ファミレスのバイトをしている。まだ初めて間もないが、店長は優しい人で先輩も親切だったので、順調に働くことができている。そんな順調がこれからもずっと続けば良いと思っていた矢先に、問題はやってきた。黄瀬は勤務中の私を目に入れるなり、情けない顔をして泣きついた。いまいち状況がつかめない私は、とりあえずシフトが終わるまで待つように言う。渋々頷いた黄瀬を見て、困惑した。おかしい。黄瀬は確か神奈川の学校へ行ったと聞いたのに。そもそも、私はバイト先を彼に教えた覚えはない。

「こっちに来たのは、たまたま東京で撮影があったからっス」
「撮影?」
「あ…オレ、一応モデルやってるんス」
「あ、そっか」

バイトを終え、そのまま黄瀬の座るところまで行って疑問を問えば、そんな答えが返ってきた。どちらかといえば私の聞きたかったことは、何故バイト先を知っているのかということだったのだが、まあいいかと思う。彼の向かいの席に座って、メニューを見てみる。自分が働く店の料理を頼むのは、なんだか変な感じだ。グラタンが食べたい。

「黄瀬は、何かたべる?」
「いや、オレはさっき食ったから」
「じゃあドリンクバーね」

売り上げに貢献をする。注文をしている私を見ながら、黄瀬はため息をついてテーブルに右頬を乗せた。どうかしたのだろうか。そういえば落ち込んでいるようだった。

「悩みごと?」
「悩みっていうか…」

運ばれてきたグラタンと、ドリンクバーのグラスを受け取る。メニューに視線を落とす黄瀬を見ながら、首を傾げた。
女の子に振られたのだろうか。それともモデルの仕事がうまくいかない、とかかな。仕事が順調でないのは、つらい。私はバイトを始めてそんなことも学んだ。けれど、私の予想は外れていたようだ。

「負けたんスよ」

黄瀬は眉を下げてそう言った。誰に、なにで負けたのか分からなくて、疑問符を浮かべる。グラタンは、もう少し冷めるまで待とう。

「この間、黒子っちの学校と練習試合で」

あ、と思わず声をあげそうになった。そうだ、思い出した。黒子くんと会ったとき、そんなことを言っていた気がする。よく分かった。キセキの世代を倒すと言った彼は、どうやら順調らしい。つい感心してしまっていたが、黄瀬の視線に気付いて少し悩む。慰めろ、と目が訴えている。困った。

「えっと…大丈夫だよ。ほら、灰崎にも負けたことあるし」
「それフォローになってねーっス」
「ごめん…」

難しい。うまい言葉が見当たらない。グラタンをひとくち食べて、思考してみる。おいしい、ということばかりに気が行ってしまう。ダメだ。半ば諦めかけたところで、黄瀬がふっと笑った。

「でも、本当はすっきりしてるんスよ。初めて黒子っちと戦ってみて、負けて」
「うん」
「まあ、悔しいのはどうしようもない事実なんスけど」

嬉しそうなのに、困ったようにも見える顔をしている。そうか。そういうものか、と思いながらえびを咀嚼した。すっきりしている、と言うわりには最初店に入ってきたときは随分と切羽詰まった様子だった気がする。聞こうか迷って、やめた。

「黄瀬は、頑張ってるからたぶん、大丈夫」

出来るかぎりの慰めをしたつもりだが、どうなんだろう。黄瀬が目を細めて微笑むので、良しということにする。

 
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