「ねえ携帯貸して」

久し振りに福井の家に来た。何をするわけでもなくただ二人でくつろいでいた、のは良いんだけれど。弟と今日の晩御飯についてメールをしていたら妙なほうに話が変わっていき、何やかんやといううちに携帯の電源が切れてしまった。しまった、しっかり充電をしてくれば良かった。困ったな、と思ったがそういえば福井は弟のメアドを知っているのではなかったか。そういう訳で私は冒頭のようにそう言った。
福井は雑誌に落としていた視線を上げ、怪訝そうに私を見る。考えるように一瞬の間を置いてから。

「…いいけど、何だ」
「電源切れちゃったよー、福井、弟のメアド知ってるよね」
「あー、知ってる」

そう言うと傍らに置いてあった携帯をこちらに寄越した。予想以上にすんなりと渡してくれたので少し面食らう。どうせ暇だったのだから貸せ貸さないとやり取りをしたかった、とも思うけれど。まぁいいかとシンプルなデザインの携帯を手に取る。電話帳を開くと案外登録数があって驚いた。

「結構登録してあるんだね」
「お前オレを何だと思ってんだよ」

げしげしと足で蹴られる。いや、だって福井って人相悪いから。あまり友達とかいないものだと思ってた。意外な発見をしつつ弟の名前を探す。暫くしないうちに名前を見つけて、携帯の電源が切れたことをメールで伝えた。
するべきことを終えてまた暇になる。別に福井とは親同士の仲がいいから、というだけで付き合ってなんかいないし学校だって離れてる。だからこうして二人で部屋に居ても恋人ではないからいちゃつくこともない。だから暇になる。ゲーム機は壊れているようだった。暇だ。

「彼女できたんだって」
「は?オレ?」
「ちがうよ!私の弟」
「ああ、弟…」

落胆したように呟く。なぜ彼女ができたという話になって自分のことかとなるのか私には不思議なのだけど。しかも驚いていた。ということはこの人未だに彼女いないんだ…。と無性に可哀想に見えた。もしくは彼女ができたことを言い当てられて驚いたのかもしれない。福井に彼女って、何だか面白い。ふふふと笑う私を見ると物凄くひきつった顔をされた。失礼な…。

「弟はもう恋人ができたのにお前には未だにできないっつー話か」
「その言葉まるっとお返しするよ」
「悪いけどオレはあれだよ」

どれだよと返して見つめる。こんなところで見栄張らなくても良いのに、なんて思っていると弟からの返信がきた。
…福井先輩といんのかよ、実は付き合ってんだろ!という文。弟は福井のやつを尊敬してるから、羨ましいのだろうか。毎回ことあるごとに福井とはどういう関係なのか聞いてくるから。何だかんだと言いつつ私と福井が付き合えば自分の義兄になるのでそれを狙っているんじゃないかと思う。ちょっとだけ福井と恋人になることを想像してみた。

「うーん、無いかな!」
「なにがだよ」
「福井って好きな子いる?」
「ぶっ」

ななななにがだよ、とあからさまに動揺してくれた。ほほう何とも分かりやすい反応。よくこれであのとんでもないバスケ部のレギュラーがつとまるものだ。妙に感心する。

「ねえねえいるの?年上?年下?」
「うーるーせー!」

ぐいぐい裾を引っ張って聞くと鬱陶しそうに振り払われた。ひどい。もう怒ったぞ。
こうなったら福井の恥ずかしい携帯フォルダを漁ってやる!そう意気込んで携帯に向かい合うと、それを察したらしい福井が阻止にかかってきた。ますます怪しい!つかみかかってくる福井にきゃー変態と叫びつつしっかりと携帯を操作する。別に良いじゃないか、これくらい。プライバシー云々とかは私たちの間には無いも同然なんじゃないの。

「思春期になってからそうやって距離作るの良くない!反対!」
「そっ、ういう事じゃねぇだろ!やめろや!」
「ふーん悪いのはそっちだもーん」

ぴっぴっと軽快に画像フォルダを開く。大丈夫だよ安心して福井、どれだけエロい画像がはいっていようと私は見捨てないから。幼なじみとしてそれくらいの覚悟はあるつもりだから。安心してとでも言うように宥めるが福井は引き下がってくれなかった。もう、いい加減潔く負けを認めて欲しい。

「負けってなんだよ」
「まあまあ…って、おや?これは…」
「ああああ!」

ちょっとうるさいんだけど福井…。そんなことを思っていると手から携帯を奪われた。ああっ、良いところだったのに!がっくり落胆する私をよそに福井は勝ち誇ったようにふふんと笑う。いや、でもね福井。私は見ちゃったよ。福井の密かに大切にしているであろう画像を。一瞬しか見えなくてよく分からなかったけど、あれは確かに。

「女子高生の画像だった!それって福井の好きな子なんでしょ!好きな子の画像を保存しとくなんて福井も乙女だね」
「……あ、はい」
「はい?その微妙な顔は何?」
「いや、別に…。よく見えてなかったんだな?」

訝しげに思いつつも頷くと、安堵の息をこぼされる。変なの。

「お前が鈍感で良かった」
「心外だよ!ああ分かった、福井って実は私のこと好きなんでしょ」

そういえばさっきの女子高生の画像も、制服が私のものと同じだったもの。そんなことを添えて冗談のつもりで言ったのに。福井が耳まで真っ赤にして顔をそらすから。

「え?当たり?」
「うるっせーよバカ」

私までつい恥ずかしくなっちゃったじゃない!
(当たりの景品を所望します!)
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -