パパと約束をした。
小学生の息子と、まだ産まれたばかりの娘は自分が責任を持って育てるよと。

責任を持って、愛情を注いで、目一杯抱き締めて育てたけれどきっと二人にはたくさん我慢をさせた。りんちゃんは“お兄さんだから”と本当に多くのことを我慢して諦めてしまっていたと思う。それでも一度も不満を口にしないでまおの面倒をみて、家の事もしてくれた。いつもごめんねありがとうと疲れて眠る寝顔に呟いてままが泣いていることを、もしかしたら彼は知っていたのかもしれない。
仕事ばかりでご飯も一緒に食べられない日の方が圧倒的に多いのに、なんでもない顔で「お疲れ様」と言ってくれるりんちゃんは、ぱぱが居なくなってから我が家の大黒柱になりました。

ぱぱが最後に残してくれた小さな天使は、本当に可愛くて、天真爛漫で、いつもにこにこして小さな手でままを抱き締めてくれた。

「あああ!」

「なに!?」

「デジカメの充電持つかな…」

「大丈夫だよ、お母さんも持ったし俺も持ったし大丈夫だって」

「あ、待って!」

「なに!」

「ティッシュ持った?」

「持った持った!ボックスで!ほら」

りんちゃんはまおが高校に入って少ししてから家を出ていった。短大に行きたいという、彼の人生史上ただ一度の希望はりんちゃん自身が一番頑張ったように思う。勉強もバイトも、家の事をしながら本当によく頑張っていたし、就職してからも長く家計を支えてくれた。
その中で、ままがぱぱを好きになったように彼も自分の大切な人を見つけて、我が家を出ていった。それはきっと、ぱぱが望んだような形ではないかもしれないけれど、ままは気にしていません。むしろ可愛い息子がもう一人増えたと嬉しいくらいに思っていて、もちろん驚きはあったけれど、絵本の中の王子様みたいな、りんちゃんの恋人はすごくピュアでままのこともまおのことも大事にしてくれている。何より、りんちゃんが幸せならそれでままも幸せで。

「うう、お腹痛くなってきた…」

「りん!早く!まおちゃん待たせちゃうよ!」

めそめそしながらはるちゃんの運転する車に乗り込んできた息子は、朝早くから美容院に行っているまおを迎えに行く今の段階から緊張しているらしい。

「はぁ、泣きそう…」

「もう泣いてるよ」

「まだ泣いてない」

もう一人の息子はるちゃんは三ヶ月前自分のお店を開いた。
ちょうどまおとりんの誕生日に近く、お店でお祝いをして貰った。二人ともお酒を飲んで、はるちゃんの用意してくれた美味しいご飯を食べて、泣きそうなくらい、とても嬉しかった。

三人で乗り込んだ車は緩やかに発進し、早朝にまおを送り出した美容院へ向かった。

「はぁ〜楽しみ」

「まおもね二人に見てもらうの楽しみにしてたよ」

「りんちゃんなんて昨日からそわそわして今日も四時から起きてたもんね」

「言わないで…」

三十を越えて、二人とも“大人”になった。
りんの背中はぱぱより小さくても充分に大きくなったし、きっとこれからもっと大きくなる。



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