「ウチ来るか?」

時は正午過ぎ。珍しく半日で終わった部活の後、例のごとく愛しの先輩と帰り道を歩いていたときのことである。突然思い出したかのように、ぽつりと飽くまでも自然にその爆弾を落とした。その言葉に先輩を二度見したのは言うまでもないけれど。そんな、某番組のように言われたって…行く行く〜!なんて咄嗟に返せるほど冷静ではない。目を点にして固まる私を宮地先輩はまあ普通の表情で見下げる。

「嫌なら良いけど」
「いい嫌じゃないです!嫌じゃない!」
「あっそ。じゃあ」

こっち。と軽い感じで言ってくるりと方向転換する宮地先輩に私は正直ついていけない。何なんだこの急展開は。いや、めちゃくちゃ嬉しいのは確かなんだけれど、待って。早い。心の準備とか私全然してない。だって何の前ぶりもなくラストダンジョンとも言える宮地先輩の家に…今から、乗り込むって…。経験値が足りていなければアイテムも何も無い状態なんだけれど。そんな私の気持ちなど知る由もない先輩はすたすたと先を歩いている。これはまずいと先輩の鞄を引っ掴むと世界一好きな人の瞳がこちらに向けられた。ううっ

「…何ですかみょうじさ〜ん」
「ちょっ、ちょっと待ってください!あの、私なんの準備もしてなくて!」
「準備?今から登山に行くわけでもねぇんだけど」
「ある意味登山よりも心構えが必要だと思うんですよ!」

真剣さを伝えるために先輩の鞄をがくがく揺さぶるとぶっ叩かれた。い、痛い…。頭をおさえてよろよろと蹲ると上から盛大なため息が聞こえた。い、いや…今のは宮地先輩のせいですからね。愛してるからってなんでもかんでも許すと思わないでほしい。…まあ許すけれど。うんうん唸っている私の目線に合わせるようにしゃがむ先輩にドキッとしつつ。

「…で?何」
「あ、あの…宮地先輩のおうちへ行くってことはですね」
「おう」
「その、宮地先輩の…ご両親に挨拶をするということですよね」
「違うわ」

えっ。



どうやら宮地先輩の家に行くっていうことはただのおうちデートのようなものだったらしい。おかしいな。付き合っている人のおうちに行くってことはご両親に挨拶ってお母さんから聞いたのに。とりあえず安心した。そんなわけで宮地先輩に連れられるままやってきてしまったラストダンジョン。とっても綺麗なおうちですねと言ったらそうですね、なんて返された。すごく他人事!驚きです。

「お、お邪魔します」
「どーぞ」

これが宮地家のにおい!思う存分堪能したい。別に変態ではない。自分の一番好きな人が育った家に来たんだから。アホみたいに緊張するのも嬉しいのも恥ずかしいのも、ごく当たり前なことなのだ。感慨深いことこの上ない。慣れたように二階へ上がっていく宮地先輩の後を追いながらひたすらにやにやした。もう隠す気さえもないぞ私は。

「私もここで暮らす日がいつの日か来るってわけですね!」
「ハイ?」
「あっ、それとも新居を建てますか」
「何でも良いからとりあえず座ってろ。大人しくしてろよ」
「はい!」

何だかとても彼女にかける言葉には思えなかったけれど私はそんなことを気にするほど繊細ではない。とにかく否定しなかったってことはそういうことって受け取ってもいいんですね!大きい幸せに包まれながら先輩の部屋らしきところでお座り。先輩は飲み物だとかを取りに行った様子。なるほど、ここが宮地先輩の部屋。きょろきょろと思う存分この光景を目に焼き付けてから。…やっぱりみょうじなまえ。高尾和成に匹敵するバカの申し子。ここはいっちょファインディングタイムと行きましょう。

「…よし!」

宮地先輩がまだ上がってこないことをしっかり確認する私に抜かりはない。まず最初はベタなベッド下で。右頬を床にぺったりくっつけながら覗いてみる。うーん、ここではないのだろうか。目当てのものが見つからなかったため一度体勢を立て直す。やっぱり今の男の人はもうベッド下なんてわかり易い場所には隠さないのかもしれない。残念だ。と、なると次の候補はどこだろう。流石に引き出しを開けるのはためらわれるし…。枕の下、とかだろうか!そうとなれば早速。よっこらせとベッドに片足をかけたところで。

「大人しくしてろって言ったよな」
「ひっ」
「よっぽど轢かれたいんだなぁ」
「す、すみませ」

頭をがしっと鷲づかまれたかと思うとぎりぎりと物凄い力で握りつぶされた。まったく夢中になりすぎて気がつかなかったけれどいつの間にか戻ってきていたらしい。相変わらずとっても可愛らしいのにすごく寒気のする笑顔を浮かべた宮地先輩がそこに居た。ずるずるベッドから降ろされて正座。向かいにあぐらを掻く宮地先輩は穏やかそうに見えてそうでない。そんなところも素敵です!

「何してたんだ」
「エがついてロがつく本を捜索に…」
「お前さっきまでの緊張感はどこに捨てたんだよ」
「宮地先輩が全部奪ってくれたじゃないですか!えへ!」
「えへ、じゃねーよ」

青筋を浮かべた宮地先輩にぐにぐに頬を伸ばされる。痛いけれどこれはわりと嫌いじゃない。決してマゾではないけれど。へらへら笑う私に怒る気力さえもなくしたのか、宮地先輩はため息をつくと頬から手を離した。お疲れのようですね。誰がそんなに宮地先輩を疲れさせたんですかね。高尾かもしれない。許せません。宮地先輩のふわふわの髪に触れて頭をぽんぽんしてあげることにした。納得がいかないとでもいったような表情になった先輩がおもしろい。

「ねぇ、どうして今日はおうちへ呼んでくれたんですか」
「……べつに」
「私すっごい幸せです!」
「…ふうん。良かったね」

はい、それはもう!最高な日になりそうだ。宮地先輩は頭を撫でている私の手をゆっくりな動作で掴むと、それをまじまじと見つめた。…何だか恥ずかしいような気もする。そんな私に構うことなく適当に私の指を折り曲げたり伸ばしたり始める。その行動の意味がよく分からないし先輩自身楽しいのかどうかも分からない。しかし宮地先輩は決して私の手から視線を外すことなく、おもむろに口を開いた。

「…今日は」
「はい」
「たまたま」
「うん」
「一緒に居たかったから」


「えっ」
(彼のデレは突然に)
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