だけど赤司ホント足速い。今にも転びそうなんだけどこれは私の足が遅いからじゃなくて、鎖が非常に邪魔だからである。勘違いしないでね!
いい加減この鎖もどうにかしたい。うるさいし邪魔だし最悪だよ!

「ってあれ!?赤司!?」

赤司がいない。
えっうそ、ちょっと私が鎖に目を逸らした隙にどこいっちゃったのあの人。いや足の速さでどんどん距離あいていってるなと、は思ってたけどまさか見失うとは思わなかった。ど、どうすれば…。

「見ろポンコツ!」
「赤司!どこ行って…ん!?」

通路の横の倉庫らしきところから出てきた赤司に安堵するのも束の間、その手に持っている小刀に血の気がひいた。嬉しそうな赤司が持つぎらぎら光る小刀。

「こ、怖い怖い怖い!赤司が持つとすっごく怖い!」
「え?何か言ったかい」
「うわぁ!こっち来るなぁ!」
「オラァ!」
「ギャァアアア!」

ガシャーンッ!
死ぬ、殺される…!赤司はヤバいヤツだとは思ってたけど、まさかこんな躊躇なく私に刃物を向けてくるなんて!
どんな教育してんだよ赤司父!!

「鎖を切ってやったんだから礼の三つや四つ言ったらどうかな」
「え…あっ本当だ!何だ、そういうこと…ってこういうの最初に言ってくれない?心臓止まるわ!」
「よし、これで気兼ねなく走れるな」

私の話も右から左へ受け流して自分の鎖を切る。鎖って小刀で切れるものなのかと思ったけど、そんな常識赤司に通じるわけもなかったので気にしないことにした。
後方に追っ手の姿を捉えた。まだ追ってくるの!?しつこいにも程がある。赤司に腕を引かれて走り出す。いい加減体力の限界なんだけど!鎖外れたけどやっぱり違うわ!私の足遅いわ!ごめん赤司!

「もう無理ぃ!座っていい?座るよ!?」
「ポンコツが!ぶち殺すぞ!」
「マジで!!」
「チッ…仕方ない。伏せろ」
「え?」

足をかけられて否応なしに地に伏した。
その直後。
ドッカーン!!
今日二度目の爆発。超至近距離で。あと数メートル近かったら爆破されてた絶対!!
爆風によって瓦礫と埃が舞う。私の頭を掠めていった壁の破片に思わず肝が冷えた。
今日だけで何回死にそうになってんのかなコレ…。

「っていうかさっきも言ったんだけど爆弾もう一個隠し持ってるなら先に言ってくれないかな!」
「予備として持っておきたかったのにお前のせいで使うハメになったんだよ」
「予備って何!?」

まさかこの後もこんな思いをする可能性があるというのか。悪い冗談だなぁ。
生きて家に帰りたいものだ。
…まぁ、とにかく。爆弾で壁が破壊されたおかげで外には出ることができた。久し振りに日の光を浴びた気がする。太陽ってこんなに暖かかったのね!すてき!

でもなんで目の前が一帯砂漠なんだろう。

「…鳥取砂丘?」
「初めて来たよ」
「うん私も!」
「………」
「…………」
「……………」
「…いや違うわ!絶対違う!ここどこ!」

見えるもの全てが砂。地平線まで見えるもん相当広いよこの砂漠。
……どうするのコレ?
歩いていけば途中でぶっ倒れるのは目に見えてる。それにどっちに進めば何があるか、なんて一つも分からない。いよいよ絶体絶命。
途方に暮れる私をよそに、赤司がどこかへと消えた。あの人急に姿くらますのやめてほしい。ビビるから。赤司がいなくなったら私本当に生きていける自信ないよ。
何でこんなことになったんだ。

「見ろポンコツ!」
「ずっと思ってたんだけどポンコツって私のこと?」
「他に誰が居る。それはそうとほら、馬を見つけた」

馬!?
その言葉通り赤司の横には馬がいた。立派な馬だ。奴隷商人のものだろうか。ちゃんと手綱もついてる。
………。…ちょ、ちょっと待ってね。今すごく信じられないことを想像しちゃったけどまさかね。そんなわけないよね。

「その馬をどうするの?」
「どうって…お前は本当に馬鹿だね。乗るに決まってるだろう」
「…乗る?」
「乗る」
「乗ってどこへ?」
「とりあえずフィーリングで進む」

私も大概だけど、この人結構アホなんじゃないかなぁ。
確かに赤司って趣味が乗馬っていうぐらいだから、馬に乗ること自体は問題じゃないんだろうけど!だけどそんな軽いノリで!デートで映画の次はどこに行く?みたいな勢いで砂漠を進んでいいものなのか、いや、良くない!
抗議しようと赤司に視線を移すと、ヤツはもう既に馬に乗っていた。
…マージーかー!

「早く乗れ」
「これが馬じゃなくて自転車だったら良かったなあ!」

尻が痛い!

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