クリスマスを家族で過ごし、そこに遥が加わり、仕事を始めてからは休みでない限りクリスマスを意識した夜ご飯を食べるだけ。まおも部活があったりでみんな揃ってクリスマスパーティーというわけにはいかなくなっていた。
今年はクリスマス前にまおと、母さんと、遥と、四人で少し早めにクリスマスをやった。だから当日である今日は特に、何も用意していない。少し前ウォールツリーなるものに初めて挑戦してみたら、遥がすごく喜んでくれたことくらいだ。
“二人”の部屋にやっと馴染んで、シンプルだけどあちこちに遥かの痕跡が残されたこの空間は、すっかり僕の好きな場所。

「あ、もしもし?」

「りんちゃん?」

「うん、どうしたの」

「もう帰った?」

「ちょうど今」

「上着脱いで、手洗いしたら冷蔵庫見て」

「え?ちょっと待ってね」

靴を脱いで玄関を閉め、コートをハンガーにかけたところでかかってきた電話を肩と耳で挟んで手を洗い、言われた通り冷蔵庫を開けると朝はなかった白い箱が入っていた。

「あっ」

「クリスマスだから」

「あはは、まだイブだよ?中、見てもいい?」

「うん」

箱の中には可愛らしいチョコレートのケーキとフルーツのたくさんのったタルトが入っていた。チョコレートの方にはサンタクロースのオブジェと真っ赤なベリーが飾られている。

「可愛い」

「好きな方食べていいよ」

「えっ、一緒に食べないの?」

「食べたいんだけど、今日遅くなりそうだから」

「待ってるよ」

「ううん、先に食べて、寝てていいからね」

この時期忙しいのはもうずっと前から知っている。それならと、僕は仕方なく頷いて今夜は寂しいクリスマスイブになるなと、残念に思った。

「ご飯、作っておくから、帰ってきたら食べて」

「うん、ありがとう」

「ん、じゃあ、おやすみ」

「おやすみなさい」

テレビをつけたら賑やかな声がすぐに聞こえ、その声をBGMにしてチキンを焼いて、ビーフシチューと付け合わせのサラダを作った。最近は一緒にご飯を食べることも少なくなってしまった。年始を過ぎれば少しは時間に余裕ができると分かっていても、やっぱり寂しい。我が儘を言いたくなる。

その夜は明日も仕事だなと思いながら布団に入り、しばらくして眠りについた。朝、目が覚めて隣で遥がぐっすり眠っているのを見つけると、どんな夢を見ていたかを忘れるほど胸が熱くなった。
「おはよう」と、起こさないよう小さな声で囁いてベッドを降りると、足元に大きな紙袋が置かれていた。なんだろう、と手を伸ばしてすぐにクリスマスプレゼントだと気づき、クローゼットの奥に隠しておいた遥へのプレゼントをその枕元に置いて寝室を出た。

「なんだろう、遥からのプレゼント」

大袈裟なほど大きい袋の中には長方形の箱が入っていて、赤のリボンがかけられている。Merry Christmas!と書かれた可愛らしいシールでメッセージカードがとめられていて、なんとなく箱が破れてしまわないようにそれを剥がした。

“メリークリスマス!この部屋で初めてのクリスマス、一緒にお祝いできなくて残念だけど、帰ってりんちゃんが居ると思うと、それだけで毎日幸せです。ありがとう。クリスマスプレゼント、良かったら使ってね”

「あ、ルームシューズだ…」

箱の中には冬用のルームシューズと上品な靴下が二組、プレゼント用に箱にセットされていた。ここに引っ越してきたのは夏、その時に遥が用意してくれたスリッパを、あまり汚れていないからと僕はいまだに使っていて。そうか、それを気にしてくれていたのか。

シンプルな濃いグレーの、暖かそうな素材だ。片方だけ甲の上の方に小さい雪だるまがプリントされている。中はふかふかで、靴下もすごくすごく暖かそうでセンスも良くて困る。誕生日や何かの記念とは違うから、と、毎年値の張るものはお互いに用意しない。その代わり少し高いお酒を用意したりご飯を食べに行ったりする。

「可愛い」

さっそくまだ暖まりきらないリビングでそれに履き替えると、見た目通りぽかぽかだった。嬉しくて何度か足踏みしたあと、時間を確認して僕も小さいサプライズを一つ仕掛けて仕事に出掛けた。
今日はクリスマスの朝だ。きっとあちこちで子供の喜びの声が上がっている。この寒い中、足取りは軽く、緩んだ口をマフラーやコートの襟に隠して、みんなが通り過ぎていく。

サプライズ

(幸福の朝だ)

その日、遥から届いたメッセージには写真が添付されていて、お揃いのルームシューズが仲良く並んで置かれたものだった。



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