「遥の言いたいことは分かったし僕も気を付ける、けど…やっぱり森川さんにはそんなつもり全然ないから、それは遥にも分かってほしい」
「……」
「森川さん好きな人居るから。僕じゃなくて、他に。話も聞いてる」
「それ、自分かも、って思わない?」
「そんなわけないよ。だって、」
「だって俺はりんが好きだよ。優しくて、家族思いで、友達思いで、まっすくで、強くて、可愛くて、俺は好きになったから」
「や、でも、僕だけじゃないでしょ、他にもたくさんの人が居て、遥は僕を好きになってくれたけど、樹くんや高坂くんたちは遥と同じ意味での好きにならなかった」
「……そう、だけど…」
「遥」
「……」
「僕は遥が好きだよ」
「俺もりんが好き」
「もし仮に森川さんが僕を好きって言ってくれても、僕は遥が好きだからって、ちゃんと言えるよ」
「……俺も、りんちゃん以外の人に好きって言われても、りんちゃんしか好きにならないよ」
「僕も同じだから、ね、もう仲直りしよう」
「うぅ…」
「なんで遥が泣くの」
「だって俺りんにキツイこと言っちゃったから…馬鹿って言ってごめん。でも、好きだから、心配だから…本当はまだ帰りたくなかった」
「僕もごめん、もっとちゃんと話してればよかったね」
「ううん、俺が勝手に心配して嫉妬しただけだから、りんは謝らないで」
「でも、逆の立場なら僕も遥の事心配する」
「しないで、って言いたいけど、そっか…俺もりんに心配されたら、なんで、って言っちゃうかも…」
「ね、遥」
「うん?」
「僕もまだ帰りたくない」
「っ、」
「でもそろそろお店出た方がいいよね、行こっか」
帰る、と立ち上がったときに遥が手にした伝票を抜き取り、個室風になっている座敷から出ると、まだ赤い顔のまま少しむくれた遥が「もう少し一緒に居よう」と、僕を後ろから抱き締めた。
「ん、」
それから会計を済ませ、この時間からお互いの家に行くのはどうだろうと、近くのビジネスホテルに入った。この後の行為にはもう同意したも同然で、緊張しながら二人でエレベーターに乗り、部屋に入るまでの時間はわりと楽しかった。ドキドキしながら、たまに見つめあって、繋いだ手の指先で甲を擦って。
「家に連絡入れた?」なんて、お互いに気にしながら、けれどもうそこまで子供でもないような気がしてなんだか可笑しかった。たった数ヵ月で大人になんてなるわけないのに、それでも大人になった気がして。
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