「どっ、どうしようなまえ!やっぱりこっちのピンクが良いかなっ…!?」
「え?でも今のワンピースも可愛いよ?」
「で、でもっ、ああどうしよう!これちょっと子供っぽくないかなぁ?」
「大丈夫だよすっごく可愛いから」
「本当っ!?ああもう不安だよ〜!」

そんなことより時計を見てみっちゃん。早く行かないと、先輩達待たせちゃうから。携帯の時間をちらちらと気にする私をよそにみっちゃんは未だに服を広げている。もう髪型もメイクもしてあるし、ちゃんと可愛い服も着ているのに何をそんなに迷っているんだろう。あたふたと私に意見を求めてくるみっちゃんに苦笑した。やっぱり女の子だなー、なんてしみじみと思いながらみっちゃんが落ち着くのを待つ。まあまだ待ち合わせ時間までは余裕があるから大丈夫だろうけれど、遅刻したら怒りそうだし。宮地先輩が。木村先輩は何てことない顔で許してくれそう。…あ、だからみっちゃんが好きになったのか。なるほど、と私が納得している間にやっと服を仕舞いだしたみっちゃんに安心した。あ、結局そのワンピースで良いんですね。すごく可愛い。ほわわんとしているみっちゃんにピッタリだと思った。

「じゃあ行こっかみっちゃん」
「う、うん!」

がちがちなみっちゃんに和みながら目的地に向かう。まあ、緊張するのも分からなくもないけれど。私の勝手な決めつけによると、今日は飽くまでもみっちゃんと木村先輩をくっつけさせるためのデート。つまり今日の主役はその二人なわけで、私と宮地先輩はサポート役。と、言いつつもちろんどさくさに紛れて宮地先輩にくっついたりする予定ですけどね。とりあえず遊園地を存分に楽しみながらみっちゃんたちを見守りたいと思います。うまくいくといいなあ。



「あ、宮地先輩〜!!」

見慣れた無駄に背の高い男二人組を見かけて手を振ると隣のみっちゃんがびくっと肩を揺らした。一瞬にして顔を真っ赤にさせたみっちゃんを引きずって先輩達のほうへ駆け寄る。とりあえずみっちゃんを木村先輩に押し付けてから宮地先輩へと顔を上げた。ああやっぱり私服姿も格好いい…!思わずすごく新鮮な宮地先輩の私服姿に見とれていると宮地先輩が怪訝そうに首を傾げて私を見た。その仕草に見事心臓を鷲掴みにされた私は勢いよく顔の前で腕をクロスさせてバリアを張った。

「ああ駄目です先輩すごく反則ですその姿は私もう直視できません!半径二メートル以内に入られるともれなく私は爆発します」
「何言ってんの?」

目を細めて冷たい視線を浴びせる宮地先輩がいつも通りで何となく安心しながら何とか冷静を取り戻す。隣で初々しい空気を醸し出していたみっちゃんと木村先輩がすごく奇妙なものを見るような目をこちらに向けていたけど気にしない。とりあえず木村先輩におはようございます、と言うと木村先輩は戸惑いながらもおはよう、と返してくれた。その二人ににっこりと笑顔を向けていると宮地先輩の手が頭にぽんと乗ってくる。ぱっと宮地先輩に視線を上げると呆れたような瞳と目があった。
「あんま茶化すな」
「…はーい」
にやついた口元もろくに隠さないまま返事をする。何だかいつも高尾と一緒に緑間のことからかったりしていたからちょっとこういうのって楽しくなっちゃうんだよね。少し反省しながらさりげなく宮地先輩の腕に絡みついてみるとすごい力で押し返された。ひどい。…わ、わかってるよ照れているんでしょうまったく宮地先輩ったら恥ずかしがり屋なんだから。拒否されたことに少なからずショックを受けている私を木村先輩が憐れむような目で見ていた。ちくしょう、そんな顔して私を見るなバカ野郎、みっちゃんといちゃいちゃしてやがれ。同情するなら愛をくれ!ふん、と遊園地内に足を進めていく私の後ろで宮地先輩が私の名を呼んだけれどちょっとした意地を生んだ私は振り返らなかった。我ながら子供のような拗ね方だなと思う。まあ、別に本気で怒っているわけでも無いんだけれど。少し歩いて立ち止まった私の横にみっちゃんが立つ。

「ここ久しぶりに来たなぁー」
「私もだよー!みっちゃん最初どれいく?」
「うーん」

少し考えるようにしたみっちゃんが後ろにいる先輩達に声をかける。どれ乗りますか、と天使さながらの笑顔で言うみっちゃんに心なしか木村先輩の頬が少し赤くなっているような気がした。ふーんなるほど。木村先輩もまんざらじゃないんだ。まあデートのお誘いを承諾した地点で薄々分かってはいたけれど。じとーっと木村先輩を見続けているとばっと顔をそらされた。そんな私たちを不思議そうな表情で交互に見やるみっちゃん。その微妙な空気の中、おもむろに声をあげたのは意外にも宮地先輩だった。宮地先輩はだるそうな動きで自分が向いている方をまっすぐ指差した。あれ行くぞ、と一点を見つめながら言う宮地先輩にならって私たちも指差す方へと顔を向ける。そして、そこにあったものは。

「…お化け屋敷?」
「おい宮地、初っ端からお化け屋敷って」
「いいから行くぞ」

どんよりとこの遊園地のなかでも異様に浮いているその不気味な建物を見た私たちが一様に顔をひきつらせる中、宮地先輩はそれに構うことなくそのお化け屋敷へと向かった。あまりにも唐突するすぎる宮地先輩の行動に私たちは戸惑いながらも後を追う。みっちゃんがあからさまに顔面を蒼白させている。木村先輩も言葉を失ったように立ち尽くした。かくいう私もお化け屋敷なんて得意なほうではない。三人で空気を張り詰めさせていると宮地先輩が木村先輩に顎で早く行けと促す。いきなりどうしたんだろうか。かなりのお化け屋敷マニアとかそういうことなのか。みっちゃんが困惑したように私を見てくる。ごめんみっちゃん、助けたいのは山々なんだけどね。

「俺らは後ろから行くから、木村たちは先行け」
「ちょ、宮地、」
「えっ、わたし、木村せんぱ…」
「さっさと行け!焼くぞ!」

有無を言わせない宮地先輩は抗議の声をあげる二人を半ば無理やりお化け屋敷の中にぶち込んだ。おわあ、頑張れみっちゃん…。泣く泣く二人で入っていった様子に同情する。でもお化け屋敷ってさりげなくくっつけるし、暗いところに二人だし、まあ男女が行くには良い場所かもしれない。あ、宮地先輩はそれを分かった上で二人をお化け屋敷に入れたのか。さすが頭のいい人の考えることは違うなあ、と変なところで感心した。じゃあ私たちはあの二人を出口まで先回りしてお出迎えするっていうことですね!出てきた二人がどこまで密着しているのか見ものです。じゃあ早速出口まで行きますかと声をあげようとしたところで宮地先輩が口を開いた。

「何やってんだ、さっさと行くぞ」
「…えっ!?」

入る気満々でした。いやいやと首を振る私の腕を引っ張ってどんどん進んでいく宮地先輩が今日ばかりは鬼に見える。いやっ、好きですけどね!それでも好きですけど、でも。薄暗い灯りが僅かにだけある通路を進むとどくどくと心臓が暴れる。私の腕を掴む宮地先輩の手の温度にときめく反面、少し不安な気持ちが募った。先ほど宮地先輩に拒否反応を示されたことを思い出してまたひとつ気分が沈む。彼女でもない私がああやって抱きつこうとしたのはそれは悪いと思いますけど、やっぱり拒否されるのはショックなわけで。まあ仮に木村先輩たちが居たから、という理由で拒んだのであれば納得はいくけれど。もし今、木村先輩たちもいない今ここで私が宮地先輩にくっついたとして、また拒否されたらと思うと。
…お化けより怖い。いや、お化けも十分怖いから咄嗟に宮地先輩にひっついてしまうかもしれない。そんな乙女チックな状況になるのは別に構わないけれど拒否された時のことを考えるとまた恐ろしい。なるべく抱きついていかないように気を付けよう…。

「…宮地先輩ってお化け屋敷好きなんですか?」
「別に普通」
「あ、じゃあやっぱりあの二人をくっつけるために宮地先輩なりに考えた結果ってことなんですね」
「は?いや、それは別に…」
「ぎゃあああ!」
宮地先輩の言葉を遮るように急に飛び出てきた血色の悪い和服姿の人たちに思わず声をあげた。お化けというよりは私の声にびっくりしていた宮地先輩は私の手を掴むとさっさと奥へと進んでいく。握られた手がどうしようもなく熱い。そのせいなのかお化けのせいなのかよく分からないままどっくんどっくん跳ね上がっている心臓を押さえつける。ああ、もう、壊れる。暗闇の中微かに見える先輩の顔をこっそりと盗み見ながらふう、と息を吐いた。本当はもっとくっつきたいのだけど、もう拒否されるのは怖いから。抱きつきたい衝動をぐっと堪え周囲に気を集中させた。…そういえば高尾とかってお化け屋敷でも後ろからお化け来たら見えるのかな…それって怖いのかな…。あっでも鳥目だから何も見えなくなるのか。ふむ、と私が他のことを考えて油断しているときを見計らってお化けはやってくるらしい。ばんばんっ、と壁が大きな音を立てると無数の腕がこちらへ伸びてくる。

「っむりむりむり!みっ宮地せんぱ、あっダメだうわああああ」
「あっダメだってなん、」
「いやいやいや無理無理ぎゃああああ!!」
「うわっ馬鹿!」

私すれすれまで伸びてきた腕にもはや失神寸前になるもちゃんと宮地先輩に抱きついたらいけないということを覚えていた私は咄嗟に宮地先輩から離れてよく分からない方へ走った。だって何あれ、すっごいいきなりいっぱい何か、腕…、白かったし、ああびっくりした。でも宮地先輩に抱きつかなかったのはちょっと褒めてもらっても良いと思う。まあその代わり何だか変なところに迷い込んでしまったわけですけれど。ふと冷静になってあたりを見回してみるも暗いだけで何も分からなかった。何とか走り出した私を追いかけてきてくれた宮地先輩が改めて私の腕を掴んでため息を吐く。

「何やってんだお前は」
「すみませんちょっと気が動転して…」
「っとに…戻っぞ」
「あ、はい!」
「あっみょうじうしろ」
「ぎゃああああ!?」
「はいうそー」
「ちょっ、宮地せん………」

そこで私は重大なことに気がつきました。ふと冷静になって顔をあげてみると思いのほか宮地先輩の顔が近くにあったのです。つまり何を言いたいかご理解いただけるだろうか。宮地先輩の洒落にならないお茶目な言葉を本気にした私は見事にびびった挙句咄嗟に目の前の宮地先輩に抱きついてしまったのです。要はそういうこと。ゼロ距離にある宮地先輩の胸板に思わず血の気が引いた。あ、やばい。怒られる。危険を察知した私はさっと距離を置こうと足に力を込めた。それよりも一瞬早く宮地先輩の腕は私の身体に回ったわけだけれど。
「……えっ、宮地先輩」
別に抱きしめられるのなんて初めてなわけじゃないのに、声が上ずった。宮地先輩はぎゅっと腕に力を込めると私の肩に頭を軽く乗せる。宮地先輩の髪が首筋にあたってくすぐったい。身体を完全に硬直させた私に構うことなく宮地先輩は口を開いた。
「…朝の、は、別に嫌だったわけじゃねぇから」
「……朝の…って」
「それだけな!はやく戻るぞ」
ぱっと私から身体を離す。あ、と思わず名残惜しげな声が漏れた。それに気づいた宮地先輩は少し噴き出して笑うと私に背を向けた。その素っ気ない態度に再びショックを受けつつ俯くと宮地先輩がそろりと小さく手をこちらに差し出してくれていたのが見えて私は勢いよくそれに飛びついたわけで。さりげなく指を絡めるように握ってみると思いのほか受け入れてくれたので私はもうどうしようもなく心臓が締め付けられた。やっと元の通路に戻ってお化けたちの洗礼を受けながら出口を目指すけれど、もうずっとこのままでも良いかななんて馬鹿なこと思ってみたりする。
でも終わりはすぐに見えて、眩しい光が私たちを照らした。

「あっ、おかえ……」
「ただいまみっちゃんー」
「……宮地?」
「あー疲れた、何だよ木村」
「いや、何でもねぇよ…」

(何で恋人つなぎしてるんだろう)

数秒後、すっごい勢いで宮地先輩が私から手を離した。あ、残念。でもまあ、良いかなあなんて。
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