「はるちゃんも来てた?」

「来てないよ〜」

今のところ、まおはその王子さま以上に格好良いと思えた人にはまだ出会っていない。その王子さまなはるちゃんこそ、りんちゃんの恋人だ。
“恋人”だと本人たちから説明されたことはないけれど、早い段階で気付き始めたような気がする。はるちゃんがりんちゃんを見る目とか、触れる指先とか。段々、そうなのかな、そうなんだろうな、そうなんだな、と。それに対して嫌悪感を抱いたことはなく、ただそれが世間一般の“普通”でないことも同時に理解していた。

「はるちゃんも忙しそうだもんね」

「うん、みたいだね」

それでも、二人が周りに認めてもらえるよう努力していたことも知っているから否定は絶対にしない。否定する人がいたらまおが怒る。二人で勝手に仲良くするという選択肢もあったはずなのに、二人はそれを選ばなかった。じゃあそれが何より正しいかと問われれば答えはどちらでもないし、りんちゃんの判断は自己満足だと言われてしまえばそれまでなのだけど。少なくとも、お父さんを早くに亡くして家族三人で絆を築いていた我が家にとっては正解だった。りんちゃんが“欠ける”ということはもう、家族全体の崩壊とさえ思えたから。

今、自分が高校生になって思うことは…例えば好きな人ができて、その人と恋人同士になれたとして。その人と将来を見据えたお付き合いが出来るだろうか。とっても大好きで、結婚したいと言葉にしても、そのために今から努力するのは難しいんじゃないだろうか。まだ高校生で、せめて卒業するまでは、せめて大学を出るまでは、せめて二、三年働いてお金をためるまでは…そうやって年月が流れてその時隣にいられる保証なんてどこにもない。だから、二人がお互いに一緒に居られるために学校や仕事をきちんと自分のものにして、相手の事だけじゃなく相手の家族のことも考えられた二人を尊敬するし、羨ましいとも思う。
好きな人に好きだと言ってもらえるのはどんな感覚か、どんなに幸せか。

「あ、まま」

「んー?」

「来週から文化祭の準備始まるから、帰り遅くなるよ」

「あ、そうだったね!分かった。帰りは迎えに行こうか」

「ううん、大丈夫」

「でも遅くなってからだと危ないよ」

「平気。部活の時より少し遅いくらいだと思うし。いえ同じ方向の子も居るし」

迎えに行く、なんて、きっと出来ない。平日はまおより帰りが遅いし、学校とままの仕事場は方向が違う。少し強引に母の提案を断り、出来上がった二人分の夕食をテーブルに並べた。三人から二人になった食卓は、驚くほど寂しい。
そのせいか、りんちゃんが出ていってから少し、ほんの少し、家の空気はぎくしゃくしている気がする。はっきりと、ここがこうなった、という程ではないのだけれど、なんとなく言いたいことがあまり言えなくなったとか、自分がとにかく寂しいだとか、そういうものが少しずつ積み重なっていくような。

「いただきます」

それでもままの事は大好きだし、尊敬してる。いつもにこにこしていて、見た目だって可愛らしい自慢の母親だ。
久しぶりに、ままが全部作ってくれた夕食はまおが好きなものばかりだった。

大根おろしと大葉の乗ったハンバーグと、トマトとアボカドのサラダと、ポテトサラダと、デザートにはちみつのかかったヨーグルト。大好きなこのメニューは、りんちゃんが家を出ると報告した日のメニューだ。それが蘇り、一瞬胸が痛くなった。


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