「ほら寝ろ」

「もう少し、」

「もう眠いだろ」

「でも、寝たら、櫂先輩帰るから…」

「…行くか?バスケ」

「!行きます!」

「じゃあ泊まるかわりに、明日七時に起きろよ」

一度家に帰ってシャワーを浴びて着替えて朝食をとるには早く起きないといけない。つぐみは俺の妥協に「はい!」と、やたら元気に頷いて泣きべそをかいていたのなんて冗談みたいに満面の笑みを浮かべた。
本当に、こういうところが反則だよなと視線を逸らした俺に、つぐみはやんわりと抱き付いてきた。そのままベッドに押し倒され…というよりはのし掛かられ、マットレスのスプリングか派手に音をたてた。

「つぐみ」

「一緒に、寝ます」

「分かったから。寝るならちゃんと─」

「触って、良いですか?」

「もう触ってんだろ」

ズボンの上から。人の上に乗っかって、ベルトに手をかけて、外れないと文句を言って。
柔らかい髪をすいて後頭部を撫でると猫みたいに目を細めて甘えた声を出した。もっとも、まともに猫を触ったのは数えるほどしかないのだけれど。

「櫂先輩、かたくなった」

「お前が触ってるからだろ」

「僕が触ったら、きもちいい、ですか?」

こてんと頭を傾けて上目使いで俺を見たつぐみは、返事を待つことなくやっと外れたベルトの下のファスナーを下ろした。緩んだ口からチロチロと舌が見えたかと思えば、そのまま根本にキスをして裏筋をなぞって先っぽを口の中に押し込んだ。
いつもより熱い口の中は情けないことに気持ちよくて、苦しそうに眉を寄せた額を撫でる。可愛い。ほんとに。誰かのことをこんなに可愛いと思える日が来るなんて、自分が一番驚きだ。

丸い額に張り付いた前髪を指先で払って眉をなぞると、また「ん」と甘い声が漏れた。

「んっ、ん…ふぁ、ん、きもひ、い、れすか」

「……はぁ…お前、明日覚えてないとか言うなよ」

「んぐ、ぅ?」

たまに当たる歯が少し痛いけれど、それでも気持ち良いものは気持ち良い。ゆっくりつぐみの頭を掴んで顔を引き剥がすと、とろんとした顔がふにゃりと歪んで「イきますか」と問うた。
もうそれだけで出そうになった。のも束の間、次の瞬間には電池が切れたみたいにつぐみの体が横に傾いてそのまま倒れた。

「…は?」

ぴーぴーと鼻を鳴らしながら一一瞬で眠りについたその頬を軽く叩いて、けれどその目は開かない。長い睫毛もしっかり伏せられたまま動かず、むにゃむにゃと口だけが間抜けに緩むだけ。

「まじかよ」

ギンギンに勃起した自分のちんこを見下ろし、これはどうすれば良いのだと俺が一人頭を抱えたことをつぐみは明日謝るだろうか。いや、絶対覚えていない。せめて二日酔いぐらい経験してくれれば良いのになんて、意地の悪いことを思った俺は翌日の元気百倍なつぐみに完敗だった。

何が悲しくて恋人が横で寝ているのに一人で扱いてティッシュに射精しなればいけないのだ。もう絶対つぐみに酒は飲ませない。関谷にも腹が立ったけれど、まあでも、あの場に関谷がいて良かったのは事実な訳で。

「櫂せんぱーい!ボールいきました〜」

「……」

「あぶなーい」

ほんっとに。
酒はもう飲ませない。でも、「朝起きたら櫂先輩がいて幸せでした」と天使の笑顔で言われてしまったら結局敵うわけもなく。
俺は文句のひとつも言えないままため息をついて可愛い可愛いつぐみにキスをするのだった。


「天使とお酒」




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