赤司っちには幼なじみがいる。
と、いうのも最近になって知った話だけど。みょうじっちとは一年のとき同じクラスで、まあそこそこ仲は良かった。でもあんなに騒がしくて落ち着きがないみょうじっちが、まさかあの赤司っちと幼なじみだったなんて。それを聞いたときは信じられなかった。でも言われてみれば、よく一緒に居るし仲も良さそうだし、納得せざるをえないというか。

「あ、きーちゃん!」

自販機を前にして小銭を入れたところで声がかけられた。何だかおかしな呼び方だと思いつつも視線をそちらに向ける。すると視線の先のみょうじっちは俺に向かって手をぶんぶん振りながら走り寄ってきた。犬のようだなと思う。俺のほうが犬らしいという意見は受け付けないっス。人懐こそうな笑みを浮かべるみょうじっちに少し頬を緩めた。

「なんなんスか〜、その呼び方」
「さっちゃんがそう呼んでたから!可愛いよね!」

そうっスかね〜、と返してから飲み物を選ぶ。もちろんミネラルウォーター。何で水をわざわざ買うのかとよく言われるけど水には俺のこだわりがあるのだ。さしてみょうじっちはそんなことを気にすることなく、ミネラルウォーターの蓋を開ける俺を見つめている。いまいちみょうじっちの考えていることは分からない。だからどうせ俺のことを眺めながら今日の夕飯は何だろうとか考えているんだと思う。変な女の子、というのはもう十分知っているから。

「今日は赤司っちと一緒じゃないんスか」
「征十郎なら緑間くんとバスケ部の話みたいなことしてたよ!」

ああ、と頷く。そういえばあれだけ仲の良い二人だが部活は別々だ。なぜマネージャーをやらないのか疑問に思うことは多かった。まあみょうじっちじゃこの学校のバスケ部でマネージャーなんて無理、ということなのかもしれないけど。俺としてはみょうじっちがマネージャーをやってくれるならある意味面白いと思っている。ひやひやすることも多いだろうけどそれはそれで。なんて思っても他の女と同じように言うとおりにならないのがみょうじっちだからなあ。

「そういや、みょうじっちは何の部活入ってるんスか?」
「ん〜?調理部!」
「調理?へえ意外っス!」

普段の立ち居振る舞いから見て、どうも料理が出来るようには見えないから尚更。くるくるペットボトルを手の中で回しながらしたリアクションに自慢げにしながらみょうじっちがふふんと笑った。やっと桃っちより勝っているところを見つけた気がする。胸は完敗っスけどね!なんて言えば変態扱いされるだろうし何より赤司っちが怖い。俺に続き、ちゃりんちゃりんと軽快に自販機へ小銭を突っ込んでいくみょうじっちを見ながら赤いあの人を思い浮かべた。

「でもみょうじっちと赤司っち、すごく仲良いんだからマネージャーでもやったら良かったんじゃないんスか?」
「そんなに仲良くないよ!征十郎ここ最近すごく冷たいしね!反抗期なのかな?」
「まあ…」

赤司っちがあそこまで冷たくしたり雑に扱ったりするのも気の許せるみょうじっちだからというような気もするのだが。赤司っちはいつも如何に他人を効率良く操作できるかを考えて接していると感じるから。気兼ねなく接することのできる数少ない相手なのでは。まあ、飽くまでも俺が勝手に感じているだけっスけど。みょうじっちはヨーグルト飲料を選び取り出すと、そのストローを些か苦戦しながら突き刺した。

「でも征十郎が言ったんだよ、バスケ部に入ってちょっと経ってからね!バスケ部のところには絶対くるなって!」
「えっ、そうなんスか?」
「そう、ひどいよね!お母さんに自分の試合見られたくないっていうのと同じ感じなのかな!」
「いや、どっちかって言ったら赤司っちのほうがお母さんみたいっスよ」

ええ、と抗議するみょうじっちに噴き出した。何だか、そう、面白い子だ。変わっているだとかちょっとよく分からないだとか言われているけれど、俺は好きだと思う。飽くまでも、友達として。そりゃもう該当者がいるのに手を出すなんて真似はどこぞの灰色じゃないのだからやるわけがない。
あ、と声を漏らした彼女に視線を移す。何やら上の方を見上げていたのでその視線の先を辿ってみると、二階の窓に赤司っちが見えた。すると赤司っちもこちらに気づいたらしく、窓の方に近付くなり口パクで何かを言ってみせた。何だ、と理解に苦しみみょうじっちを見やればいつものへらっとした笑顔で言う。

「ハウスだって!それって犬にいう言葉だよね!あはは黄瀬くんってば犬扱いされてるよ!」
「百パーセントみょうじっちのことだと思うっスわ」
「えっ」
「…えっ?」
「えっ!」
「……え?」

「お前ら早く戻ったらどうなのだよ」

途方のないやりとりに終止符をうったのは緑間っちだった。正直助かった。
やっぱりみょうじっちって変っスよね。すごく良いと思うけど。これからは赤司っちとのやり取りにも注目してみよう。そんなことを思った昼下がりだった。
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -