「こんにちは黒子くん」
「誰ですか」

クラスメートの顔を忘れるなんてひどいと思います。
私はみんなに見失われてばかりの黒子くんの顔も名前も知っているというのに。
もしかしたら黒子くんより私のほうが影が薄いんでしょうか。それは大変です、透明人間も同然になってしまいます。
これからは影の濃い行動をしていきたいと思います。授業中に指名されたらオペラ風に答えるとかね。
あ、それじゃあただの変人ですね。あぶないあぶない。
さあ気を取り直して、本から一度も目を離さない黒子くんに負けず話しかけたいと思います。

「私は黒子くんと同じクラスのみょうじなまえです、覚えてください」
「そうなんですか、知ってました」

知ってるんかい。黒子くんっておもしろいんですね、新発見です。
それにしても黒子くんはとても本が好きなんですね。さっきから私の顔を見たためしがありません。
これは誰に対してもそうなのでしょうか。それとも私だけにはこんな扱いなんでしょうか。
もし後者なら私はいまから火神くんのズボンをパンツごと下げてきたいと思います。こっちを見てください黒子くん。
そう念じてもまったく伝わる気配がなかったので諦めました。明日こそは本から黒子くんを奪ってみせます。
とりあえず今日のところははやく本題に入ってしまいましょう。

「それでは黒子くん、突然ですが貴方の好きな身体の部位はどこですか?」
「いきなり何ですか」
「いや、黒子くんの好きなものを知りたくて」
「意味が分かりません日本語でお願いします」

ひどいです。私はただ純粋に知りたかっただけなのに。
それでも本から目を離さない黒子くんはよっぽどの愛読家なんですね。それはよくわかりました。
やっぱりはじめての会話で身体の部位のお話はまずかったってことですかね?
でも私はまずそこから入ってインパクトを与えたかっただけなんですけど、失敗だったかもしれません。
まあこうなった以上、意地でも黒子くんの好きな身体の部位を聞き出してみせます。
めらめらと闘争心を疼かせる私に黒子くんが鬱陶しそうな顔をしています。そんなこと知ったこっちゃありません。

「ちなみに私は腕です」
「聞いてません」
「とくに黒子くんのほどよく筋肉がついた腕が好きです」
「やめてください」

黒子くんは頑なに話に乗ってくれません。
私の彼の第一印象はおとなしくて優しそう、だったんですがふたつめは間違いだったのでしょうか。
ちっとも優しさを感じられません。なんだかいつもみんなとお話をするときの黒子くんとは別人のような気がします。
気のせいだと信じたいですね。すこし冷たい黒子くんというのもなかなかレアで悪くないと思いますけれど。
さて、そろそろ本気で黒子くんの好きな身体の部位を聞いてみましょう。むしろ私が当ててみせるというのも悪くないですね。
黒子くんがぺらりと本のページをめくりました。あんなに文字だらけの本を読むなんて尊敬します。

「黒子くんは太ももが好きそうですね」
「みょうじさんのような変態と一緒にしないでください」

思いのほか辛辣な言葉を返されました。これはもう敗北フラグですか?いいえ私にそんなフラグは存在しません。
変態と言われてしまった私ですがあながち間違いではありません。
むしろ黒子くんがそれを知ってくれていたことに喜びたいです。喜んでいいですか?あ、だめですか。すみません。
この間は小金井先輩と素晴らしきエロについて語っていたのですがまだ黒子くんには早いですよね。
いずれしてみせるつもりですけれど。とりあえず、今日のところは身体のパーツのお話で我慢します。
あ、それとさっき私の苗字呼んでくれましたね。覚えてくれたようで安心しました。
のちのちには名前を呼び捨て、というシフトにチェンジしたいと思うので覚悟しておいてくださいね。

「たしかに私は太ももも好きですけど、正直黒子くんの太ももをあまり見たことがないのでなんとも言えません。あっちょうどいい機会なので是非見せてくれませんか?」
「埋まってください。まず僕を基準にしてほしくないです」
「照れなくて大丈夫ですよ、私のすべての基準は黒子くんですから」
「あの言葉のキャッチボールって知ってますか?」

もちろん知ってますよ。黒子くんっておかしなことを聞くんですね、かわいいと思います。
それより黒子くんってバスケをしているときは生き生きとした目をしているのに、こうして澱んだ目もできるんですね!
オールマイティで素晴らしいです。心底呆れたような目で本を見つめていますがあの本の展開がしょうもないことになっているんでしょうか。
気になります。それより黒子くんはまつげが長いですね。目を伏せているのでいつもより見えやすいです、私得ありがとうございます。
身体の好きな部位ランキングにまつげがぐいーんと上がってまいりました。

「まつげは二番目に好きです」
「なにがあったのか大体察しはつきますが敢えて触れないでおきます」
「えっべつに遠慮しなくてもいいんですよ!」
「いいえ結構です」

黒子くんは謙虚ですね。本当に見習いたいものです。
あ、そういえば私のことばかり語っていてまったく黒子くんの好きな部分を聞き出せていません。これはいけませんね。
太ももは違うっていう話だったのでお次は二の腕、とかでしょうか。私はもちろん二の腕、大好きですよ。
バスケをしているときに大胆にもさらされている黒子くんの無防備な腕は鼻血なくしては見られないというものです。
…おや?黒子くんが汚いものを見るような目でこちらを見ています。
これはお祝い物です!黒子くんがはじめて本から視線を向けてくれました。

「く、黒子くん…私、きょうはお赤飯に…」
「赤飯の小豆を喉に詰まらせてしまえばいいと思います」
「え?心配しなくてもちゃんと噛みますから大丈夫ですよ!」

あ、また本に視線を向けられてしまいました。
まあ、でもいいです。今日は黒子くんの視線を一度でもゲットできただけで満足です。

「そして本題に戻りますけど結局どこなんですか?指とかですか?」
「そこまでして聞きたいですか、それ」
「はい!もちろん黒子くんの好きなものはぜんぶ知り尽くしたいと思っているので」
「……」

あれ、黒子くんが黙り込んでしまいました。なにかまずいことを言ったでしょうか。それでしたら申し訳ないです。
うーん、じゃあ、どこなんでしょう。足首、とかは黒子くんっぽくないですね。足の指…はなんだかマニアックな気がしますね。
あと、あと…目、目!?あ、もしかして黒子くんはマニアックな人だったのでしょうか。それでちょっと気が引けて言い出せなかったとか。
もしそうだったら私はなんて無神経なことをずばずばと言ってしまったんでしょう。これは地面に頭をめり込ませて土下座をしなければ許されないことですよね。
でも、私はどんな黒子くんでも大好きですから、そんなこと気にしなくたって良かったんですよ。

「大丈夫です、黒子くん!もし黒子くんにマニアックな趣向があったとしても私は、」
「勘違いも甚だしいです、違います」

違ったみたいです。怒られてしまいました。
まあ、でも私が失礼なことを聞いていたというわけではないことだったら良かったです。安心しました。
じゃあ結局どの部分が好きなんですか。今日はこれを聞けるまで帰れません。根比べですね。
私は黒子くんと一緒に居られるのでまったく苦ではないですけれど!

「あ、髪の毛とか好きですか?」
「…そうですね、嫌いではないです」
「えっ、本当ですか!?」

黒子くんがぱたん、と本を閉じたかと思えば立ち上がって身を翻しました。
ああ、もう帰ってしまうんですね。でも今日の目的は果たせたことですし、私も満足です。
黒子くんは髪が好きなんですね。明日からはいつもより丁寧にお手入れをしたいと思います。
黒子くんが行ってしまったほうを見つめながら、明日はどんなことを話そうかと考えてみたり。

ああ、明日が楽しみです!
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