迷惑メールが多くて、アドレス変更というものをした。この携帯にしてからアドレスを変えるのは、初めてだ。変更すると、知り合いにメールを送らなくてはならないので面倒だった。しかし、迷惑メールを大人しく受け取るつもりはない。連絡帳を一通り確認してから、赤司以外の人に変更メールを送ることにした。

「ちゃんと最後に名前書けよ」
「それは、分かってます」

虹村さんは、私の携帯を覗いて見守ってくれている。私は特に機械が苦手というわけではないが、虹村さんのイメージの中の私は機械オンチらしい。何だかよく分からない。とりあえず、友人にはほとんど送り終えた。あとはバイト先の先輩と、家族だ。家族はともかく、先輩に送るのは少し気まずい。みんないい人だけど、メールをすることはあまりない。

「赤司には送らなくていいのか?」
「メールそんなにしないから、いいかな」

中学では、用事があるときに少しする程度だった。高校になってから接点は特に無いし、と思う。虹村さんが送れと言うなら考えたが、何も言わずに私の本棚を漁りだしたので、まあ良いかと携帯を閉じた。

「これ、続きは?」
「まだ出てないです。えっと、来週ぐらいに出るって言ってた…ような」
「曖昧かよ」

虹村さんは、手に取った本をぺらぺらと捲っている。彼に本は似合わない、と率直な感想を胸に抱く。その様子をぼうっと見ていると、メール受信を知らせるバイブが鳴った。世の中には、アドレス変更メールに返信をする人と、そうでない人がいる。私は後者だが、黄瀬は前者のようだ。男性らしからぬキラキラしたメールに、感心した。

「虹村さんって、返信する人ですか?」
「いや、しない」
「やっぱり…」
「そのメール、黄瀬か?」
「え?はい」

何で分かったんだろう。黄瀬に続いて、何人かから返信が届く。虹村さんは本に飽きたのか、どこからか中学のアルバムを取り出して開いていた。あ、ちょっと勝手に見られても困る。携帯を放り出して虹村さんの横に座った。

「ぶは、懐かしいなこれ」
「うわぁ…」

中学一年のときの写真を見る。みんな小さい。紫原は既に大きかったが、今と比べるとすごく小さく感じる。赤司をチビだと笑っている虹村さんを横目に、次のページを捲った。これを見ると、黒子くんが写っている写真はほとんどない。いくら何でも可哀想な気がする。

「おっ、なまえだ」
「ちょっと…やめてくださいよ」

何だか恥ずかしい。私の写真を指さす虹村さんの手を引っ込めさせた。確か、これは体育祭のときのものだ。懐かしい。虹村さんが奥のほうに写っているものを見つける。少しにやけながら指をさして虹村さんを見ると、後頭部を軽く叩かれた。

「虹村さんはあんまり変わってませんね」
「うるせぇ」
「あ、この先生懐かしい」
「今も帝光にいんのか?」
「虹村さんたちが卒業してから異動しましたよ」
「へぇ〜」

他の卒業生は結構姿を見せに来ていたが、虹村さんはそれっきり来なかったから知らないのも当然だ。

「お前も大変だったろ」

虹村さんがアルバムに目をやったまま、言った。何が大変だったのか、理解できなくて首を傾げる。虹村さんは深くため息をついて、私を見た。

「お前なぁ…」
「バイトですか?」
「ちげーよ、中三のころの部活」
「あ、そっち」

ぽんと手を叩く。虹村さんも心配してたんだ。納得する。中三のときはみんなバラバラで、さつきも黒子くんも寂しそうだった。今もそうかもしれない。でも、私はそれほど大変だとは思っていない。みんなそれぞれの思いがあったから、仕方なかった。私はそう解釈している。みんなで遊ぶことはなくなったが、一人一人との仲はそれほど変わらない。たまに会って、話もする。

「みんな、いい人たちだから平気です」
「そうか」

私は、アルバムを静かに閉じた。

 
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -