インターハイの予選で、黒子くんと緑間が当たるらしい。特に行く気はなかったが、黄瀬が一瞬だけでも来いとうるさいので、バイトのシフトを見て会場まで来た。黄瀬を探そうと、周りを見回す。そこで初めて私の目に映ってきたのは、自分ゴールの下から、相手ゴールへとボールを放った、緑間の姿だ。何だあれ。あんなの初めて見た。緑間、本当に努力家だなぁ。

「あっ、みょうじっちー!」
「あ…、黄瀬」

黄瀬の横に座る。反対側に、見慣れない人がいた。黄瀬の学校の先輩だろうか。

「遅いっスよ!第1Q終わっちゃったじゃないスかぁ」
「ごめん。緑間のほうが勝ってるんだね」
「今のところは、そうっスね」

やけに黄瀬は黒子寄りに試合を見ているようだ。そんなに凄いのかな。黄瀬は、思い出したように手を叩いた。

「そうだ笠松先輩!みょうじっちっスよ!」
「あ、どうも…みょうじです」
「ああ…お前が」
「笠松先輩はうちの主将なんスよ」
「そうなんだ」

お辞儀をしてみると、笠松さんもおずおずと頭を下げる。黄瀬は結構笠松さんに懐いているようだ。背はあまり高くないし、PGだと思う。何だかんだ、馴染んでいるようで良かった。

「緑間、調子いいの?」
「絶好調っスよ。何せ、今朝の占いじゃ一位だし」

それは何よりだ。インターバルが終わり、選手たちがコートに戻る。その中で、何人か気になる人を見つけた。特に、緑間のチームの10番と、黒子くんのチームの10番。緑間のほうの10番は、少し見覚えがある。たぶん、中学で当たったことがあるはずだ。でも黒子くんのほうの10番は知らない。私が覚えていないだけだろうか。

「黒子くんのところの10番って、誰?」
「やっぱりみょうじっちも分かるっスか?アメリカ帰りなんだって」

何だか話が通じない。でも、アメリカ帰りか。それなら、私が知らないのも頷ける。緑間は、相変わらずの遠距離シュートの応酬だ。点差は広がるばかりだったが、黒子くんたちに何か策はあるのだろうか。黄瀬は、なかなか縮まらない点差に痺れを切らしている。彼はもともと黒子くんを好意的に思っている人だが、今日の黒子くん推しは今まで以上だ。この間の練習試合で、何か分かったのだろうか。

「あいつ、黒子っちの新しい光なんスよ」
「え?アメリカ帰りの人?」
「そうそう」

新しい光、って。ということは、青峰は旧光、みたいなところか。ちょっと面白い。

「みょうじっちはどう思うっスか?」
「え」

急に問いかけられて、困る。どう思う、と言われても私はまだ彼らのことを知らない。でも、アメリカ帰りの人に緑間や、黄瀬、みんなと同じものを感じている。今はまだ、全然適わないけど、みんなと同じように開花したらきっと化ける。そう考えて、黄瀬がそこまで黒子くんチームを推している理由がわかった。

「ちょっと、楽しみだね」
「へ?」

問いかけとは逸れた答えを返した私に、黄瀬が首を傾げた。試合はあまり見に来るつもりは無かったのだが、少しだけ興味が湧いてきた。今度も、バイトがない日だったら見に来よう。

「みょうじっちも、マネージャーやれば良かったのに」
「バイトあるから、遠慮しとく」
「えーっ!聞いてくださいよ笠松先輩!みょうじっちってばオレがせっかく海常に誘ったのにシカトなんスよぉ!」
「うるせぇ黄瀬!」

シカトじゃなくて、無言の拒否というやつだ。勘違いされては困る。口を尖らせている黄瀬を一瞥したあと、携帯で時刻を確認した。もうこんな時間か。静かに立ち上がった私を、黄瀬が見上げた。

「えっ?どうしたんスか」
「そろそろ、行かないと」
「どこに!?」
「バイト」

黄瀬は、おもしろいほど驚いた反応をしている。

「…最後まで観ないんスか?」
「うん。あとで、結果見るよ」
「そんなぁ…」
「ごめん、楽しかったよ。じゃあ、またね」

あと、三十分でバイト先まで行かなければならない。少し早足で、会場を出た。雨が強い。折り畳み傘を持ってきておいて正解だったな。

 
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -