目を覚ますと牢の中にいた。

「…なにこれ」

ぽつりと思わずそんな言葉が漏れるのも無理はない。
だって、よく聞いてね。私さっきまでりんごを食べながらテレビを見てたわけ。うさぎ型のりんごだよ。頼んでもないのに赤司がうさぎ型に切ってきたから、珍しいこともあるもんだなって感心してたの。
そしたらコレだよ。ひとつめのうさぎリンゴを咀嚼したところでテレビが真っ白になって。うわっ眩しい目がァ!と悶絶して気付けば冒頭だよ。

訳が分からない。

しかもよく見れば足に鎖がついてる。何だろう。牢の中で足に鎖をつけられてるこの状況って一体。
あ…、待って待って!これってもしかして、

「拉致監禁!?」
「しっ!うるさい」

急に誰かから口を塞がれた。
えっビックリした!動揺してて気付かなかったけど私の他にも人がいたらしい。牢の中は薄暗くて視界が悪いことこの上ないんだけど、その声にはすっごく聞き覚えがあった。
まさかね!そんなわけないよ!とかなんとか思いながら目を凝らしてみると、どうにもこうにも赤司だった。
…いや、いやいやいや。

「なにやってんの?赤司」
「こっちのセリフだ」

一瞬赤司が!?私を監禁!??と思ったけど違った。赤司の足にも重々しい鎖がかけてあったから。赤司の趣味というわけでもなさそうだ。
赤司は警戒心丸出しで他に人がいないことを確認すると、私の横に腰を下ろした。ジャリ、と動くたびに鎖の音が響く。なんか赤司に鎖って心なしかエロスを感じるな。
それはそうと。

「ここどこ?」
「さあな」
「赤司にも分からないことってあるの?」
「お前オレを神か何かだとでも思ってるのか?」

違うの!?と思わず声を荒げたらまた煩いと一喝された。
うん、まあとりあえず。何故か私と赤司が捕らえられてることと、ここがどこか分からないことが分かった。それ結構なんにも分かってないんじゃね、なんてツッコミはお呼びじゃない!ポジティブに。
どう考えたって普通じゃないことぐらいは理解している。そんなときこそポジティブに行けって青峰だか…虹村先輩だか誰だか…が言ってた気がする。
曖昧極まりない思考をひとり繰り広げていると隣の赤司が口を開いた。

「オレが思うに」
「うん?」
「ここは異世界だろう」
「…………………笑っていい?」
「ぶん殴るぞ」

殴られるのは御免なので笑わなかった。
いやしかし赤司の口からそんな言葉が聞ける日がくるとは思わなかったね。ちょっと赤司ってば漫画の読み過ぎなんじゃない?と思うも赤司が漫画読んでるところ見たことあったっけ?無いような気もする、けど…あれ?
って今の問題はそこじゃない!

「異世界ってなに?」
「異なる世界」
「ごめん、そこは分かる」
「じゃあ聞くが」

えっ私が先に質問してるのに。
まあ、いいけどね。赤司とはそこそこ付き合い長いから、ヤツの性格は分かってるつもり。それに何より私って心が広いしね!
改めて赤司に身体を向ける。この牢、窓もないしじめじめしてて何だか今更ながら不気味だ。いや、怖くないけどね?

「お前、目覚める前何してた」
「テレビ見てた」
「テレビを見てて普通この状況になるか?」
「ならないね」
「ならないだろ」

だから異世界だ、と。つまり名探偵アカシくんはそう言いたいわけだ。なるほど。分かった。
それなら次はこの私、名探偵なまえちゃんの超推理をお見せしようではないか!
…まず。テレビを見てたでしょう。バラエティーものの番組だったと思う。それでお腹が空いたから赤司にりんごを剥いてもらった。そしたらそれがうさぎ型になってて…………。

「あっ!!」
「だからうるさいって言ってるだろ潰すぞ」
「何を!?あ、喉か…。じゃなくてね!分かったよ!こんなところに来ちゃった原因!」
「違うと思う」
「まだ何も言ってないわァ!おねがい聞いて」

はあ、と心底うざったそうな溜め息いただきましたー!傷付いてなんかない。
何だよ言ってみろよと言わんばかりの鋭い瞳が私を映したので意を決する。

「赤司のうさぎリン、ゴフッ!?」
「しっ…誰か来た」

またもや赤司に口を塞がれた。
えっちょっと待ってよ私の話聞いてたこの人?結構決め顔で言ったのに恥ずかしいじゃん。
異議申し立てをすべくもがくも耳元で腹行くか、とか恐ろしいことを囁くので大人しくすることにした。腹を殴るのは勘弁してほしいものだ。

こつこつ、と固い足音が聞こえてくる。あと、鎖の音も。どんどん近づいてくる音に緊張した。
誰、だろう。一人じゃない。二人…いや、三人かな。思わず冷や汗が背中を流れた。いやだなぁ。

こつ、という足音が私たちのいる牢の前で止まった。私の口を塞ぐ赤司の手に力が入ったのが分かる。緊張してるのかな、赤司も。
やってきた恐らく人間と思しき影に目を凝らす。暗くてよく見えない。私って鳥目だから暗いところは苦手なんだよね。赤司なら猫目だし見えるんじゃないかなぁ。
見えるかどうか聞こうとした瞬間、錆びた金属が擦れるような音が響いて思わず肩を揺らす。

「おら!入れ!」

声のあとに、人が倒れ込む音を聞いた。何だろう。私たちと同じように牢に入れられているのかもしれない。
鎖の音もする。でも私たちの牢が開けられた感じじゃなかったな。この牢の向かいにもまた牢がある…?
何だか恐ろしくなってきた。

「ねぇねぇ赤司…」
「なんだ」
「トイレ行きたい」
「殺すぞ」

まさか生理現象に対してそんな暴言が返ってくるとは思わなかったよ。
人を牢に無理矢理入れた男が去っていく足音を聞きながら、そんな会話を繰り広げた。いや、だって怖いとトイレ行きたくなるでしょう。仕方のないことだと思う。
とりあえず我慢しておく。でも、これで膀胱炎になったら赤司に治療費払ってもらう。よし。

「…おい、お前らも…捕まったのか?」

突然聞き慣れない声がしてビビる。咄嗟に赤司に頭突きをしてしまった。でも特になにも言われなかったから安心した。
というか、誰の声だろう。さっき牢に入れられてた人かな。ちょっと声のほうへ近づいてみる。うっすら厳つい男の人の姿が見えた。
…厳つい!強そう!虹村先輩より強そう!

「奴隷狩りにあったんだろ…?」
「…どっ!?」
「…奴隷?」

信じられないことを聞いちゃった。何、今なんて言ったのこの人?奴隷?
嘘でしょそんなの漫画とか昔話でしか聞いたことないよ!今の日本でそんな奴隷なんてあるわけ…。
あっ、だから異世界って言ったのか。
…い、いやいや…。奴隷って。冗談きついぜ。今時青峰でもそんなこと言わないよ。

「何だ…まさか知らないのか?さっきオレをここにぶち込んだのは奴隷商人だ。オレたちを競売に出して稼ぐつもりなのさ」
「ちょっ!ちょっと嘘でしょ?そんなことってあるの!?」
「何言ってやがる…。現に今、お前らはこうして鎖をつけられてるんじゃねぇかよ。そうなったらもう逃げることはできねぇ。売りさばかれて飼い主に家畜のように扱われて終わりさ!」

神様てめえこのやろう!!

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