赤司には幼なじみがいる。
俺が言うのもなんだけど、バカ。そんでもって、人懐こい。正直言うと子犬みたいで可愛いと思うときもある、稀に。…本人には絶対言わねえけど。やかましそうだから。
まぁそうは言ってもバカなもんはバカで、面倒なことも多々ある。それを毎日面倒みてる赤司も大概アレだと思う。同じく幼なじみがいる身としては確かに大切だと思う気持ちも分からなくはねぇ、が。

「あ、青峰だ!」

部活が終わった後。
自主練の途中で、何となく外の空気を吸いたくなり体育館から出てみるとなまえがいた。こいつがこんなところに来るなんて珍しいと思った。いつもは赤司にこっぴどく言われているのかバスケ部の近くには寄ってこないのに。なまえの姿に首を傾げつつ尋ねる。

「何でここに居るんだよ?」
「さっきまで追試やってたんだよ!そしたらこんな時間になっちゃってて、もうびっくりしたよ!」

ケラケラ笑いながら言う様子に思わず呆れた。これは赤司も苦労しているだろうと柄にもなく同情する。ましてや今年は同じクラスになったらしい。改めて赤司を凄いヤツだと思った。あの赤司の、人を巧みに操る能力はこいつによって鍛えられてきたんじゃないかと考えるほど。いや、赤司ですらこいつを完璧に操れてはいないような気もするが。
当のなまえは体育館内を少し覗いて、どことなく警戒するようにしてから俺に声をかけた。

「征十郎は?」
「赤司なら監督に呼ばれて居ないぜ」

もう少ししたら戻ると思うけどな、と付け加えて言う。俺の言葉を聞いたなまえはそうかぁと何とも締まりない口調で頷いた。本当に何をしに来たんだこいつ。
一瞬、さつきにでも会いに来たのかと思ったがそうでは無いらしい。赤司に会いに来たというのが一番しっくりくるのだが、赤司のやつは頑なにバスケ部に近付くなとなまえに言っている。それなのに今なまえがここにいると知れたらまた怒られるだろう。わざわざ怒られるのを知っていながら会いに来るとは考えにくい、し…。なんて普段ロクに使いもしない頭を働かせていると、なまえはそんな俺の考えをひっくり返すようにケロリと言った。

「ちょうど良い時間だからどうせなら征十郎と一緒に帰ろうと思ったのに!」
「は?でもお前、バスケ部のとこ来たら怒られるんじゃねぇ?」

まぁなまえが怒られてるのなんていつもだけど。
あんだけ毎日冷たく厳しく接されても尚一緒に居たがるのはやはりなまえも赤司のことが好きなんだよなぁ、とか改めて感心する。幼なじみとはそういうものかと自分の幼なじみを思い浮かべてみる。
…いや、あいつらの比じゃねぇな。
途中で比べることをやめた。

「でも体育館内に入ってないからセーフだよね!ね!」

そういうものなのかと疑問に思ったがなまえも自信なさげに多分、と付け足したのでやはりアウトなんじゃないかと思う。
しかし赤司は何故そこまでバスケ部にこいつを近付けたくないのかと。考える。なまえがいることで練習の邪魔になるからかとか思いつくことは多い。
…少しばかりなまえを可哀想だと思ってしまった。いや、当の本人はこれっぽっちも気にしている様子はねぇし、良いんだろうけど。

「まぁいっか!戻ってくるまで待つ!」

健気に体育館の外に座って、待つ体勢に入ったなまえに忠犬ハチ公を思い出す。忠犬と言うには違うような気もする。とりあえずこいつのこういうところは可愛いと思う。小動物とか、そういった意味で。なぜだか無性に頭を撫でてやりたくなって手を伸ばしかけたが寸でのところで引っ込めた。
赤司が戻ってきたのが見えたからだ。
ちらりと見えた程度で普通の人間なら俺の姿には気付かないはずだが、赤司はやはり赤司。距離があるながらも一瞬目が合ったのが分かった。怖ぇ。怒られるようなことなんて俺は何もしていないのに恐怖してしまったのは赤司の視線が鋭く痛かったからだろう。

「…じゃあ俺、自主練戻るわ」

自主練習をほっぽりだしてなまえとだべって居たゆえの睨みだったのかもしれないと結論に至った俺はそう告げ、踵を返した。不服そうななまえの声を背中に聞きながら体育館内へと戻る。
近くに転がっていたボールを拾って一息吐くとやっと冷静になることができた。ああ、赤司のやつは相も変わらず恐ろしい。バスケのこととなると容赦ねぇ。そう思いながらゴールへシュートを打ったところで、戻ってきたらしい赤司が俺の横を通り過ぎていく。

「赤司」

思わず声をかけた。
何となく、聞きたくなったからだ。
恐らくなまえのもとへ向かおうとしていた赤司は冷ややかな目をこちらへ向け振り返った。

「何だ」
「い、いや…赤司お前さ、何でなまえをバスケ部から遠ざけてんだ?」

いままでは特に疑問には思わなかったことだけど、今日はふと気になった。思い立ったらいっちょ聞いてみるかと尋ねたわけだが。言葉を投げかけると初めから鋭かった視線がより凄みを増した、…ように見えた。思わず怯む俺をよそに赤司はいつも通りの落ち着いた声色で口を開く。

「別に…。なまえがいると気が散るからだ」
「あ、ああ…」

やはりそういうものなのかと、すっきりしない感覚をそのままに納得してみせた。あまり干渉すると命が無いような気さえもする。俺が黙ると、赤司は静かにこちらへ背を向けて行ってしまった。どうやら機嫌がすこぶる悪いらしい。俺が自主練をサボっていたからかなまえがこの近くにいるからか。もしくはまた別の理由なのかと思いつつ。

「あっ!せいじゅっ、痛い!!何で叩くの!」
「うるさい何で早く帰らないんだ」
「征十郎と帰ろうと思って待ってたんだよ!」
「……そう」

赤司の機嫌が少しだけ良くなったように思えた。
やっぱよく分かんねぇ2人だ、と溜め息を吐く。とにかくあいつらは何だかんだと仲が良いことだけはよく分かった。

「青峰くんと何話してたの?」
「なまえが体育館に入ってきてたぜって」
「え!」
「この近くには来るなって言ったはずなんだけど」
「入ってない、入ってないよ!ずっと外で待ってた!征十郎の言うこと守ってた!」
「…次は無いからな」
「う、うんわかったよ!帰ろ!」
「…ん」

赤司って、あいつの前じゃあんな顔すんだな。
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