私が中学でマネージャーを始めた理由は、当時流行っていたドラマの主人公が野球部のマネージャーだったから、という至極単純なものだ。本当なら野球部を予定していたのだが、外の部活は暑くて嫌だと思って、なんとなく目にとまったバスケ部にした。みんなと仲良くなれたから、マネージャーをできて良かったと思っている。高校でも続けろ、と赤司は言っていたが、もういいかなと自分の中で結論付いていたため断った。
同じ高校へ来るかと誘ってくれた黄瀬と、たぶん赤司には少し申し訳なかったかもしれない。けれど、私は家から通える高校が良かった。

「アララ〜?なまえちんじゃん。久しぶり〜」
「あれ、久し振り」

頭の中で昔を振り返っていたら、紫原に会った。また背が伸びている。見上げると疲れるので、彼が抱えている菓子箱に目を合わせることにした。

「なまえちんってばこんなところで何してんの?」
「黒子くんと青峰の試合を見に来たんだよ」

緑間が負けて、黒子くんが勝ったと聞いたときは驚いたが、今回はどうだろうか。気になってしまって、こうして会場まで来ている。まさか紫原に会うとは思っていなかった。紫原は、お馴染みのまいう棒を一口かじってから、どういうわけかキョトンとする。

「は?峰ちんたちの試合って…ついさっき終わったみたいだけど」
「えっ」

そんな馬鹿な。紫原の冗談かと思って、彼を見つめてみる。けれど、至って真顔で見つめ返されてしまっては、本当であるとしか受け取りようがない。おかしいな。みる時間を間違えたのだろうか。まあ、終わったなら仕方ないかな。紫原はそんな私を見下げて、少しだけ口角をあげていた。

「なまえちんも相変わらずだね〜」
「いや…、えっと、結果はどうだったの?」
「なに、峰ちんと黒ちん?」
「うん」
「そんなの聞かなくたって分かるでしょ〜、峰ちんが勝つに決まってんじゃん」

紫原は馬鹿にするように笑った。私を馬鹿にしているのか、それとも黒子くんなのか、と考える。どっちもかな。そう捉えて、腕を組んだ。そうか、さすがに黒子くんの新しいチームでも、青峰には勝てなかったか。少し見たかったな。今度はちゃんと時間を確認すべきだ。ひとつ学習したところで、紫原へと目を向ける。

「紫原は試合、ないの?」
「ああ、まぁね〜。オレは後の試合ぜんぶ出ないし」
「え?そうなの」
「赤ちんから言われたんだよね〜。よく分かんないけど」

インハイの時点では戦わない、ということだろうか。赤司の考えはさっぱりだ。紫原と一緒に首を傾げる。彼らがそれでいいなら私は構わないが、黒子くんはどう思うだろう。不意に紫原が、そういえば、と口を開くのを見る。

「なに?」
「あ〜…何だっけ、なまえちんに会ったら伝えることあったんだけど」
「伝えること?」
「うん。えっとね〜…ちょっと待って思い出すから」

言葉通り、大人しく紫原を待つことにした。そう言われると気になる。これで思い出せないからまた今度、なんて言われたらどうしよう。紫原ならあり得そうな話だ。うーん、と唸りだしてから数分経過し、いよいよ不安になってくる。思わず声をかけようとして、寸でのところで引っ込めた。紫原がひらめいたらしいのだ。

「そうだ、分かった〜。あれだよ、赤ちん」
「赤司?」
「そ〜。来いってさ」
「えっ、なんで?」

見に覚えがない、わけではないが、一応聞いてみた。

「さあ?何か悪いことしたからじゃない?」
「わぁ…」
「何したの?バカだね〜なまえちん」

ケラケラと笑われた。あれは悪いことだったのかいまいち分からないが、今になってよく考えてみると悪かったような気がする。困ったな。行くか、行かないかの二択で迷っている。どちらにせよ怒られることになる。紫原が二袋めのポテチを開けるのを見ながら、行かない、を選択した私を責めることは誰にもできないだろう。
「いやいや、行けし。中学のころそれやって何回も怒られてたのなまえちんじゃん」
「ごめん覚えてない」

それに、赤司とはインハイを越えれば冬まで会わないから、大丈夫だ。よし、それでいこう。そうと決まれば早く帰らなければならない。ちゃっちゃと踵を返した私に、馬鹿だなという言葉が浴びせられた。不服だったが、今日のところは許すことにする。途中、黒子くんのチームとすれ違った。声をかけていい雰囲気でもなければ、こちらとしても今は忙しいので、素通りになる。
冬が楽しみだった。

 
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