林檎の罠を受け入れて

最近、物が無くなることが増えた。

トイレに行ったりとかちょっとした間に机の物が無くなったり、ロッカーから教科書が消えたりする。
その度に、床に落としたとか誰かが間違って持って帰ったとか、そういう風にいって自分を納得させている。

それに、クラスの人に無視をされる事が多くなった気がする。
あからさまな悪口とかは言われないけど、話しかけると聞こえない振りをされるのだ。

わたしが1番仲の良いと思っていた友達は、学校に来なくなってしまった。

そして今日わたしの靴箱から上靴が無くなっていた。
漫画とかではよくある話だけど、実際自分がやられるとは思ってもみなかった。

ここまできたら認めたくないが、わたしは、いじめられているのかもしれない。

物が無くなることも学校以外では起こらないから、学校の人が関わっているのは間違いない。

「…」

職員室でスリッパを借りて、教室へと入った。

先生や、大人の人に相談した方がいいのか。
でもなんて言えばいいか分からないし、担任は体育教師だ。
下手をしたら大事になりそうで、怖くて言えない。

誰とも喋らずに1日が終わる。
…早く帰ろう。
いつもは友達と帰っていた。あの子はなんで来なくなったんだろう…
メールをしても返事は帰ってこない。

「ね、名字サンこれもらってないでしょ」

肩を叩かれてプリントが差し出される。

「…兵藤くん」

「名字サン帰るの早過ぎない?
よかった間に合って」

担任の先生が配り忘れていたらしいプリントを受け取って兵藤くんの顔を見つめる。

何を考えているのか分からないが、とりあえず善意で持ってきてくれたらしい。

…正直喋ったことないし、最近のこともあるから気まずい。
「あ、ありがとう。じゃあわたしはこれで…」

「あー、待ってよ
話したことあんま無いし、よかったら一緒に帰らね?」

突然過ぎる誘いに思考が停止してしまう。

「…え、どういうこと?」

「いや普通に。クラスメイトなのに話したことないの寂しいじゃん」

行こうぜ、と手を引かれる。

「…ごめん、帰るのはいいんだけど
職員室寄らなきゃ」

「なんか用事?」

わたしは無言で自分の履いているスリッパを指さす。

「あ〜おけおけ
オレ靴箱のとこいるから行ってきなよ」

…兵藤くんは知ってるのかな。
クラスで1番、もしかしたら教師よりも権力を握っているといっても過言ではない彼なら、何か知っているかもしれない。

スリッパを返して靴箱に行くと兵藤くんが待っていた。

「待たせてごめんね」

「カカカ、いーよ別に。早く帰ろうぜ」

並んで帰る。

…何を話していいか分からない。
なんでわたしに声をかけたんだろう。
さっきはクラスメイトだからとか言ってたけど、本当だろうか。

「…えっと、兵藤くんって歩きなんだね。リムジンとかそういうのかと思ってた」

「いつもはね。たまに歩きたくなるだろ」

「…」

「…もしかしてさ、オレがなんでアンタを誘ったんだろとか考えてる?」

「…うん」

「酷いな、信じてねーの?さっき言ったじゃん」

「そうだけど…」

「うん、まあでも名字サンにちょっと聞きたかったことあるからさ」

「なに?」

「名字サンっていじめられてんの?」

息が止まりそうになった。

核心をつかれて、なんて言っていいのか分からない。

「いや、ごめんいきなり。けどなんか最近名字さん前と違うっていうか」

「うん…たぶんそうだと思う」

「なんかしたの?」

「わかんない…心当たりないけど、皆に嫌な思いさせてたのかな」

「ふーん…」

「わたしと仲良かった友達もね、学校来ないんだ」

「あのずっと休んでるやつ?」

「うん…メールとかしてもかえってこないの」

「…そっか」

「わたし、どうしたらいいのか分からなくて…」

「じゃーさ、オレと友達になろうよ」

え?と兵藤くんの顔を見る。

兵藤くんは優しい顔をしていて、もう一度言った。

「友達。なろうよオレと。
そいつ来なくて寂しいんでしょ。誰がアンタに酷いことしてるか分からないけど、オレといたらされないかもよ」

「…」

「ね、名字サン」

「…うん」

わたしがそうこたえると、まじ!?と両手を握られた。

「アンタのことずっと気になってたんだけど、声掛けれなくてさー
勇気出してよかったよ」

「そ、そっか」

「これからよろしくな」

兵藤くん…和也くんと友達になってから、彼はわたしを名前で呼ぶようになったし、毎日一緒に帰るようになった。どこかに遊びに行くこともある。

久しぶりに友達のいる学校は、すごく楽しい。

そして、あのいじめのようなこともピタリと止んだ。

誰がやっていたのか、今となっては分からないが今更どうでもいいことなのかもしれない。

…ただ、わたしの友達のあの子が、学校に来ることはなかった。







計画通り。
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なんらかの理由で名前ちゃんに惚れた和也が、クラスの人間に金握らせて、いじめさせてた。
友達は反抗したので、どうなったのかは分かりません。お金持ち怖い!









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