さっきの店員さんは俺の手をとると手際よく俺の指を測り、手際よくいくつもリングがついた束みたいなものから合いそうなものを俺の指にはめた。

「ん〜…17号がいいですかね」

根本まで入れると若干隙間が出来る気がしたけれど、一つ小さいサイズにすると関節で窮屈になって外せなくなりそうだった。

「相手の方のサイズはどうされますか?」

「サイズ…」

「一度測っていただいた方が…」

「お姉さんどれくらい?」

「あー、わたしの薬指で7号です。右は少し関節が太いので9号とかですね」

サイズは分からないけれど、触った感覚は明確に思い出せる。7号と言われたお姉さんの左手薬指に触ると、りんちゃんより明らかに細くて違うな、と感じた。
見ず知らずの女の人の指をあまりべたべた触るのは失礼かと、一通り触ってからすぐに手を離した。

「この指は?」

「へっ?あ、えっと…中指は…11号…かな、はい」

「じゃあ、11号でお願いします」

「え、よろしいですか?一旦取り置きだけして後日、っていう事も出来ますけど…」

「大丈夫です。11号と17号で」

「分かりました。一応お直しの方も出来るので。内側はどうされますか?」

そうか、文字を入れることが出来るのか…なんだろう、入れるべきなんだろうか。でも見えないしな…

「名前やイニシャル…が多いですね。記念日入れられる方もいますよ」

「……」

「指輪がシンプルなので入れてもらうのも良いと思いますし、また別なんですけど、内側にこういった石を入れるのも人気です。そのままが良ければもちろんそのままでご用意いたします」

「あの、じゃあ…」

内側に一つ、赤い小さな石を入れてもらった。つけているときは見えないけれど、外していることの多くなりそうな俺にとっても、調理の授業も多いりんにとっても、ネックスにするとなったら内側が見えるのも良いかなと思ったのだ。
だったらはめたときに見えるところにそういうのがくるデザインにしたら、と言われそうだけど。なにもない、シンプルなものが良いと思ったのだから仕方ない。一ヶ所だけねじれたデザインのそれは、どちらかと言わなくても地味な方なのかもしれない。そのねじれの隙間にダイヤをあしらったものもあり、それもきれいだと思ったけれど女性的すぎた。りんちゃんの指には似合っても、彼自身が男っぽいから何となくイメージとは違う。それだけの理由だ。

「少しお時間頂きたいんですが」

「また別の日に取りに来ても良いですか?」

「大丈夫ですよ。じゃあこちらの紙に…」

今日はこのあとりんちゃんをバイト先まで迎えにいくことになっている。時間はまだ大丈夫だけれど、待たせるのは嫌だから少し早めに出るつもりだった。連絡先と名前を書いた紙をチェックしながら、店員さんは「喜んでもらえると良いですね」と微笑んだ。

「はい」

「お付き合いしてる方ですか?」

「はい」

店員さんは「お兄さんに指輪もらえる子が羨ましいです」と微笑んだ。受け取りはいつでも良いという説明を受けてから店を出た。そのまま靴を見に行き、そっちも取り寄せで後日取りに行く、ということにしてその足でりんを迎えに行った。りんちゃんは本屋さんでバイトを始めたけれど、たぶん大学に通い始めたら食べ物屋さんでも働くのだろう。調理師免許も取りたいと話していたから、きっとかけもちをするのだろう。

学校に通って家の事もしてバイトもして、そんなりんちゃんを自分が支えたい。指輪は俺の自己満足かもしれないし、実際俺はそれが頑張る理由になる。りんちゃんにはどうだろう。どんなものになるんだろう。どんなものが似合うだろうかと悩んだ時間と、渡すときの緊張と、はめてあげるときの喜びを、りんちゃんはどう感じるんだろう。

卒業式の日、俺はりんちゃんに指輪を渡す。


/fin




prev next
main

bkm


×
「#学園」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -