「…雨だ」
学校帰り、名前は空を見上げて呟いた。
小雨だったそれはだんだん大ぶりになりアスファルトが雨の色で染まっていく。
傘を持っていなかった名前は急いで近くのバス停に逃げ込んだ。
(どうしよう…)
少し濡れた髪をハンカチで拭きながら名前は途方に暮れた。
携帯で天気情報を見てみると、どうも夜まで止まないようだ。
弟に迎えに来てもらおうか。
しかし、弟は部活であと3時間はかかるだろう。
もう当たりは暗くなっており、その時間まで待つのは不安だった。
屋根に当たる雨の音を聞きながら、ひょっとしたら走って帰るしかないのかもと考え始めた時、目の前に立つ何かに気付いた。
影は、人の足が生えていることは分かるが、頭が扇を繋げたような形をしている。
「…こんなところで、何してるの」
「え、」
…影はただの傘をさした男の人だった。
「雨降ってるのに帰らないんだ?」
「あ、その…雨宿りっていうか…傘なくて」
ふーん、と彼は名前を見つめる。
長身ですらっとしている彼は、白い髪がとても特徴的だった。
大雨の中、彼だけが濡れていないのは不思議で、まるでそこだけ切り取られたようだった。
…傘をさしているんだから当然だけど。
「えっと、もしかしたら…どこかで会ったことあったりしますか?」
「…な、いと思うけど。それはもしかして俺を口説いてたりする?」
「え、ち、ちが、」
意地悪く微笑む彼を見て、わたしは彼に会ったことがあると確信する。
…しかし、思い出せない。
「クク、冗談。アンタはそんなことしないよな。…良かったら俺がアンタの家まで送ってやろうか」
「いいんですか?」
「ああ。傘無いんだろ?この雨、多分数時間は止まない。それなのにこんな暗いところで女が一人でいたら襲われちまうぜ」
「襲われ…?」
最近はあまり見ないと思ったが野犬でもいるのだろうか。それともオオカミ!?
「…そういう意味じゃないし、日本にオオカミはいないよ」
名前の的外れな思考を読んだ彼は名前に傘を差し出して入れと促す。
相合傘で名前たちは歩き出した。