赤司くんには幼馴染がいる。
すごく活発で笑顔で、とにかくいつも楽しそうな子。そして何よりあの赤司くんととても仲が良い。幼なじみだから当たり前なのかもしれないけど、やっぱりちょっと違う。二人のあいだには確かに、私と青峰くんとは違った何かがある…と思う。
これは私の女の勘ってやつだけど。

「あ、さっちゃん!おはよう!」

珍しく朝練がなかった朝、下駄箱から上履きを取り出したところで声をかけられた。相変わらず朝から元気だなぁ、と思わず笑みを零しつつ声の方へ視線を向ける。そこには予想通りなまえちゃんの姿があった。そして当然のように、赤司くんの姿も。
上履きを履くのもそこそこに私の方へ駆け寄ってくるなまえちゃんに、最近友人が飼い始めたという子犬の面影を感じた。可愛い…。

「あれ?青峰は?」
「せっかく朝練が休みなんだからもっと寝てから行くって言ってたよ」
「そうなんだ!そのまま寝坊して遅刻する、に一票!」
「有り得るね。あ、赤司くんもおはよう」
「ああ、おはよう」

なまえちゃんとは対照的に落ち着いた様子の赤司くん。この二人の温度差にはいつ見ても驚いてしまうけどこれはこれで良いバランスなのかもしれない。多分。
青峰くんにイタ電してやろうかと企むなまえちゃんに足をかけて転ばせる赤司くん、という妙な光景を見つめながら思った。…何をやってるんだろう。

「さっちゃん助けて!征十郎がさいきん足掛けにハマってるみたいで!」
「ハマってるってなまえ、まだ3回目ぐらいだろう」
「結構やってるよね!」
「悪かったよ…ほら、オレって足が長いから」
「誠実さが足りないよ!ホントに謝ってる?」

半笑いの赤司くんに吠え立てるなまえちゃん。いつも通りといったらそうだけどこうして改めて眺めてみると面白い。こういうところだけを取って見てみると、赤司くんも普通の中学生だと感じる。そういう意味では、赤司くんにとってなまえちゃんは欠かせない存在になっているんだろうな。男の子に必要とされるのは、女の子にとってこれ以上ない幸せだと思う。私だってテツくんに必要とされたらもう、もう…!

「さっちゃん?」
「きゃあっ!…あ、なまえちゃん…」
「どうしたの?」
「い、いやぁ…アハハ…」

うっかり妄想に耽ってしまった。
不思議そうに首を傾げるなまえちゃんを何とか誤魔化しつつ、もうひとりの姿が見えないことに気づく。あれ、赤司くんが居なくなってる…。話をそらすという意味も含めて赤司くんは、と問いかけるとなまえちゃんが肩をすくめて言った。

「いつまでもなまえの相手なんかしてられないな…とかってキメ顔で去っていったよ」

赤司くんの物真似なのか手で髪を靡かせてみせたなまえちゃんにそれは本当なのだろうかと疑念が生まれる。ケラケラ笑いながら私たちも教室に行こうか、と言った彼女にとりあえず頷いた。普段は朝練があるからなまえちゃんとは別々だけど、今日はなんだか新鮮で楽しい。青峰くん置いてちょっと早く登校して正解だったかも。テツくんはもう来てるかなぁ。

「そういえば、さっちゃん!」
「ん?」

いつになく真剣な様子で名前を呼ばれた。階段で、私より数段高い位置になまえちゃんが立っているので逆光加減も相まって無駄に神々しい。まぶしさに目を細めながらなまえちゃんを見上げる。

「どうしたの?」
「あのね…。贈り物をしたいんだけど、何がいいと思う?」
「え?贈り物?」

思ってもみなかった問いかけに、思わず驚いてしまった。なまえちゃんは私と同じ位置まで下りてくると、少し言いにくそうにしながらも首を縦に振る。こんななまえちゃんを見るのは滅多にない。レアだ。変に感動を覚える私をちらりと一瞥してからなまえちゃんは恐る恐る口を開いた。

「征十郎に、何か贈ろうと思って…。最近ちょっと疲れてるし大変そうだから、あ、私のせいじゃないけどね!部活とか、家のこととか…。だから、お疲れ様というか…そんな感じでね!何かあげたいと!」
「あぁ〜…」

母の日?
とは、言わずに。
なるほど。なまえちゃんが赤司くんに贈り物か…。いつも赤司くんが振り回されてるって感じだけど、ちゃんとなまえちゃんも赤司くんを気にかけてるんだなぁ。親孝行ってこういうことをいうんだろう。多分。ついつい納得してしまった。
…というか。

「赤司くんが疲れてる?」

そうには見えないけど。だってさっきも愉しげになまえちゃんと遊んでいたし、私に対しても特に変わった様子はなかったのに。結構疲れてるよ、うんうんと腕を組んで納得するなまえちゃんを見るに、やっぱり第三者には分からないものなのかもしれないなと思った。不思議だなぁ。

「ネクタイがいいかな!」
「父の日?」
「肩たたき券とか?」
「敬老の日?」

何がいいんだぁ〜、となまえちゃんががっくり項垂れた。いやあ、そもそもなまえちゃんのチョイスが何か…変。幼なじみに贈るものだったらもっと、こう何か…。もし私が青峰くんにあげるとしたら手作りのお菓子とかあげるけどなぁ。手作りだと毎回すごい嬉しそうなリアクションをしてくれるから嬉しいし。
…あ。

「そういえばなまえちゃんって調理部だったよね?」
「うん!そーだよ!」
「だったらさ!手作りのお菓子とかは?」

調理部ってことは普段からそういうものを作っているんだと思うし、得意分野なんじゃないかと思う。人差し指をぴん、と立てて提案するとなまえちゃんは一瞬ポカンとした。そして私の言った意味を理解した後すぐに、花が咲くほどの笑顔を浮かべて勢いよく私に抱きついた。

「やっぱりさっちゃんって天才だよ!だいすき!」
「ふっふーん、まあね〜」

ああ、どうか二人がずっと一緒でありますように!


「そうと決まったらやろう!」
「私も作ろうかな!テツくんに…なんて、きゃーっ!」
「テツクン?さっちゃんの彼氏!?」
「黒子テツヤくん!」
「ええ!?そうなの!?彼氏なの!!?」
「よ〜し、何作ろっか!」
「さっちゃん!?」

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