初めは、ただ可愛いと思った。
席も近かったし、まあ少し話すぐらいの仲にはなっとこうかなと。その程度の感情しか持ち合わせていなかったわけなんだけど。
偶然にも、バスケ部のマネージャー志望らしくて。ラッキー、なんて思ったのは良いものの。
突然、本当に急に。バスケ部の中じゃ怖いっつーことで有名な宮地サンに好きだとか叫ぶし。何だあの子おもしれーって思ったんだ。
おもしろいものは、好きだ。
だからそれからは何となくよく話すようになった。
とにかく俺は、バスケをしたかった。だから恋愛だなんだと浮かれるようなことも無いようにした。けど、どうもなまえちゃんはおもしろい。
いつだって宮地サンを見てた。それが一番おもしろくて、少しだけ羨ましいと思った。
そこで、なまえちゃんを好きになった自分にドン引きしたわけなんだけど。
そんな、さあ。叶うわけもない恋心なんかしちゃって、笑うより他にないっしょ。それでもまあ、淡い期待なんか抱いているよりは、結果が分かってたほうが浮かれずに済んで良いような気もした。開き直りってやつなんだけど。
とりあえず、恋愛ごときにバスケを潰されずに済んだ。そう思った。

宮地サンは、思いのほかツンデレだ。
真ちゃんとはまた違ったほうで、ツンデレだった。いつもいつもなまえちゃんには冷たい。それでもめげずに宮地サンを追いかけていくなまえちゃんにもうやめれば、とも思ったけど俺は知ってたから。宮地サンだってまんざらでもないってことは。だからもういいやって投げた。
投げた、のは良いけど。
投げたからにはいい加減くっついてほしいものだ。こちらとしてもその方がすっきりする。
しかしあのふたりは中々くっつかない。
俺の知らないところで、また別の問題があるってことは何となく察した。でもそれを俺がどうこうすることでもない。はやくくっつけよ、という思いを込めて宮地サンを見たら、睨んでんじゃねーよとか殴られたことはよく覚えている。
あれだけ厳しい宮地サンを好きになるなんて、なまえちゃんって実はドエムなのだろうかと思ったことは数知れない。今にして思えばたぶん違う。宮地サンだって、何だかんだとイイ人なのは俺もよく分かってる。

なまえちゃんが猛アタックして、宮地サンが軽くあしらうっていう日常が板についたころ。
もうそのころは俺もバスケのことで頭がいっぱいだったし、なまえちゃんのこともただおもしれーなーって思うだけになって。いたわけなんだ、けど。
喧嘩をした、と聞いたときは本気で耳を疑った。だって宮地サンはともかくなまえちゃんが宮地サンに歯向かうなんてことは想像できなかったからだ。
部の空気もどことなく張り詰めていたような気がする。何で宮地サンとマネージャーの喧嘩だけでこんな空気になるのかと吹き出しそうになるのも無理は無い。
まあどうせそのうち仲直りするだろうと、特に口出しはしないようにした。いや、結局ちょっとだけ口出ししたけど…、あまりにも宮地サンが恐ろしいから。
でも、今となれば。

「しっかしなまえちゃんってさぁ、男前だよな…」
「うるさいのだよ高尾…」

体育館倉庫内で、扉の隙間から外を覗く。僅かに見える視界からは館内の中央に立つなまえちゃんと、壁に身体を預ける宮地サン。
盗み見、なんて人聞きの悪いことは言わないでもらいたい。実際俺らだって、混乱している。
自主練を終えて、んじゃあ片付けて帰るかと思って倉庫ン中入ってやってたわけだけど。ちょっと俺がモップを倒しまくって、真ちゃんにも手伝ってもらってたら突然あっちから宮地サンへの告白が聞こえてくるのだから。息を殺して隙間から様子を伺うのも、自然の原理だろ!

「だって普通、喧嘩してる時にだぜ?こんなところで好きだとか、言っ…」
「しっ、黙れ」

びしん、と頭を叩かれた。あれ、真ちゃんってばさっきまで覗きはよくないのだよ!とか言ってたくせに…。差し込んでくる眩しい光に目を細めながら、俺も二人の姿を目に映した。
とにかく、これで漸くくっついたってことなんだよな。すっきりした、というのも嘘じゃないけどやっぱ悔しいと思うのも仕方ない。
だから、さぁ。まだ女々しくも未練が残っていたりする俺の前でね。

「……真ちゃん、いまのみた?」
「…う、うるさいのだよ!」

キスは、ちょっときついんじゃないの!

(つれないハッピーエンド集)

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