君の髪色たからもの

髪、染めてみようかな。

…本当に唐突だったので、和也は彼女の言葉を聞き逃してしまった。

「え?なんて?」

「いやだから、髪なんか染めてみたいなーって」

そう言われて名前の髪を改めて見てみる和也。

(確かに出会ってから髪色が変わったことはないな。
名前自身もそれが地毛だと言ってたし…)

真っ黒ではなく、ところどころブロンズの入っている名前の髪を実は気に入っている和也だったが、どうも名前はあまり好きではないらしい。

「…別に染めなくていいじゃん。そんなキレーなのに」

「でも人生で染めたことないっていうのは悲しいでしょ。社会人なったらいじれないし」

「そういうもん?」

「そういうもんだよ」

「でも髪染めたら傷むっていうよな?おまえアイロンの通しすぎて傷んできたとか言ってなかったっけ?」

「う…で、でも和也だって茶髪じゃん」

「オレは染めてねえよ」

「え!まじ?地毛なの?」

知らなかったっけこいつ?と和也は疑問に思ったが、幼いころに他界した母親に名前が会ったことあるはずもなく、知らなくても不思議ではなかった。

(まあ、どう考えてもオレは外人顔ではないしな…)

「…髪は母親似だから」

「ふーん、そっか〜いいなぁ、茶髪もいいかも…和也とお揃いっぽいし」

「似合わないからやめとけ」

酷いと喚く名前だが、和也は染めたりしなくていいのに…と考える。
名前の髪色も好きだし、柔らかな手触りなのも気に入っているからだ。

「…染めるのはおまえの自由だけど。もうちょっと後にしてくんない?」

「なんで?」

「…急にこれ無くなると思ったらもったいない気がしてきたから」

「え、なにいってんの…」

「オレおまえの髪好きだし。色も超好き」

「色が真っ黒じゃないのは傷んでるからだよ?」

「…いいから黙ってオレの言う通りにしろよ。勝手にすんなよ、もっとオレに触らせろ…!」

「…それ、なんかウケる。少女漫画に出てきそうだね」

「あ?」

「だって勝手に髪色変えるなとか…『オレサマ』っぽい、いいんじゃない和也。今のセリフ小説に書いたら?」

「ぐ…おまえ…」

「和也の小説読んだことないけど純愛モノが好きなの?恋愛小説って言ってたじゃん、前」

「…好きなわけねえだろ…!あんなもの虚仮…!真実じゃない!」

「…えええ和也がそれ言うの?デートとかベタなことしたがるし、ていうか告白の時とか、」

「う、うるさいうるさい!嫌いなものは嫌いだ!誰が日常のちょっとした仕草…笑顔にドキッとなど…このオレが…!」

「和也ってピュアなんだなぁ…意外すぎる。ならその小説わたしのことも書いてあるの?冷血サディストマシーンが愛した女性として?」

「誰がおまえのことなんて書くかバーカバーカ
…オレは執筆作業に戻る。それまでどっか行ってろ…けど夕飯には戻ってこいよ」

「え、もしかして犬扱いされてたりする?」

名前は、なんとなく和也がここまで言うならもう少しだけそのままでいようかなとニヤニヤしたのだった。

…この後名前がこっそり例の書きかけ小説を読んだところ、それはまあ愛溢れる文章が書かれていたらしい。完成する日が楽しみだ、と名前は思った。




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