始まった誠凛との練習試合。結局合宿中3試合やってすべてうちの勝ち。予選のとき負けたのはマグレだったと言った高尾は罰として走らされている。まったく自業自得である。そういえば誠凛のほうは欠番だった7番の人が復活していた。確かあの花宮と同じく無冠の五将と呼ばれていた人だ。木吉さんというらしいその人を花宮はひどく毛嫌いしていて、中学時代はよくその八つ当たりをされたものだ。
「なまえ―、夕飯の準備行こ!」
「あっ待ってみっちゃん」
いつものことながら仕事の早いみっちゃんはさっさと片付けを終え私を待ってくれている。いやそれにしても練習試合の補助から息つく間もなく次の仕事に取り掛かるなんてみっちゃんってば偉い。私としては試合直後の汗を流す宮地先輩のもとで一息つきたいところなのだがここはぐっと堪えてみっちゃんのもとへ走る。大丈夫、まだチャンスはある…!と、おかしな希望を胸に抱いたところでふと後ろから声がかかった。

「みょうじ」
「はい!ってああ!宮地先輩!」

その麗しい立ち姿、涼しげな表情、ほんのり香る汗の匂い!それは紛れもなく宮地先輩のものである。まさか会いたいと願っていた人物が向こうから姿を見せに来てくれるとは思ってもいなかった私は思わず間抜けな声をあげて宮地先輩へと走り寄った。しかし私を待っていてくれているというみっちゃんが気になってそちらを振り返る。何とも幸せな板挟み!みっちゃんか宮地先輩、さあどちらを取る?そんな私の馬鹿な考えを見事に読み取ったらしいみっちゃんは苦笑いを零しながら先行ってるね、と言い残し去っていく。ああっみっちゃん…

「お前のバカみたいな考えが手に取るように分かるんだけど」
「さすが宮地先輩、私の旦那になる日も近いですね」
「あ、そうださっきの試合のスコア。貸せ」

頬を赤く染めて言った私の言葉を流れるかの如くスルーした先輩に腕に挟んでいたスコアをひょいっと取られる。ひどい。基本的に宮地先輩はバスケのこととなると私のボケに対する扱いが信じられないほど雑になってくるのだ。それさえも格好いい!と思ってしまう私は少なからずMの素質があるらしい。まあ、宮地先輩が望むならMにだってSにだってなりますけどね!一人盛り上がっている私を横目に宮地先輩はじっと試合結果を見つめ考えに耽っている。その勤勉さを是非見習いたいものです。

「あの、宮地先輩」
「………」

応答がありません。もしかしてこれはもう私に用はないということでしょうか、いやもしかしなくてもそうだ。何ということ。
…仕方ない、夕飯の準備のほうへ向かおう。そしてこの傷をみっちゃんの優しさで癒してもらおう。もう宮地先輩なんて知りません!と思う反面、どんなことよりもバスケを優先する宮地先輩にまたもハートを射抜かれているわけでもあって。何だか複雑だ。それはそうといい加減みっちゃんのところへ行かなくては。見終わったスコアは適当に置いておいてくださいと宮地先輩に告げてからここを去ろうと一歩、踏み出したところで。

「待て」

犬に命令でもするかのように発せられた宮地先輩の声に私も同じく犬のように動きを止める。あれ?私っていつから宮地先輩の犬になったんだ。おいおい…と首を傾げながら宮地先輩に再び向き直る。先輩は腰に片手を当てて少し渋い顔をした。どうしたのだろうか。また私が何かやらかしてしまったのか。いやそんな心当たりはひとつもないぞ…。決して機嫌が良いとは言えない表情をした宮地先輩に内心冷や冷やである。

「あの…なんでしょう先輩」
「インターハイの予選で負けた時に、」

ぽつり、と吐き出された言葉に思わず首をひねる。インターハイの、予選の…って誠凛との試合のときって事かな。
宮地先輩の次の言葉を待つように顔をあげる。

「俺が言ったこと覚えてるか」

言いにくそうに片手で持ったスコアで口元を隠しながら。そんな宮地先輩を見つめながらよく言葉を噛み砕いて飲み込む。…宮地先輩が言ったこと、だって?確かあの日は私が宮地先輩のところへ行って少し色んなことを話して、それから高尾たちが誠凛の人達とお好み焼き屋に行っているというメールを貰って…。何か、あったんだっけ…。結論から言わせてもらおう。
覚えてない。
しかしまさかそのまま覚えてません何を言ったんですかなんて無神経なことを聞けるわけもなく。必死にその時のことを思い出そうとぐるぐる頭の中を回転させてみる。……ああ、ひたすら宮地先輩から良い匂いがしたことしか思い出せない!この変態!と全く役に立たない自分の記憶力を恨む。
「はあ」
不意に大きなため息が聞こえたので冷や汗をだらだらと流しながらぎこちなく先輩を見やる。あからさまに苛立ったオーラを纏っていた。…お、おおう、すみません魔王様。

「あ、あの」
「次、誠凛に勝ったら言うって言ったんだ」
「……、」

…何を?とは、言えず。

「でも、まあ…お前のその空っぽな頭には残ってねえみたいだから」
「うっ、すみませ…」
「…許さねーよ」

ぐいーっ、と引きちぎれんばかりに頬を左右へ引っ張られる。あまりの痛さに声も出せずに目で宮地先輩は許しを請うたが逆にジト目で返されたため私はもうされるがままになるのです。と、いうかどことなく宮地先輩が楽しんでいるような気もするのですけれどこれは気のせいなのだろうか。
いよいよ頬が二つに分離するのではというところでやっと手を離した宮地先輩は頬を赤く腫らす私を見て鼻で笑った。ひ、ひどいです…。

「つーかお前いつまでサボってんだよ、マネージャーは夕飯の準備だろうが」
「その原因は9割宮地先輩で、」
「え?」
「だから原因は宮地せん、」
「何?聞こえない」
「…ごめんなさい…いってきます…」

まったく宮地先輩って腹黒い。そんな有無を言わせない真っ黒なオーラで笑い返されたら謝るしかないではないか…。何だか今日の宮地先輩こわい…のに好きだと思ってしまうのはやはり私がMだから?いやまさかそんなこと、
「みょうじ」
「はい?」
「風呂入ったら俺のとこ来ること」

さらりと言ってのけた宮地先輩の発言に思わず身体が固まる。…何だか今、すごく不純な言葉を聞いたような、気が…。

「まさか、夜の…お誘い」
「高尾のトランプかっぱらってきたから」

トランプでした!

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