「宮地先輩って彼女居ると思う?」
「知る訳がないのだよ」

そう、私は一番大切なことに気がついた。今までずっと宮地先輩を見るだけで身体中からお花を飛ばせるほど浮かれていたわけだけど、ひとつ大きな問題があったのだ。それにずっと気づかずにいたなんて私はなんて愚かなのだろうか。もし、もしだ。もしもの話だけれど本当に、仮に宮地先輩に彼女がいたとして。もちろん私は泣き叫んで東京湾に自ら沈みに行くつもりだけど、きっと宮地先輩だって迷惑しただろうし彼女さんだっていい思いはしていないだろう。それはなんとも申し訳ないと思った。べつに宮地先輩に彼女がいると決まっているわけじゃないけれどあれだけ格好よければ彼女のひとりやふたり、居てもおかしくはない、と…

「な、なぜいきなり泣くのだよ!」
「泣いていないのだよ…」
「あーっ緑間!なになまえチャン泣かせてんだよ!」

私たちの飲み物を買いに行っていた高尾が私と緑間くんを交互に見るなり叫んだ。ちょっとあんまり大声を出さないで欲しいけれど。買ってきたジュースを机にドサッとおいてから高尾が大丈夫かーなんて言って私の顔を覗き込んでくる。緑間くんはというと焦ったように私をチラ見しながら眼鏡をおさえた。なんだかごめん二人とも。ただでさえ緑間くんは私と高尾が未提出だった課題の居残りに付き合ってくれているというのに。今日は部活がないとは言え自主練やりたいだろうね、緑間くん。

「で、なんで泣いてたワケ?」
「宮地先輩に彼女がいたらと思うと」
「なるほど」

そんなことより早く課題を終わせるのだよ!と叫ぶ緑間くんを完全にスルーした高尾はふむ、と一瞬考えるようにしてから名探偵のようなポーズをとってみせた。かなり余裕のふりをしているけれど高尾は課題の半分すら終わっていない。大丈夫なのだろうか。そんな私の心配をよそに名探偵高尾の推理は始まっていく。緑間くんはオレはもう行くのだよと席を立ってしまった。えっ見捨てるの緑間くん、私この問題分かんないって言ってたじゃん!裏切り者!とは叫べず、なんだかんだ高尾の推理が気になるのでそちらへ耳を傾けた。

「この事件のキーポイントは、それは宮地さん自身にある…」
「事件…?」
「まずひとーつ!それは、宮地サンの態度!」

サッ、と決めポーズをする高尾に感嘆の声を送る。宮地先輩の態度、といったらなんだろう。毒舌な言葉の嵐と腹黒な笑みと時折垣間見せる優しさ…とかそういうものか。少し考えてみてから高尾に答えを促してみると彼はふっふっふと自信アリげに笑った。うんそれはそうとちょっと課題やりながら話そうか。なんか大概私は馬鹿だけどそれ以上に高尾も…おっと口が滑った。まあさすがに私以上じゃかわいそうだからね。

「もし彼女がいるならなまえチャンの告白に対してもきっぱり言うっしょ?」
「俺彼女いるからごめんって?」
「そう。でもあえて宮地サンはそういったことを言わない」
「それは私が可哀想だったからじゃないの?」
「まずそれだよ!」

ビシン!と、勢いよく指を差される。それに目を丸くさせている私には目もくれずに高尾は恐ろしげになにやら語りだした。

「宮地サンはな、他人に可哀想だとか心配だとかそういう感情を持ち合わせることはまず無い!」
「言い切ったね」
「俺のホークアイに狂いはないのだよ!」
「ホークアイってそういう能力だったっけ」

やけに自信満々に言い切る高尾に若干気圧された。まあよく周りを見てるわけだからそういうのも分かったりするのだろうか。なるほど高尾、恐ろしい子…。だから心配すんな、と私の頭をポンと叩く高尾に少なからず安心した。高尾って絶対妹か弟いるよね。だってすごく面倒見がいいもん。いいなあ、私もそういうお兄ちゃんが欲しかった。私には兄はいないけれど強いてお兄ちゃんと言える立場の人間といえば…げふんごふん、変なやつ思い出した。はやく課題終わそう。やっと自分の席に座った高尾を確認してから最後の問題に取り掛かる。だからこれは分からないんだって、緑間くん。誰か聞く人、といってもこの教室には課題をやってこなかった私と高尾しかいないわけで。高尾に聞いたところで分かる気配がまったくしないので適当に埋めて終わらせることにする。

「えっ、もう終わったのかよ!?」

うん、と頷いて席を立つと高尾のガーンとでも言いたげな瞳と目が合った。まあさすがに元気づけてくれた友達を見捨てていくはずもないので、高尾が終わるまで待っていてあげるつもりだけど。高尾の机の前に来てプリントを覗き込む。一応半分は終わったらしい。それでもまだ結構ある。これは長くなりそうだ、なんて思っていると高尾がいつになく真っ直ぐな目で私をじっと見ていることに気づいた。…変なのついてる?

「なに高尾」
「いや、でもやっぱそーいうのは直接本人に聞いたほうがいいんじゃねえかなって」
「直っすか」
「直っす。あ、それと先行ってていいぜ?たぶん自主練には宮地サンもいるだろうし、早く行かねーとまた怒られるっしょ」

いってこい、と背中を押す高尾は仏様のように見えたのは錯覚だったか。



やっぱり体育館にはレギュラーメンバーが揃って練習していた。部活がないといってもこうして全員集まるのだから超強豪と言われるのも頷ける。宮地先輩に聞くと決心してきたのだけれどこれでは邪魔になったらまずいな。とりあえず部室行って選手の分析表でも眺めてよう。聞くタイミングがずれればずれるほどその時の緊張が増すだろうけど、仕方ない。この分だと今日は聞くどころか宮地先輩と会話を交わすこともままならないかもしれない。腐っても私はマネージャーだから、仕事もあるし選手には平等に接しなくてはならないし。いくら私が馬鹿だとはいえそのぐらいはきちんとわきまえているつもりだ。
そういったわけで一人おとなしく部室で資料を読みあさる私はひどく寂しい人間に見えるだろう。実際寂しい。比較的暗記は苦手なので選手の特性もなかなか頭に入ってこない。宮地先輩のはすぐ覚えたのに。って大坪先輩、身長198もあるの…どうりで迫力があるわけだ。そう考えるとキセキの世代の紫の人はその10センチも上ってことか。恐ろしい。次は木村先輩かな、なんて紙をめくったところで不意に部室の扉が開かれた。

「あれ、なんだみょうじか」
「…みっ!みみみみ宮地先輩!おはようございます!」
「いや今夕方だけどな?」

おっと間違えた。って、なんで宮地先輩がここに。何か用があるのだろうか、と思って声をかけようとしてみるも宮地先輩の汗ばんだ肌と張り付く髪が格好良すぎて言葉が出なかった。なんてことだ宮地先輩本当になまえキラー。私はいつかこの宮地先輩の色気に悶え殺されるのだろう。あああ、と妙な声をあげて顔を背ける私に宮地先輩がいつものように軽蔑の目を向けてくれた。ごちそうさまです。おそらくアイシング用のバッグを探しているのだろう宮地先輩はなにげに整理されている棚を漁りながらおもむろに口を開いた。

「体育館来ねーの」
「…あ、いや!邪魔したら悪いかなあと」
「お前にしてはいい心遣いだな、普段はメロン並みのくせして」
「メロンですか」
「お、あった」

やっと目的のものを発見したらしい。ああ、もう行ってしまうのか。残念だな、と目を伏せる私を見かねた宮地先輩はアイシングバッグを片手にふう、と息を吐いた。

「オイ、先輩にアイシングやらせる気か?」
「…えっ」
「こんなとこでサボってねーでさっさと来いよマネージャー」

部室の扉をあけたままスタスタと歩いていく宮地先輩の後ろ姿に一瞬唖然とした。え、いまのって。さっきとは打って変わってゆるゆるになる口元を隠しながら先輩の隣まで走った。ああ、やっぱりなんだかんだで結局は優しいのだ。高尾はああいっていたけれど、宮地先輩は本当はとても優しくて面倒見がよくてすごく格好いい先輩だと思ってやまない。隣へ飛んできた私に宮地先輩は呆れたような言葉を吐いたけれどちゃんと見えたんですよ、微かに唇が弧を描いていたこと。

「せんぱい、彼女いますか?」
「は?いねーよ、轢かれてーの?」
「そうですか!うれしいです!」
「…轢かれるのが?」
「そこじゃなくてですね…!」
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