部屋に入ると、絡んでいた指先がやんわりほどかれ、そのまま遥に抱き寄せられた。とくんとくんと、少し早く動く心臓の音に耳をあてると、「りん」と、これでもかというほど甘い声で僕を呼ぶ声が上から降ってきた。

「シャワー浴びてきていい?」

「あとじゃダメ?」

「ダメ、って言うか…汗かいたから」

「じゃあ一緒に入ろ」

「そんなに広いかな」

遥に肩を抱かれ、僕もその背中に手をまわしてバスルームのドアを開けると、二人で入れるほど広くはなく、それでもその場で服を脱いで中に入った。
汗ばんでねっとりとした肌に、少し温くしたシャワーは気持ち良くて、濡れながら肌を合わせる感触は目眩がするほどだった。

「りん、」

「あ、待って、ん…」

「ごめん、俺、もう勃ってる」

「は、る…か」

「はぁ〜…りんちゃんに触るだけで気持ち良い。どうしよう」

「……遥、」

「うん?」

濡れた背中に腕を回して、反応しているもの同士をやんわり押し付けると遥は顔を僅かに赤らめた。額をこつりとぶつけ鼻先でお互いの呼吸を合わせ、僕はゆっくり唇を押し付けた。
唇を合わせて、食んで、もう覚えてしまったその形を目を伏せてなぞる。まだ、舌を擦り合わせるキスは恥ずかしい。どうするのが正解なのかも分からないし、遥が気持ち良いと感じてくれているかも分からない。
ただ、僕は遥とのキスが好きで、会えない日が続けば遥の体温も、肌の感触も、唇の熱も恋しくなって毎晩触れたいなと思ってしまう。だから遥に心配されるのは心外でもあって、逆の立場で考えたら僕も心配するだろうし、恋人って難しい。自分の気持ちを浅く見られたら怒りたくなるのに、自分だって相手の心配をしてしまうのだから。

「りんちゃん」

「ん、」

「かわいい」

「、へ、あ?」

「おでこ。へへ、」

へらりと笑い、僕の前髪を後ろに撫で付けた遥はそこにキスをして、瞼にもキスをして「あがろっか」と、無邪気に緩んだ顔をきゅっと色っぽい表情に変えた。同じように濡れた前髪を後ろに流し、けれど僕よりずっと大人っぽく。

「遥は、格好良いよ、いつも」

「えっ、」

「なんで照れるの。ほら、あがろ」

「ま、まって、え、俺いつも格好悪いのに…」

「可愛いの方がいい?」

「どっちも嬉しい、けど…でも、俺りんちゃんに格好良いところなんて見せれてないし…」

「遥は格好良いよ」

同じくらい可愛いと思っている。
笑った顔なんて、まおの次に可愛い。遥は天使というより王子さまだけど。まおが思わず絵本の中の王子さまみたいという気持ちはあの頃も今も変わらず思っている。
タオルで全身を拭き、なんだか恥ずかしそうにしている遥の髪を拭いてやり、仕上げに手櫛で整えたら整った顔がしっかり僕を見た。それだけでもドキドキするくらいなのに、自分の事を格好悪いと思っているのが不思議だ。
そりゃあ、嫉妬したりすぐ泣いたり、それを格好悪いと言えばそうなのかもしれない。でも僕はそのどれも格好悪いなんて思わないし、どうしたって顔はイケメンなんだから。

「嬉しくて倒れそう…」

「僕だって恥ずかしいよ」

「…りん、いい?…その、しても」

「ん、うん、」

足元にタオルが落ちるのと、遥に抱き上げられたのはどっちが先だったんだろう。あ、と思ったときには抱っこされていて、そのつもりでここに来たのに確認する遥がまた可愛いなと、抱かれたまま首に腕を回した。しっとりした肌の感触にどきりとしながら、湿ったままの髪に鼻先を擦る。



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