「おはようみっくん」

緑間くんがそれを聞いて不機嫌そうな目で私を睨みつけるよりも早く、前の席で高尾くんが噴き出した。ただの朝の挨拶のつもりだったけれどこんなに破壊力があるとはさすがキセキの世代ナンバーワンシューター。笑いのツボも一寸の狂いなく突けるというわけか。ふむふむ、と妙に納得してから緑間くんの隣の席に座る。すると未だに笑いのツボから抜け出せていない高尾くんが肩を震わせながら私の方へ体を向けてきた。そういえば高尾くんもバスケ部なんだよね。だとすれば緑間くんと仲良くなろうと頑張ってるところかな。まあでも高尾くんってすごいフレンドリーな気がするし、難なく仲良くなったりするんだろうきっと。

「みょうじサン、いまのみっくんって緑間?すっげーツボ入ったんだけど」
「みっくんは緑間くんだよ、高尾くんも呼んでいいよ!推奨!」
「いやあ、俺は真ちゃん呼び確定だから!なっ、真ちゃん」
「どっちも嫌なのだよ」

やけに難しそうな本から目を離さないまま眼鏡をク、と上げて言い捨てられた。まったくツンデレだなあ。そんな緑間くんを高尾くんが茶化してた。さすが高尾くん、どれだけ緑間くんに鋭い言葉を投げ捨てられてもまったく気にする様子がない。このコンビはなかなか見ごたえがあるかも、とかなんとか思いながら机に顔を突っ伏すと高尾くんが人懐こそうな笑みを浮かべて私を呼んだ。ああ、なんか久しぶりにこんな純粋に明るい男を見た気がする。それに少なからず癒されながら顔をあげる。

「何です和成さん」
「え、俺の名前覚えてくれたんだ?」
「もちのろん、昨夜は徹夜でバスケ部の名前を覚えました!」

グッ、と毎度お馴染みのポーズでドヤ顔を決めると高尾くんが喜んでた。隣で緑間くんが極めてうるさそうにドス黒いオーラを放ってたけど高尾くんは気づいていないみたいだ。たぶんこのあとシメられるんだと思う。あえて言ってあげないけれど。
そんなことを気にすることもない高尾くんは目をキラキラ輝かせながら話を続けた。

「じゃあさ、俺もなまえチャンって呼ぶわ」
「いいよ〜!あ、みっくんもなまえちゃんって呼んでね」
「断るのだよ」

逆に承諾されたらお腹がよじれそうになるところだったけどな。そんなやりとりをしているうちにホームルームが始まった。ちなみに今日の緑間くんのラッキーアイテムとやらはイチゴ味の飴玉、らしい。胸ポケットから密かに覗く可愛らしい柄がやけに目立って見える。それにしてもおは朝って毎回毎回変なアイテム提示するよなあ。ビニールハウスとか言われたときはどうするつもりなんだろうか。一日ずっとハウスに引きこもるつもりか。なるほど、試合のときにそうなったら大変そうだ。そんなことをひたすら考えていたらあっという間にホームルームが終わった。



「ところでなまえチャンと宮地サンって知り合い?」
「昨日が初対面だよ」
「ぶっ、え、マジ!?」

主将から今日の部活のことで連絡を受け終えたところで高尾くんがそう聞いてきたので平然と答えたら異常に笑われた。本当によく笑うヤツだ。高尾くんはへえ〜、と感心したように言うと急に真剣な顔になって私の耳のほうへ口を近づけた。そしてすこし声を抑えながら一目惚れってヤツ?なんて言ってくれるのでなんだか考え込んでしまう。一目惚れなのか、あれは。二目…いや、四目惚れぐらいじゃないだろうか。うん、きっとそのぐらいだ。さっきの高尾くんの真似をして小声のまま四目惚れ、と言うとまたしても爆笑された。えっ高尾くん笑いのツボ浅いね。

「ナニソレッ!ホントなまえチャンおもしろ…って、あ!」

いきなり高尾くんが窓の外を指差して声をあげた。それにつられて私もそちらへ視線を向けるとそこには噂をすればなんとやら。言わずもがな彼が居たのです。体育のあとなのか部活終わりのように汗を拭う姿に私は失神寸前になった。とりあえず倒れそうになった私をつかみ止めてくれた高尾くんには後でお礼を言うとして、すぐさまその窓を開けて身を乗り出す。宮地先輩と、あと隣にいるのは同じくバスケ部の木村先輩だ。たしか八百屋さんだとかいう話だったけれど、とそこまで考えてから大きく息を吸い込む。

「宮地先輩っ!!」

ぶんぶん、と手を振ってみると思ったとおり宮地先輩は顔をひきつらせた。照れているんですね、わかります!隣の木村先輩が爽やかな笑顔でやるな宮地、と先輩の肩をポンポンしている。うらやましい!私もいますぐ宮地先輩のお隣へ行って肩を触りたいです。私のうしろで高尾くんが花舞ってるぜーなんて言ってたけどもういまの私には宮地先輩しか見えないのです。窓のふちに手をかけて、宮地先輩を見ている限り絶えない笑顔を思いっきり見せつけた。ああ部活以外でも宮地先輩を見れる時があるなんて幸せすぎるぞ秀徳高校…!

「部活楽しみにしてますね!」
「わーったから窓乗り出すな、危ねえって。パイナップル投げるぞー」

相変わらずダルそうに言いながら歩いていく宮地先輩に再びぶっ倒れそうになった。すかさず高尾くんが支えてくれたけれどあれは悩殺ものだ。さりげなく身を案じる言葉を投げかけ最後にはパイナップルというシュールな選択!素晴らしすぎます…。ドックンドックンと生を謳歌している自分の心臓を感じながら姿勢を正す。
ああ、幸せな時だった。視界のなかに宮地先輩が居るというだけで私の世界は薔薇色である。隣にいた木村先輩がジャガイモかなにかに見えた。未だ余韻に浸る私を高尾くんが教室まで引きずっていってくれた。ああ高尾くんってフレンドリーなだけじゃなく面倒見もいいんだねいい人だ〜。

「ホンット好きなんだな、宮地サン」
「当たり前だよ!あの格好良さは犯罪級…!」
「俺の格好良さは何級?」
「ナマコ級かな」
「ナマコ!?」

あ、高尾くんリアクションいいな。
斜め席同士で騒いでいると隣の席の緑間くんが今日一番の溜め息をついた。あら、これは高尾くんだけでなく私も怒られるパターンかな。さすがの高尾くんもその大きな溜め息には気づいたらしく若干ひきつった微笑みを浮かべて緑間くんのほうに顔を向けた。なんだろ、一気に不機嫌になってしまった。いや、元から不機嫌だけどよりいっそう、磨きを増して不機嫌オーラがむんむんだ。もしかして私と高尾くんがあまりにも仲良く話してるから寂しくなったとかだろうか。仲間はずれはやめるのだよ、と。そうだったら可愛いと思う。

「大丈夫、みっくん仲間はずれなんかじゃないよ」
「いきなり何なのだよ」

緑間くんは私の言葉に安心したのか手にもっていたシャーペンを思わず落としていた。動揺しちゃって可愛いなあ。拾え高尾とか言われて不本意ながらもシャーペンを拾ってあげる高尾くんを見ながらこれから面白くなりそうだなあなんて思った。そうそう、こんな高校生活を待っていたのよ。とりあえず今日の部活が楽しみで仕方ないので早くその時間になるように午後の授業はすべて綺麗に寝ておいた。すると見事に先生に呼び出しを喰らった。なぜか高尾くんも一緒に。おまえも寝てたのか高尾。こっぴどく二人仲良くお説教を喰らってからそれから体育館に全力ダッシュした。華麗に高尾くんに追い抜かれた私はもう泣きそうです。

「宮地先輩ー!会いたかったですー!」
「おーい高尾といいみょうじといい遅すぎんだけど刺していい?」
「ゴボウならあるぞ、宮地」

いやゴボウじゃ刺せませんよ木村先輩。…じゃなくて宮地先輩今日も麗しい!やはりお疲れ気味な宮地先輩に何か労れるものを、とポケットを漁ったところでついさっき部室前で拾ったイチゴ味の飴をあげてみようかと思う。宮地先輩とこの可愛らしいイチゴのコンビネーションは最強だ。そして何故かこのイチゴ飴、見覚えがあるような気がするのはどうしてだろう。
…まあ、いいか!宮地先輩が喜んでくれるなら!そう言い聞かせてアップを終えた宮地先輩に近寄る。

「先輩この飴差し上げますね!」
「は?飴?」
「みょうじ!それは俺のラッキーアイテムなのだよ!!」

緑間くんに初めて名前を呼ばれたのがその時でした。あれほど必死になっている緑間くんを今後また見れるだろうかと考えながら大人しくみんなの飲み物を用意することにした。
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