充分に柔らかくなってから、遥は指を抜いてコンドームの箱を開けた。えっちなキスだけじゃない。僕はいまだに避妊具を買うのだってドキドキする。男なんだから、普通に堂々と買えば良いと言い聞かせても、恥ずかしいことじゃないと念を押しても、レジでドキドキしている。
今だって、二人で買ったとはいえ思い出すだけで心臓が跳ねそうになる。

「はるか、」

「ん?り、あ、りん、」

「触らせて」

「さ、わ…」

ちょっと待ってと制止した声を交わし、ゴムを一つ取ってから完全に勃ちきった遥のものを握る。もう扱かなくてもしっかり硬いそれを数回擦り、先走りで濡れた手でゴムを出す。ぴたりと、吸い付くようにコンドームを被ったところで背中をシーツに押し戻された。

「いい?」

「…うん」

挿入部分を先端で撫でて、確かめて、体勢を整える数秒が、僕にはたまらなく愛しい時間だ。遥が情けなく、余裕なさげに、僕の名前を繰り返して、不恰好にキスをして、ぐ、っと押し広げられるのが。入りきるとようやく息を吐いて、「痛くない?」と聞いてくれるのが。
僕は遥の肩に口を押し付けて、痛くないよ と答えながらそこに吸い付いた。奥を突かれると苦しいけれど、熱くて、じくじくして、遥と繋がっているんだと思うだけで幸せで、噛み殺せないで漏れる声を誤魔化すように。

シーツにいくつもシミを作りながら、たがが外れたように腰がぶつかる音を響かせる。誰にも気を遣わないで、バレることもなく、思い切りするのは本当に久しぶりだ。もう水か汗かも分からない水滴が肌をつたっていく。しっかり遥にしがみついて、足を腰にかけて、僕は遥より先に吐精した。

「あっ、は、る…い、ぅ」

「いく、?」

「ん、んぅ、い、く…あっ、」

「ん、おれも、もう、だめ、かも」

「や、ひっ、うぅ…っ」

「、はぁ…」

「はー、あ…、ん…」

僕が達したあと、遥もナカでひくひくと数回痙攣した。息を整えないまま抱き締められ、大きく動く胸が窮屈にぶつかる。
さっき吸い付いていた遥の肩には赤い痕が残っていて、自分でつけたくせに顔が熱くなった。

「りん、大丈夫?」

「うん、平気…」

「シャワー、もう一回浴びないとね…」

「ん、でも、明日」

「俺は良いけど、りんちゃん明日も学校でしょ」

「その前に一回家帰るよ」

「じゃあ、いつもより早起きしないと…」

「うん」

うとうとと、話をしながらキスをして、遥が僕から出ていって、ティッシュに包まれたゴムがゴミ箱に落とされた。
そのあと、布団の中で抱き合って、今度は手で、お互いのものを触ってもう一度射精した。


その日僕は初めて…旅行や出掛けるからと事前に言い残さないで…朝帰りをした。母さんは何も言わないで出迎えてくれたし、まおは「はるちゃん会いたかった」と口を尖らせただけだった。

「夏休み、遥の休みの日に、どこか行こう」

「うん、行きたい 」

「どこ行こうね」

「考えとく」

「うん」

「りんちゃんは?どこ行きたい?」

「どこかな…」

「眠そう」

「遥も」

「少し、ね」

「ふふ、じゃあ、おやすみ」

「ん、」

「また明日」

「うん」

いけないことをしたような後ろめたい気持ちと、好きでたまらない遥の寝顔を目が覚めた瞬間に見れた幸福と、両方を抱いて迎えた朝は、なんでもない日なのにとても特別な朝だった。




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