「真ちゃんなまえちゃん、見てコレ!」
「うわ高尾って字下手だね」
「何それ酷くねぇ!?」

珍しく授業が自習に変わって暇だなと思っていた矢先、高尾がくるりとこちらに身体を向けてきた。なんだなんだと高尾が差し出してきた紙を覗き込むと何やら汚い字で書かれた文字と何本かの棒。隣の緑間は付き合ってられんのだよと吐き捨ててそっぽを向いてしまったけれど高尾がしつこく声をかけてくるので観念したらしい。その意味不明な紙を見て私と緑間は首をかしげるだけだったが高尾はいつも以上ににやにやと口元を緩ませてなるべく小声で口を開いた。どうせ馬鹿なことをするんだろうなあと思いながらも、自分もそういうことは嫌いではないというより大好きなので聞いてやることにした。

「これはな、あみだくじ!なのだよ!」
「それが何なのだよ?」
「お前ら俺の真似をするな」

怒られた。そんなことを気にするわけがない高尾は緑間の声を華麗にスルーして話を続けた。その話によると、この三人であみだくじをやって指定されたことを今日一日やって過ごす、ということらしい。なかなか面白そうだとは思うけど緑間ってそういうことやってくれなさそうだな。まあ意地でもやらせるけどね。了承するようにうんうんと頷いた私を見た高尾は決まりだな!と笑った。あ、もともと緑間に拒否権はなかったんだ、さすが高尾。紙の端を追って隠す高尾を毛虫を見るような目で見る緑間は相当やりたくないんだろうと思った。

「あれ、もうやることは書いてあるの?」
「もちのろん、最高に楽しいやつにしといたぜ!」
「嫌な予感しかしないのだよ」

そう言って今日のラッキーアイテムであるコンパスを握る緑間。本当にそれで高尾の魔のくじを回避できるのかどうか疑問だ。きっと高尾のことだからどの場所に当たっても変なことを指定しているだろうし。…とんでもないこと書いてなければ良いけど。上機嫌の高尾と若干不安な私で大きい棒の間に線を引いていく。緑間はそれを緊張した面持ちで見守っていた。なんだろうこのシュールな感じは。真面目に自習している人に申し訳ないなと思うけど多分ああまたあいつらかって思われているに違いない。すべての線を引き終わると高尾は満足げに息をついた。

「よっしゃ!じゃ、緑間から選んでいいぜ〜」
「ここなのだよ」
「本当に〜?ほんっとにそこでいいの?後悔しねえ?ほんっっとに、」
「うるさいのだよ」

無駄にしつこい高尾を一蹴し、左から二番目の棒を選ぶ。俺は人事を尽くしているのだからなんちゃらかんちゃらとまた言い始めた緑間は放っておいて高尾と向き合う。さあ、何処を選ぼう。数本の棒が並ぶ紙を少し眺めて、唸る。その様子を高尾が口端を吊り上げて見ている。妙な緊張感の中、直感で私が指差したのは一番右側の棒。何か端っこは無難な気がしたんだ、勘だけど。私の勘なんて当たったことないけど。あー真ん中にしておけば良かったかもな、と思う私をよそに高尾はさっさと自分の棒を決める。三人分の名前が書き込まれたところで、高尾が私のペンケースから色ペンを取り出した。すごく自然と中身を漁られたけどまあ高尾だからという理由で許してあげた、私って優しいよね。

「よーし、緑間は緑でなまえちゃんが赤、俺がオレンジな!」
「まず誰からやる?私のオススメはみっくんと緑間と真ちゃんなんだけど!」
「どれも一緒なのだよ」
「あ〜迷うな〜!じゃあここはみっくんから行くわ!ごめんな緑間、真ちゃん」
「みっくんからだって!よかったね緑…、じゃなくてみっくん!」
「今緑間って言わなかったか」

きゅいきゅいーん、と軽快な動きで緑のペンをなぞっていく高尾を心配そうに眺める緑間に思わず噴き出しそうになりながらも堪えた。どんなものに当たったのか物凄く気になるけど開けるのは三人分が終わってから。緑間に続いて私の線を赤くなぞっていき、最後に自分の線を辿る。大分ご機嫌がよろしいようで鼻歌なんか歌いながら作業を進めていく高尾はすごく楽しそうだ。絶対変なこと書いてあるんだろうなと思いながらも楽しみにしている自分がいるわけで、私も大概アホの子。ふっふっふと笑う高尾の声が聞こえた。全部終わったらしい。

「さあて皆の衆…準備はよろしいかね!?決められたことは絶対、服従!ちなみにリタイアは不可!意地?プライド?そんなもん捨てちまえ!!今日一日を全力で生きろ!!」
「イエッサー!!」
「お前ら声が大きいのだよ…」

授業中にも関わらずどこぞの番組の司会者のように張り切る高尾と、いつものノリで返してしまった私に緑間が頭を抱えた。どこかでまたあいつらかって声が聞こえたけど気にしない。人生楽しんだもん勝ちってこの目の前の馬鹿が言ってた。まさにそうだよね!くよくよ生きてたって楽しくないもんね!と、いうわけで私は過去を振り返らないことにした。昨日と一昨日のこと?何それ美味しいの?で、ある。
ばばーん、という効果音がつきそうなくらいに紙を広げた高尾。息を飲んでそれを覗き込む緑間と私。そして、その結果。

「えーと何々?オレが、…ぶっ!へ、変態ごっこ!ぶふぉお」
「笑いすぎなのだよ」
「変態ごっこ?なんだいつもの高尾じゃん…」
「酷ぇって!俺傷ついちゃったから胸揉ませてなまえちゃん」
「もう始まってんの?ってこれ一番の被害者は私だよね」
「だって他の女の子に変態発言したら可哀想じゃんか」
「どういう意味なのそれ!」

もう既にノリノリで変態ごっこに入っている気持ち悪い高尾をとりあえず一発蹴ってから緑間の指定を読む。ええと、高尾の字が汚くて読みにくいことこの上ないのだけど、なんとか解読してみると。そして理解した瞬間、私は盛大に噴き出すハメになった。なまえちゃんの脚触りたいとぼやいている変態(今日限定)にその紙を見せつけるとヤツは椅子から転がり落ちそうになってた。そのあとは死ぬんじゃないかってぐらいに腹を抱えて爆笑している高尾。その様子を怪訝そうに見る緑間が声を出す。

「一体なんなのだよ」
「んふ、みっ…くんは、ぶふっ、語尾を、だっちゃ、にす…っるふはは!!」
「なまえちゃ、笑いっすぎ、っははは!げほっ!」
「笑いすぎてむせてる高尾に言われたくなかったよ!」

まったく、少しも納得していないような緑間は本当に嫌そうに顔を歪めた。それさえも今の私たちのドツボでゲラゲラ笑っていたらこのクラスの委員長にちょっと怒られてしまった。さすがにうるさかったみたいだ。やれやれといった様子の緑間は汚いものを持つような仕草で紙を取ると、私の赤い線がたどり着いた先を見ている。あ、そういえば私のはどうだったんだろう。とりあえず変態ごっこが当たらなくて心底良かったと思う私に緑間はそっと紙を差し出してきた。なんだなんだ?やはり高尾の汚い字で書かれた文字。それに目を凝らして読むこと、三秒。

「どうだった推定Bカップのなまえちゃん」
「気持ち悪いよ高尾、っていうか、えっ、なにこれ?」
「お?なんだったの?」
「異性の衣服などいつも身につけているものを借りて着用なのだ……だっちゃ」
「ぶはははは!だっちゃキタコレ!…って、マジ!?なまえちゃん面白っ!」

異性の身につけているものを一日借りていればいい、ということか。緑間のだっちゃ発言の破壊力に死にそうになっている高尾を眺めながら考える。異性、というと目の前の二人がそうなるのだけど、と思ったところでふと緑間の眼鏡に目が止まった。いや、でも私それほど目が悪いわけじゃないから眼鏡かけたまま一日を過ごすのはきついよな…。じろじろと私の視線が自分の眼鏡に向いていることに気づいた緑間がこれはやらんのだっちゃと言うので再び高尾が笑い転げている。とても高校生には見えないやつらだ…私を含め。
…身につけているもので何か目立たないものは無いか…と教室を見渡す私になんとか持ち直した高尾が声をあげる。

「俺の学ランとかどうよ」
「目立つにもほどがあるよ!」
「目立つから面白いんだって!な!」
「絶対先生に見つかったら怒られるよ、私嫌だよそんなの!」
「なまえちゃんいつも怒られてんじゃん、仕方ないなーじゃあ…あ!」

急に高尾が思い出したように自分の鞄を漁りだした。また何か変なもの出さなきゃいいけど、と思いながらそれを見守っていると高尾はその中から赤いカチューシャを取り出す。ああ、そういえばたまに付けてたような気がする。まあ、あれぐらいなら良いか。半ば諦めるようにそのカチューシャを一瞥した。ふふんと自慢げにそれを持った高尾が席を立って私の後ろに回り込む。ちょっと、授業中に何してんだと周りを見やるとみんなが席を立っていた。あ、いつの間にか授業も終わっていたらしい。カチューシャを持って鼻歌を歌いながら私の髪に触る変態高尾に少し不安を抱く。

「何するの変態高尾くん」
「俺が可愛くつけてあげようかと思って!」

語尾にハートマークでもつきそうな勢いだ。あまりにも楽しそうなので好きなようにやらせようと思う。大分慣れた手つきで髪を扱うあたり、やっぱり高尾には妹がいるんだろうなと感じさせる。器用に私の頭にカチューシャをつけた高尾をちょっとだけ尊敬した。男子でこれだけ綺麗にできるってすごい。さすがハイスペック。
「お礼はなまえちゃんからのキスで良いから!」
この一言さえ無ければ。

「なあ今のわりと本気で言ったんだけどどうよ?」
「あっみっくん!次の授業当たるから教えて!」
「まったく仕方ないのだ、っちゃ」

これで一日をやっていけるのか私は不安で仕方がないよ。
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