お化け屋敷の後は私の提案でジェットコースターに乗った。みっちゃんは絶叫系が苦手だったみたいでダウン寸前だったみたいだけれどそれを優しく木村先輩が慰めていたのでオールオッケー。そのあとはバイキングに乗ってやっぱりみっちゃんが顔を青くさせて、木村先輩が心配して…。その二人のやりとりを見て私はとても悶々としていた。傍から見ればもう付き合ってるも同然な光景なのだけれど、どこかお互いに遠慮している気がしてならない。本当に好きなら、もっと積極的にいってしまえばいいのに。なんて思う私はやっぱりこれだから駄目なのだろうか。宮地先輩にあの二人のことを言ってみても首を傾げられるだけでよく分からない。でもあまり私が二人の中に入ってしまうのも良くないだろうから。じれったい二人を眺めながら私はもどかしい気持ちを飲み込んだ。
「…あ、あれ乗りましょう!」
ふと視線をうつした先にあったコーヒカップを指差して言う。だってコーヒーカップって何となく密着できるから。宮地先輩と密着できるから。なんていうのは冗談で、どうにかもっとみっちゃんと木村先輩の距離を近づけたかっただけで。私の右側に宮地先輩、その右に木村先輩、そのまた右にみっちゃんという形で乗り込むと思った以上に窮屈だった。これはなかなかおもしろそう、と思っているとカップが動き出す。そして、私たち。否、正確には私と宮地先輩は。思い切り、力の有り余るままに、勢いに身を任せて。容赦ない勢いで回転するカップにみっちゃんや木村先輩はもちろんのこと、私と宮地先輩でさえ顔を歪めさせる事となった。

「…あ〜、きっつ」
「宮地先輩が回しすぎるからですよ」
「いやお前もだろ。お前が七で俺が三ぐらいの責任だろ」
「ちょっと私に偏りすぎている気がするんですが!どうするんですか、みっちゃんはもうフラフラですよ」

びしっ、とベンチにぐったり横たわるみっちゃんを指差すと宮地先輩はバツの悪そうな顔をして腰に手をあてた。木村先輩が心配そうにみっちゃんを見守る中、私と宮地先輩は顔を見合わせる。これは、二人きりにさせてあげたほうが良いのかもしれない。なんて、責任放棄も良いところな考えで、私たちはそっと二人から離れた。みっちゃんたちが見えなくなったところで立ち止まると、宮地先輩がふうと息を吐く。

「つーか何?あいつら付き合ってんの?何あの花畑みたいな空気」
「付き合ってはいないと思いますけど…って何言ってるんですか私たちだって十分お花畑ですよ!」
「ははっ、どこが?」

笑顔であって笑顔じゃない宮地先輩特有の表情を見せつけられて私も思わず引きつった笑みを返した。まあ確かに私たちの空気はお花畑というよりジャングルといっても過言では無いだろうけれど。
さて、これからどうしようか。とにかく今、あの二人の元に戻る気は毛頭ない。というより戻っては駄目な気がするのだ。みっちゃん達のためとしても、私のためとしても。さあどうする。宮地先輩と何かに乗るか、それともお土産売り場にでも寄るか、もしくは。じいっとぐるぐる回っているメリーゴーランドを睨みつけながら考える私に、宮地先輩ははっと何かに気づいたように声をあげた。

「メリーゴーランドは乗んねぇぞ」
「わ、分かってますよ!190越えの高校生がメリーゴーランドなんて犯罪級ですからね」
「刺すぞお前」

不敵な笑みを浮かべて言い放った宮地先輩にすみません、と謝りの言葉を口にしようとしたところで、ふと何処かから美味しそうな匂いがした。ぱっと顔をあげて周りをきょろきょろと見回す私を宮地先輩が目元をひきつらせながら見ていたけれど、そんな視線も気にならないぐらいに食欲をそそられる匂いだった。そういえばお昼ご飯をまだ食べていない。思い出したように湧き上がってくる空腹感に耐え切れず、隣に立つ宮地先輩の腕を引いた。
「お昼ご飯買いましょう先輩、みっちゃんたちの分も!」
「奢ってくれんのか」
「ちょっ…冗談きついですよ先輩」
ちっ、と宮地先輩が舌打ちをするような音が聞こえたけれど気にしない。



「あっ、なまえ!もうどこ行ってたの?」

この遊園地の名物だというタコスを両手に二人の元へ戻ると大分回復したらしいみっちゃんが声をかけてくる。その声にごめんごめんと軽く返事を返してから木村先輩に目をやるとやはりぱっと顔をそらされてしまった。何だか今日は目を合わせてくれない。どれだけシャイな高校生なんだ。宮地先輩がタコスを木村先輩に渡しながら何か声をかけている。それを聞いた木村先輩は少しだけ顔を赤く染めた。…宮地先輩、朝は私にあんまり茶化すなって言ってたのに自分が一番茶化してる気がします。ずるいです先輩。みっちゃんにタコスを渡しながら宮地先輩をじっと眺めるとみっちゃんが少し微笑んで口を開いた。

「何か、本当に良いねなまえって。すごく自分に正直で」
「え?何で?」
「何かね、すごく羨ましい。私ももっと素直になれたらなあって思うよ」

みっちゃんのよく分からない言葉に首をかしげる。みっちゃんは今でも十分自分に正直で素直だと思うんだけれど。私に羨ましがられる要素なんてこれっぽっちもないはずなのに。もっとちゃんと木村先輩にアタックできるようになりたいってことなのかな。まあ今でも多分もう伝わっていると思うけど、やっぱりみっちゃんは、今日。

「…告白、するの?」

私の言葉を聞いたみっちゃんがぶわあ、と顔を赤くする。あ、あたっていたらしい。珍しく自分の勘というやつに感心しながら納得した。告白、かあ。私なんてもう会った初日に告白をしているけれど…、でもあれって告白というのかな。一方的に愛を押し付けてしまったような気もするけれど、それがあってこそ今の関係にあるのだから、あれはあれで良かったのかもしれないですね。まあいいか、とりあえず今は。みっちゃんが不安げに瞳を揺らす。その表情に胸をきゅんとさせつつ少し声を抑えて声をかける。
「…どこで告白するとかって考えてる?」
「…うん、あの、観覧車…あるじゃない?そこで、できたらなあって…」
「あ、それ良いね!」

観覧車の中で告白なんてすごくロマンチックで素敵。しかもそれをあの可愛いみっちゃんがやるとなるとそれはもう言葉で言い表せないほどの破壊力。木村先輩が粉々に破壊されないと良いけれど。でもあの観覧車ってすごく人気だから早く行かないと日が暮れてしまいそうな気もする。そわそわとするみっちゃんの手を握って木村先輩たちに歩み寄ると二人分の視線が私に向いた。こちらに視線が集まったことを確認してから、観覧車いきましょう!と言いのけた私にみっちゃんは驚いた声をあげる。
「ちょっ、なまえ、いきなりすぎだよ!」
「だって早く行かないと!いっぱい並んでるから、」
「でもっ」
小声でやりとりをする私たちを眺めながら宮地先輩が口を開いた。

「あの観覧車ってなんかジンクスみてーなやつあったよな」
「そうらしいですよね、あんまり覚えてないんですけど…みっちゃん知ってる?」
「え、あ、うん。ここの観覧車はね…、」

想い人と乗って、頂上で告白するとうまくいく。恋人同士で乗って、頂上でキスをすると二人はずっと一緒に居られる。異性の友達と二人きりで乗ると、二人は恋に発展する。
と、まあここの観覧車はすごく恋愛方面では有名な場所らしい。みっちゃんが説明してくれたことを頭の中で思い返しながら改めて知った。あ、だからみっちゃんは告白場所にここを選んだのか。なんて。告白ももうしてある、だけど別に恋人同士でもなければ異性の友達というわけでも無い私と宮地先輩はどうなるのだろうか。真剣に考えてみても、答えなんてどこにもあるはずなんてないわけで。まあ、所詮ジンクスだから絶対にそうなるという事では無いのに。でも、好きな人と観覧車というのは正直憧れる。思わず胸が弾んだ。

「宮地先輩一緒に乗りましょうね!」

なんて言って抱きつけば宮地先輩は私の顔を鷲掴んで無理やり離される。ああ、照れ屋な宮地先輩ってすごく可愛い!体からハートマークでも飛ばしそうな私を宮地先輩が引きずりながら、四人は観覧車へと向かう。案の定すごい行列ができていた。これは一体何分待たされるのだろうか、と顔をひきつらせる私たちとは対称的に降りてきた男女たちは幸せそうだった。ああ、良いなあなんて羨みの視線を注いでいると宮地先輩に頭をぶっ叩かれた。痛い。何で。


結局観覧車に乗れたのはあれから一時間ぐらい経ったのではないかというときだった。私たちよりひとつ早く観覧車に乗ったみっちゃんにはちゃんとエールを送っておいた。あとはみっちゃん次第。やはりお花畑な雰囲気の二人を見送り、私たちも乗り込む。長いあいだ待たされたおかげでげんなりしきっている宮地先輩が少しかわいそうに見えた。かくいう私ももう大分疲れきっているんだけれど。ふ、と窓の外に見える風景に目をうつしながらみっちゃん頑張れるかなあなんて考えてみる。その反面、自分の向かい側にいる宮地先輩に胸を高鳴らせていたりもする。何だか静かな空気に耐え切れなくなって思わず口を開いた。

「…高いですね」
「まだまだだろ」
「そうですよね、もし私が高所恐怖症だったら宮地先輩に抱きついて泣いてましたよ」
「ふざけんな、高所恐怖症だったら乗んねえよ」
「あ、そうですか?というか先輩観覧車似合いますね」
「どういうことだよ」
「かっこいいですってことですよ言わせないでください恥ずかしい」
「意味分かんねえから恥ずかしがんな」

淡々と交わされていく会話。でもそんな流れるように繰り出される会話が私は好きだ。自然で、落ち着いて、安心する。緩やかに高度をあげていく観覧車の外を眺めながらなんとも言えない居心地の良さを感じた。もし、…もし。宮地先輩と、私が。そういう恋仲というものになったとしても。この居心地の良さは変わらずにあるのだろうか。それとも、消えてしまうのか。宮地先輩とそういった仲になりたいというのは嘘ではない。でも、だからといって泣きながら懇願しようと思うものでもない。こんな、漠然とした関係の中で私は。

「…みっちゃんたち、うまくいってますかね」
「さあな」

そっけなく返事を返した宮地先輩は窓枠に肘をつきながらじっと外を見つめている。名所なだけあってここから見える風景は素晴らしいと思う。私も外に視線を落としているけれど、考えるのは宮地先輩のことばかり。宮地先輩は今、何を考えているのだろう。こんな時でもバスケのこととか、考えているのかな。まったくうちのバスケ部は遊びより恋よりバスケ一筋で、困ったものだ。結局のところそんなところが一番好きだと思っているのだけれど。大分地上から離れてきた観覧車に心臓がどくどくと動く。頂上にいったって曖昧な関係の私たちがすることは無いのに。

「正直観覧車っていつ頂上にきたのかって分からなくないですか?」
「…まあお前はそうかもな」
「お前はって!ちょっと馬鹿にしましたね今」
「ちょっとっつーかおもいっきり馬鹿にした」
「泣きますよ」
「やめろ」
「うわーん」
「頂上教えてやろうか」
「え?あ、はいお願いします」

私がそう返すといままでずっと外を眺めていた宮地先輩がふっとこちらに視線を向けて少しだけ笑った。その表情にどっくんと心臓が大きく動く。思わず動けなくなる私に構わず宮地先輩は流れるような仕草で腰を上げると、私の肩に右手を置き、そのまま。額に柔らかい感触が一瞬だけあって、すぐにぱっと離れていく。元の場所に戻り座った宮地先輩は口元を手で隠しながら再び外へと視線をやった。その一連の様子を呆気にとられるようにただ見ることしかできなかった私はそれを理解した瞬間、顔が物凄い勢いで熱くなっていくのを感じた。…額に、キスだなんて。ああ、もう、

「…みやじ、せんぱい」
「……いまのが頂上」
「えっ!」

頂上の景色は見逃した。でもそれ以上のものを得た。

ねえ、どうしてキスをしたんですか。
何を思って、何を感じているんですか。
私は、もう宮地先輩のことしか考えられなくなりそうで、怖い。

未だに先ほどの感触が残った額を手で触れて、僅かに顔を赤く染める宮地先輩の顔を盗み見た。
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -