「今からそんなに泣いて、まおの結婚式どうするの」
「けっ……」
「まおももう二十歳だよ〜」
まおは高校を卒業後、大学に進んで今もバドミントンをしている。まだあと二年、彼女は学生をする。その後のことは分からない。
「まだ早いよ…でもまおがしたいって言うなら…」
「うそうそごめんね、まおからそんな話聞いてないから。まだ落ち込まないで。ほら、もうすぐ美容院つくから」
相変わらずりんはまおのことをとても大事にしてくれて、所謂シスコンだけど…それも極度の…ずっと気にかけて今でも仲良しなのは素直に嬉しい。ぱぱが居なくなってから、悲しくて会いたくて何度も泣いたけれど、不思議と“寂しい”とは考えなかった。ままには二人がいて、それがすべてだったから。けれど、こんなに早く大きくなってしまうならもっと一緒に過ごすべきだったのかなと悩んだりもした。とにかく二人に不自由をさせたくなくて朝も夜も働いたけれど、生活が苦しくても二人の成長をもっとしっかり見ているべきだったのかなって…今さら考えても仕方がないけれど、ただ一つ言えるのは、二人が幸せだと笑ってくれることがままはすごく嬉しい。
「あ!りんちゃーん!!」
「はう、ま、まお…!可愛い…」
「まおちゃん綺麗!その振り袖に決めたんだね」
「うん!二人ともこれが似合うって言ってくれたし、まおも気に入ってたから」
「ああぁ…写真より一億倍可愛い…」
デジカメと携帯電話を両手で器用に操って連写するりんを、まおは呆れたように笑って、それでもピースサインを向けた。
「貸して、撮ってあげるから横並びなよ」
「神々しすぎて無理…」
「じゃあ撮らない?」
「撮ります撮って欲しいですお願いします」
りんが家を出ていってから、まおとは喧嘩をするようになった。年頃なんだから当然のことなのかもしれないけれど、りんとしなかった分、とても胸が苦しくて痛くて、りんちゃんの存在の大きさを改めて感じた。
小さな天使だったまおもいつの間にか大きくなって、最近は喧嘩もしなくなった。お化粧をしたまおの顔は、大人びていて、綺麗で、泣きたくなった。
「ハイオッケー。お母さんも」
「あ、ありがとう」
今日、まおが成人式を迎えた。
あと何年かしたらきっとまおも特別な人を見つけて我が家を出ていくことだろう。そしてままはやっと寂しくなるのだ。二人がそれぞれの幸せを掴んで、たまに顔を見せに来てくれるのを楽しみに、寂しい、とパパの写真に呟くのだろう。
自分もそうしたから。お父さんとお母さんを実家に残して遠い場所に来た。自分の、新しい幸せを見つけて。だから、自分の宝物が笑顔で出ていくのを、笑顔で見送るのだ。
「まま、泣いてる?」
「泣いてないよ」
ぱぱ、まおも凛太郎も立派に大きくなったよ。でももう少し、一人でそこで待っていてね。
/fin
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