「樹のこと好きなのー?」

「嫌いだったら、話に出さないよ」

「やだー。俺と同じ好きなの?」

これは…やきもち、でいいのだろうか。
まあ普段から割とそういうのは表に出すのが志乃だけど、こう、ダイレクトで分かりやすい答えを要求される質問はどうも慣れない。でも、今なら、きちんと答えられる。

「違うよ、樹くんは…なんだろう、友達?でもないのかなあ…」

うん、樹くんは志乃の友達で、ついでに僕も仲良くしてもらって、親しくなれた。

「だから、志乃とは違うよ…はる、」

「ん〜」

「ぐえっ、苦し…」

「へへっ」

「笑ってないで、離して」

「うれしいな〜」

へらへら笑いながら、志乃は僕の頭に頬擦りをした。僕はまおとしかまともに抱き合ったことなんてないから、志乃にこうされるたび緊張と安堵で頭がくらくらする。今は暑いから余計に。

「嬉し、い?」

「うん、嬉しいよ。りんが俺のことちょっとは特別にしてくれてることも、こうやってくっついていられることも」

緩くなった拘束から逃れ志乃を振り返ると、やっぱりそこにはへらりと笑う顔があって。これには何も言い返せない、でも目を逸らすことも出来ない。男前のくせにこういう隙だらけの姿を平気で晒すからずるい。

「干すの手伝う」

「へ、あ…ありがとう」

「これから毎日手伝う」

「え、それは悪いからいいよ」

「いいの。俺がしたいの」

「遥…」

「ご飯ご馳走になっちゃってるし、毎日お邪魔するんだし、それくらいする」

何気なく出てくる“毎日”と言う言葉、それがこんなにも胸に響くなんて。さり気なく約束される未来に、大袈裟かもしれないけれど僕は泣きそうになった。

「ありが、と…でも、」

「でも?」

「まおの服は、僕が干す」

「はーい」

泣きそう、ではなく、じわりと滲んだ涙。おでこの汗を拭うふりをして目元を拭ったことに、志乃は気づいたかもしれない。けれど何も言わないで、僕の横で僕の服を干しながら「あとでアイス買いに行こう」なんていうから、笑ってしまった。



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