アルバムを片付け忘れたのはミスだった。誰だって、昔の写真を見られるのは恥ずかしいだろう。それと同じくらいの感覚は俺にもあって。けれど、その昔の俺に不機嫌そうに口を尖らせたつぐみは可愛くて、これも悪くないなと思ったのは事実だ。

「で、それなに」

「……」

まあそんな些細な考えも、つぐみの鞄から出てきた怪しいボトルに吹き飛ばされたのだけれど。

その思考回路は


お土産とは別にお見舞いをと、つぐみの開いた鞄からころころと転がって出てきたそれ。つぐみは一瞬青くなり、そしてすぐ今度は真っ赤になって慌ててそれを掴んで背中に隠した。

「つぐみ」

「な、なんでもないです。あのこれ、お見舞いです。ゼリーと、プリン…」

怪しい。
しかもこんなに慌てるということは、相当見られたくないもの…そのくせ無防備に学校用の鞄に入れているなんて。さすがというかなんと言うか。
勘で人の元カノあてるくせに、変なところで抜けてる。なんで分かったのかは謎だけど、昔の話だし、誤魔化すほどでもないかと素直に頷いたけど。

「櫂先輩、近い」

なんだこの往生際の悪さは。
頑なに背中の後ろに片手を隠して反対の手で俺の胸を押す。結構な力だったけれど、顔を寄せてキスを落とすとあっさり力を緩めてくれた。

気が緩んだその隙に後ろにまわされた手ごと捕まえて前に持ってくると、手のひらサイズのボトルの中の液体がちゃぷんと音を立てた。

「っ!」

「…ローション?」

とろみがついている気がするなとか、化粧水とかかもしれないけれどつぐみが持ち歩いてるのなんて見たことないしなとか、一瞬いろんなことを考えたけれど、これはやっぱりローションだろう。この慌てようは。

「ちがっ、あの…」

「別に、隠さなくて良いだろ」

「…ごめんなさい」

「なんで謝るんだよ」

ボトルに並んだアルファベットの意味は分からないまま蓋を開けると、つぐみの顔が更に赤くなった。

「誰にもらったの。なり?」

「……」

「南條?」

「、」

あの変態副会長か。
てかまじでいつ会ってんだか。

「学校でもらって…そのまま、鞄に…」

「使った?」

「つ、使ってないです」

もういたたまれないというように目を伏せ、ふるふると首をふるつぐみは完全に嘘をついている。何に使ったかまでは聞かないけど。

「せっかくもらったのに?」

「だって、自分じゃ…」

出来なかったわけだ。
それを察せられたという羞恥からか、ソファーの上で体の向きを変えたつぐみは無防備に俺に背中を向けて膝を抱えた。

「副会長が、羨ましくて」

「は?」

「ちゃんと、最後まで…してるって」

「……」

うわ、聞きたくなかったな、それ。と、まさかそんなことを言えるはずもなく、最後までしたいのかと小さな背中に問うた。慧悟と南條がやってるところなんて考えるわけにはいかないから、無理矢理話をふって誤魔化したのだ。
それでもつぐみは迷うことなく「したいです」だなんて返事をして、俺はもうどうしたもんかと頭を抱えてしまった。

「…痛くてもいいです」

南條のことをよく知っているわけではないのだけれど。それでも、あんあん喘ぐような奴ってことは目で確認済みだ。つぐみが南條みたいになったら、と考えるとエロエロ過ぎてやばいよなと思いつつも、それはそれで興奮するだろうなと妄想する自分もやばい。

でもそれより、今は目の前の据え膳だ。

一旦ソファーから立ち上がり、ベッド下の引き出しから必要なものを掴んで再びつぐみの隣へ腰をおろす。軋んだ音に揺れたつぐみの肩を撫で、後ろから手をまわしてベルトを外すと、「い、今ですか」なんて声が飛んできた。

いや、逆に今じゃないのかよ。

「ほら、脱いで」

「やっ、ま…」

…勃ってる、だと。
スラックスを寛げて、ひょこりと顔を出した下着がこんもりしていて。それを見た俺まで勃起した。
腰を浮かせて膝までズボンとパンツを下げると、可愛らしい尻が寒さと恥ずかしさにきゅっとなった。

「あっ…」

エロ大魔人副会長にもらったというローションを手に垂らし、露になったつぐみの窄まりへ塗り込む。切な気な声を出しながら、ひくひくと動くそこを指先で何度も撫でるとその声が段々と熱を帯びていった。
もうすでに体ばっかりエロくなってるなと、若干怖くなったことには気づかないふりをして、白い尻に唇を押し付けた。

「ひゃっ、櫂先輩!」

ハリのあるそこへ吸い付くと、思い通りに赤い痕が残った。これじゃ人前で脱げないなと、俺は勝手な独占欲を満たした。割れ目を添って指を前へ進め、硬くなったつぐみのものを撫でる。ローションのぬるぬるとした感覚が余程気持ちいいのか、そんなに触っていないはずなのに肩を揺らして息をしている。

「かい、せんぱ…んっ、」

「指、入れるぞ」

四つん這いの状態のまま、けれどしっかり頷いたのを確認して充分に濡らしたところへ指を入れた。異物を押し出そうとするように内壁が蠢くのを無視し、更に奥へと進めると苦しそうに「櫂先輩」と何度も繰り返された。
指を増やすためにもう一度ローションを垂らすと、その冷たさに驚いたのかひくりと中が絞まった。

「力、抜いて」

「ふ、んん…」

狭い。それでも痛くはなさそうで、一旦抜いてから慎重に二本の指を挿入した。
風俗で前立腺マッサージをしてもらった奴がいるという話は聞いたことがあるけれど、実際それがどんなもんかは知らない。し、みんながみんな気持ち良くなるものなのかも知らない。都市伝説かもしれないし。
そもそもどこにあるんだよそれ、と、押し広げながら進めていた指先を軽く曲げたその瞬間、なんとも言えない感触があり、同時につぐみも声を漏らした。

「あっ、ぅあ」

「、つぐみ」

「やっ、あ…やだ、そこ、」

「ここ?」

「やめ、やめてくださ…」

緩く、今度は確実に撫でると指がちぎれるんじゃないかというくらい締め付けられた。ここが“気持ち良い”というのを教えれば、自然とよくなるものなんだろうか。ちょっと刺激が強すぎて本気で嫌がっているみたいだけど。

「ああっ、ふ、ぅう…ん」

まあでも、痛みは無いようだし。少しずつ慣らしていけばその問題は解決しそう、か。でもなあ…このビッグマグナムはまだ無理だよな。せめてもう一本指を増やして…

「か、い…んんあっ」

「力、抜けって…」

「んむ、抜いて、る…はあ、」

少し無理矢理三本の指を押し込み、馴染むまで充分に内側を解すと、つぐみが半泣きでもう入れてと溢した。誰に教えられなくてもこういうことを言えると思うと、やっぱりこの先が不安になるよな。なんて、冷静に思う暇もなく、もう少しだけと呟いて丁寧に指を動かした。

「ぁ、っん、ん、やあ」

多分無理だろうと思いながら指を抜き、ベッド下から引っ張り出してきたコンドームの箱を開ける。

「櫂先輩、それ…」

「男同士でも付けるんだよ」

「……中身、少ない」

「は、?」

俺がソファーの下へ落とした箱を拾い上げ、ひっくり返して出てきた中身をみたつぐみが不満そうに小さく呟いた。顔は見えないけれど、きっとふて腐れた顔をしているんだろうなと思わせる声色で。

「買ったの最近じゃないしな」

「……」

「つぐみ?」

「く、…れて、……さ」

「なに?」

「早く、入れて…ください」

これ買ったのいつだったっけな、最後に使ったのだってよく覚えていないし。でもつぐみはそれにまた不安になるんだ。それが嬉しいとか、もう末期かもしれない。
ガチガチになっている自分のものにコンドームを被せ、ひたりとつぐみの後孔に宛がう。

「まだ痛いぞ」

「痛くても良いって、言っ─」

「つぐみ、力、」

「、ぅあ…んん、んっ」

「力抜かないと入らない」

あー、これは無理だ。
意地になっても入らない。俺のちんこもゴムの中でどこにもいかない熱を抱えて窮屈そうにしているし、無理にでも入れてしまいたいけれど。そんなことをしたらつぐみのケツが使い物にならなくなりそうで怖い。
やっぱりもっと解して、どろどろにして、それからじゃないと…

「い、……た、」

「つぐみ、まだ無理だって」

「あ、やだ、なんで…かいせんぱ…」

挿入することを諦めてつぐみの体をひっくり返し、涙でぐしゃぐしゃになった顔にキスを落とせば、本格的に泣きじゃくり始めてしまった。

「櫂せんぱい、なんで…ひ、く…」

「無理矢理しても痛いだけだぞ」

「それでも良いから、最後まで…」

何をそんなに意固地になるのか…
子供のようにボロボロと涙を溢す天使にいくつかキスを落としても、なかなか泣き止まない。困ったなと思いながら頭を撫でやると思いもよらない言葉が鼓膜を揺らした。

「なんで…なんで、他の人が出来て、僕は出来ないんですか」と。それはつまり、嫉妬、ということでいいんだろうか。

「そんなの嫌です、不公平です」

「つぐみ、それは─」

「櫂先輩のこと、一番好きなのは僕なのに…ずるい。僕だって櫂先輩と…」

どこまで可愛いことを言うんだか。
俺の声を遮ってまで淫乱な言葉を嘆くなんて。

「焦らなくて良いだろ」

「でも、」

「いつでも出来るし」

カーテン閉めてて良かった。なりにこんなつぐみを見せるわけにはいかない。家にいるのか知らないけど。

「ほら、触るから足開け」

「えっ、わ…」

役目を果たせなかったコンドームを外し、つぐみのものに擦り合わせると、熱い熱いと言いながらキスをねだられた。


「無垢と不純」




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