傷は男の勲章

「…これ、まだ痛い?」

名前が俺の左手を触る。

勿論、俺の傷跡…兵藤に負けて、切り落とした指の縫い目だ。

「別にもう痛くねーよ」

「ほんとに?」

「あれから何年経ってると思ってんだよ…
痛みなんてもうねえよ」

彼女は、俺の耳にも手を伸ばしてくる。

「…それも痛くない」

「痛かった?」

「…すげえ痛かった、けど」

名前は、目をうるうるとさせて今にも泣きそうだ。

随分昔のことだし、本当に痛みはもう無い。
そもそも名前がそんな顔をする必要は無いのに。

「…カイジの身体、傷ばっかり」

服越しに肩を触ってくる。

「傷跡はともかく、火傷は消えるかと思ってたけど、なかなか消えないんだよな」

「…」

「…名前がそんな顔すると、悲しくなっちまうだろ」

ううう…と抱きついてくる。ちょっと苦しい。

「この傷見ると、なんか思い出して泣けてくる」

「何を?」

「カイジが帰ってこなくて、超心配した時のこと」

「…ごめんなさい」

それを言われると何も言い返せない…

「昔は俺って相当とんでもないことしてたよな…命知らずっていうかなんていうか」

「今更なの?」

「今更。…だけど、お前がこんな傷負わなくてよかったって思ってる」

名前の手を取って、俺の左手と絡めてみる。

「…綺麗だよな、お前の手」

「カイジよりはね」

「それに細いし、白い」

「ん…」

「名前、」

名前の匂いがする。

甘い匂い。

彼女には、俺も同じ匂いだと言われたことがあるが、俺とは違うと思う。

石鹸やシャンプーなどではこんな匂いにはなれない。

「名前、さ…俺と一緒になって、幸せ?」

「幸せだよ」

「俺とずっと一緒にいてくれる?」

「…カイジとなら、どこでもついて行くよ
…地獄とかでも!」

ベタかなあと笑う彼女が愛しい。

平穏なんてつまらないと思っていたはずなのに。

「大好きだよ、カイジ」

「俺も」

あの頃の俺に言ってやりたい。

平穏な日々がどれほど貴重で、心地良いかを。

隣にいる大切な女と共に居られることへの、喜びを。




×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -