イチゴがまるごと入った大福と、カスタード入りのもちもちたい焼きとを見比べて、悩んだ。どうしよう。おいしそうだ。お母さんはイチゴ大福を買ってくるように言っていたが、たい焼きも捨てがたい。ショーケースと睨めっこを続ける私の横に、さつきが戻ってきた。

「あれ、まだ決めてなかったの?」
「うん。さつきは?」
「私は桜餅だよ。家族のぶんと、あと青峰くんのぶん」

彼女は、買ったものを私へ見せた。桜餅もおいしそう、と思って慌てて首を振る。ダメだ、このどちらかに決めよう。さつきをあまり待たせてしまうのも悪い。ただでさえさつきが休みだという日を、私の買い物に付き合わせているのだ。大福か、たい焼きか。当初の目的は大福なのだから、やはりそれにすべきだろうか。

「どっちも買っちゃえばいいんじゃない?」
「それだと、食べきれない」

ばら売りであれば良かったが、六個入りを大福とたい焼きでそれぞれ買うとなると、大変だ。一応どちらも生物だから尚更。さつきは、大福の隣の饅頭に目をやりながら提案する。

「残ったら、誰かにお裾分けするっていう手段もあるよ」
「あ、それいいね。そうしよう」

誰にあげようかな。思いつくかぎりの知り合いを頭に浮かべてみる。包装された大福とたい焼きのふたつを受け取ってから、バイト先の先輩にあげようと決めた。今度、持って行こう。

和菓子屋を出ると、お昼もどこかで食べていこうという話になった。さつきが中華を食べたいと言うので、近くの中華料理屋に決定だ。さつきと二人で出かけるのは久し振りで、かなり楽しい。

「でも、なまえがバイトをやってるって聞いたときはびっくりしたんだからね!」
「さつきもやる?楽しいよ」
「え〜。大通りの前のところのお店でしょ?」
「うん…、何で知ってるの?」

さつきにバイト先を教えたことは無かったと思う。出された料理に手をつけながら聞くと、さつきは私から目を逸らして言葉を詰まらせた。おかしい。この間も、黄瀬が何のアポもなしに私のバイト先までやってきた。なぜこうも私の情報が漏れ出しているのだろうか。釈然としない。別にバイト先を隠すつもりは無かったが、あまり公にされても困る。

「いや、あのね。聞いてなまえ」
「なに?」
「青峰くんが偶然そのお店に通りかかったときに、なまえを見たらしくてね。私はそれで知ったの」

さつきはフォークを手で弄りながら、そう告白した。青峰、という第三者の名前が出たので少し面食らう。いつのまに目撃されたのだろう。通りかかったなら、声をかけてくれても良かったのに。今度会ったときは文句をつけようと思う。烏龍茶を口に含んで、飲み込んだ。

「この前きーちゃんが、なまえはどこにいるかって聞いてきたから教えちゃったんだけど」
「え」
「ダメだった?」
「いや、別に大丈夫だけど…」

何だろうその伝言ゲーム方式。合点が行ってすっきりした反面、私の知らないところでそんな伝言ゲームが繰り広げられていたことに驚く。楽しそうでなによりだ。
一連の疑問が晴れたところで、デザートを頼もうか否かと考える。パフェは食べたいが、ちょっと思いとどまる。しっかり財布の中身を確認してみた結果、我慢するということにした。

「今度のインターハイで、テツくんたちと当たるかもしれないんだ」

ふと、そう呟いたさつきは浮かない顔をしていた。理由は分かっている。黒子くんに負けてほしくはないのだが、彼女自身も勝たなくてはならない故の葛藤だ。そこで、黒子くんと青峰が闘うところを想像してみた。互いに組むことはあっても、敵として闘う場面は見たことがない。どうなるのかな、と少しだけ気になった。

「いい結果になるといいね」

勝ち負けとしてでもあるが、最終的な問題としてもだ。笑いかけてみると、さつきはこくりと頷いた。またみんなでバスケができたらいい、とさつきは言っていた。私もそう思う。今の関係が嫌だとは言わないが、もしみんなが昔のようになれるのなら、それは良いことだ。友達なのに、素直に笑い合えないのは寂しい。

「今度、みんなで遊びに行こう」
「うん!」

 
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