黄瀬と青峰が対戦する、という話をさつきから聞いた。てっきり赤司が紫原に欠場を命じていたから、黄瀬や青峰も同じなのかと思っていた。けれど、違ったようだ。さつきは是非見に来てほしいと言ったが、私はもう冬まで試合観戦をする気はない。断ったのはいいものの、翌日バイト先にまで押し掛けてきた彼女を突っぱねる事はできなかった。
そういったわけで、全国大会の会場に私は足を踏み入れている。本当に人生とは先読みできないものだ。

さすがキセキと呼ばれる二人の対決なだけあって、観客席は満員だった。どうしよう。見渡すと、遠くのほうに黒子くんのチーム…誠凛、がいた。黒子くんとは友達だが、他のメンバーとは面識がないので気まずい。一緒に観戦するのは断念しよう。この際立ったままでもいいか。コートへ視線を落とした私の横に、誰かが立つ。何だか居辛いので、挨拶をしてみると、少し笑われた。失礼だな、とその人を見て、硬直した。

「…あっ」
「やあ、なまえ」

赤司だった。しまった、と思う。赤司は、私を一瞥した後コートへ目を向けた。選手が出てきたようだ。横に並ぶ赤司を少し気にしつつ、私もそちらを見る。黄瀬も青峰も、やる気は十分といった表情だ。会場の熱気も増していた。

「青峰がやる気満々って、何か珍しいね」
「大輝が全力でできるかもしれない、数少ない相手だからね」

かもしれない、と言っているあたり、赤司はこの試合に勝つのは青峰だと予測しているのだろうか。どうなんだろう。少し黄瀬が不憫だ。私は、強いて言うなら、さつきを応援している。ふと緑間黒子戦で黄瀬と一緒にいた先輩を見つけた。主将として、いい人そうだ。

「黄瀬のチームの…笠松、さんって赤司知ってる?」
「ああ、彼は好PGとして結構有名だよ」

同じポジションで、それを遙かに上回る赤司がそんな台詞を言っても、あまり驚けない。試合のほうへ視線を戻す。黄瀬も大健闘しているが、青峰のセンスとさつきの先読みDFには苦戦していた。今更だけどさつきの情報収集能力は、すごいし怖い。赤司は、瞳には黄瀬と青峰を映したまま、私に声をかける。

「それと、なまえ」
「ん」
「何か僕に、言うことがあるんじゃないかな」
「え?」

思わず顔を赤司に向けたが、彼は試合から目を離さない。少し、考える。そういえば、そうだった。すっかり忘れていた。

「えっと、メアドのこと?」
「他に思い当たることでもあるのかい」
「いや、ないです」

おかしいな。なぜ赤司にメアド変更したことを教えなかったのが、こうも早く本人に知られているんだろう。誰か密告者でもいるのかな。やだな、恐ろしい。ともかく、ごめん、と謝ってみる。赤司は呆れたような視線を私に突き刺した。

「…まあ、そうだね。人生の中で、人との繋がりを切るのは大事なことだ。自分にとって不要な人間か、それとも必要かを見極める力が問われる」
「分かった。ごめんってば」
「お前は判断を間違えたようだ。僕は敢えて、なまえに言おう」
「え?なに」
「馬鹿野郎」

まさか、お坊ちゃん赤司からそんな言葉を浴びせられるとは、何というか、新鮮であるが受け入れがたい。仕方がないので、新しいアドレスを教えてあげた。赤司がこんなに面倒な人間だとは、知らなかったのだ。反省する。そうこうしているうちにも、試合はずいぶん進行していた。黄瀬は、何かをやる気だ。ちょうど桐皇のブザービーターで、第2Qが終了した。

「黄瀬、何か作戦でもあるのかな」
「そんなのひとつだろう?」
「青峰のコピー?」
「恐らくね」

青峰のあんなゴリラみたいな動きを真似しようとするなんて、黄瀬ってすごい。感心していると、赤司が唐突に言った。

「ところで、バイトをやっているそうだが」
「え?うん。また伝言ゲーム?」
「僕の独自ルートさ」
「それもどうかと思う」

自慢げに言ってみせた赤司に、何だか気が遠くなるのを感じた。黄瀬がとうとう青峰のコピーを完成させたというのに、私は赤司の言う独自ルートが気になりすぎている。お坊ちゃんパワーだろうか。青峰が四つ目のファウルを取られたところで、はっとした。

「涼太の今の顔」
「青峰、絶対キレるよ」

思った通り、青峰は怖い顔をしていた。ただでさえ悪人面なのに。最終Qに突入する。それからは、エース同士の点の取り合いが続いた。改めて、私はみんなの凄さを実感している。他のメンバーは、ただサポートすることしかできない。それだけ実力差があるようだ。

「二人とも、身体大丈夫かな」
「心配しなくても、この後の試合は欠場だ」
「あ、そっか。そういえば、なんで欠場させてるの?」

舞台は冬、とかが好みなのだろうか。それとも自分の誕生日が近いからか。いや、それは関係ないかな。私の問いに、赤司は思い出したと言わんばかりに口を開いた。

「そう、決戦は冬だから、冬はバイトを入れるな」

言葉のキャッチボールがしたい。とりあえず赤司の言葉に何故かと問うと、試合を見届けろと返される。私は、確かにみんなと同じ中学でマネージャーをやっていたが、今はもう違う。見届ける必要があるのだろうかと、疑問に思う。でも、赤司に反論すればまた面倒なことになりそうなので、口を閉ざして頷いた。

「…と、話しているうちに終わったみたいだ」
「えっ!」

見ると、桐皇が勝ったようだった。黄瀬の心底悔しげな顔と、青峰の何ともいえないような顔。ふたつを見比べてみる。中学時代、彼らの1対1を何度も見てきたが、あの時と結果こそは同じでも二人の表情は全く違うものになっていた。こればかりは、仕方のないことなんじゃないかな。赤司は、二人から視線を外す。

「それじゃあ、僕はもう行くよ。久し振りに話せて良かった」
「あ、うん。じゃあね」
「ああ。また近いうちに」
「うん。………ん?」

近いうち、ってなんだ。聞こうかと思ったが、赤司が既に私へ背を向けていたので、やめる。まあ、いいか。

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