自分の吐く息で視界が霞んでいるような錯覚に囚われながら、コンドームを箱に戻そうとした遥を捕まえる。「りんちゃん?」と困惑した目が僕を見て、恥ずかしさに声が喉にひっかかってしまった。言葉が出ない代わりにコンドームをさらい、中身まで破ってしまわないようにそれを取り出した。

「り─」

「続けて、」

「でも…」

「ちゃんと、気持ちいいよ」

背中を浮かせて遥のズボンを下ろし、下着もずらして勃ち上がったものをやんわりと握る。遥は反射的に腰を引いて、僕の耳元に顔を埋めた。

「りん、だめ、あんまり…触らないで。…イきそう」

「でも、ゴム…」

「もうつけれるくらい、ガチガチ、でしょ」

「…つけて、い?」

遥からの返事はなく、代わりに僕の肩口で頷いたのを感じて取り出したものを遥に宛てがう。コンドームの使用経験がない自分には、人にそれをつける、なんて難易度の高いことをするのは勇気が必要だった。ドキドキしすぎて胸が痛い。

「っ」

「あ、ごめ…痛かった?」

「ううん、出そう、だった」

ぎこちなく装着を完了させると、もうそれだけで少しばかりやりきった感を得てしまった。これが自分の中に、と、避妊具を被せられた遥のものを見つめ、やわやわと撫でるとすぐに止められてしまった。

「ほんとにダメ。りんと、一緒がいい」

耳元で囁かれる甘い声が、脳みそをダイレクトに揺さぶる。ダメだ、僕の方がよっぽど感じてる。顔を真っ赤にして、目をとろりとさせて、遥がゆっくり体を起こす。それから僕の左膝を持ち上げ、反対の手が自分のものを僕のお尻へ宛がう。

「っう…」

感じたことのない圧迫感が襲ってくるのと、少しの痛みを同時に感じ、喘ぎ声とは程遠い、男の唸り声みたいな呼吸が漏れる。

「ごめんね、痛いよね」

「、へいき、だってば…」

「でも、ごめん、俺も、もう止めらんない」

「ん、あっ!ふぅぅ…」

「りん、腕…背中捕まって」

何か喋ろうとすれば、言葉より先に情けない声がボロボロと出ていきそうで首を横に振るのが精一杯だった。口を押さえる右手も枕を強く握り締める左手も離せない。遥の背中にしがみつけば、指が食い込んで痛い思いをさせてしまうかもしれない。
「りんちゃん、お願い…手、こっち。顔見せて」

「っ、ぁ…はる」

「うん、もうちょっと」

もう半分以上入ったからねと、遥は俺の両手をとる。指を絡ませて、しっかり握られた手はもう布団を掴むことも口を押さえることもさせてくれない。

「りん、ん、」

「あっ、んん…」

それ以上奥になんていけないと思いながら、けれど遥はどんどん進んでしまう。自分が知らない場所に遥が触れ、知らない感覚に視界が滲む。その生理的な涙は、遥の「はいっ…た」と切羽詰まった声で目から溢れた。

「うわあ、ごめん!痛い?抜く?」

「っ…」

ふるふると首を振り、手を離して涙を拭ってくれる遥に「きもちいい」と返すと、どうしてか遥までボロボロと泣き出してしまった。正直、直接的な“気持ち良い”を感じる訳じゃない。遥の手で扱れる気持ち良さを知ってしまったら、これは苦しいとか痛いの部類に入る。それでも、重なった腰も、胸も、遥の鼓動が自分のものみたいに感じることは、これ以上ないほど気持ちが良くて、回数を重ねて、繋がった場所からお互いが善くなれたら良いなと思う。

きっとすごくキツくて、遥も痛いだろう。泣きながら、ふーふーと荒い呼吸を繰り返している。

「りん、」

「ん…」

「俺も、きもちい…ごめんね」

「嫌だ」

「ごめん」

「謝るの、やめて」

「でも、りんちゃん痛いでしょ…」

「そりゃあ、少し、は…でも、嬉しいよ。はるかと…最後までできて」

「うう…」

「泣かないでよ」

どっちが抱かれてるのか、僕の涙はすっかり引っ込んだと言うのに。繋がった場所がどくどくと脈打ちながら、僕の中を遥の形に変えていく。じわりじわりと、痛みは甘い熱に変わっていくし、たっぷり時間をかけて繋がって、繋がったまま飽きるほどキスをして、やっぱりすごく気持ちが良かった。


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