「自分が学校行かないからか、朝余裕ができて…朝ごはん、ちょっと作りすぎちゃったんだ」
お弁当もまおの分だけでいいし、昼は自分一人のつもりだったし、この調子だと夜まで残ったままだろうから。
「うお、音羽んちってこんなん出るの」
「ごめん、普通のお味噌汁とだし巻き玉子だよ。にくじゃがは昨日の残り物で…口に合わなかったらごめん」
「いやめっちゃうまい。音羽が作ってんの?」
「一応…」
「食べたらさっさと帰って」
「お前んちじゃねぇだろ。ていうか、音羽いい嫁になれるわ」
「あはは、ありがとう」
お嫁さんにいくつもりはないし、この先そんな予定も入らないだろうけれど。
「りんは俺のお嫁さん。樹にはあげない」
「遥うるさい。あ、お前携帯光ってるぞ」
むぎゅっ、と僕を抱き寄せた志乃。けれど樹くんが指差した先の携帯が光っているのに気づき、さらに画面には“ばあちゃん”という文字が表示されているとわかり、すぐにそれを手に取った。
僕が志乃と連絡を取るのは、当たり前だけど一緒にいない夜だけだ。だから一緒にいるとき、志乃が携帯をいじっているところなんてほぼ見たことがない。僕は鳴らないから触る必要もないけれど志乃は忙しく鳴っていそうなのに。何故かその様を見るのは相当希で。
「もしもしばーちゃん、どうしたの」
樹くんにやたら嫉妬している志乃はどうかと思いながら、志乃の電話の相手がおばあちゃんで安心してる自分も、充分重症なんだ。
そんな複雑な心境の僕に、樹くんはちょいちょいと手招きをして耳元へ顔を寄せてきた。
「で、どうなったわけ」
「…な、にが?」
「なにがって、遥と。…は、まさか何もないとか言わないよな」
「……あ、えーっと、」
どうなったのか、と問われれば“どうもなっていない”が正しい答えだ。
「はー、とりあえずさ、気持ちは?言ったのか」
「あ、それは、うん。一応、?」
「何で疑問系。付き合うか付き合わないかの二択だろ」
「そっ、うなんだけど…その、まだはっきりとは…」
「あ、そう。まあそれならそれでいいんじゃねえの。遥はどんだけでも待つだろうし。音羽にちゃんとそういう心構えできるまでさ」
「…ありがとう」
「でも、あんま“待て”させたままじゃ、お前そのうち強引に喰われるぞ」
「はは、喰われるって」
「笑い事じゃねえって。気を付けとけよ」
「優しいね、樹くん」
「っ、なんだよ急に」
「だって、志乃だけじゃなくて、僕のことまで気にかけてくれて」
「それは、お前がへぼそうだから…」
「そうだけど、でも、僕は嬉しいから」
「…はあ、遥がぞっこんになる理由がわかる俺も大概か」
「というか、樹くんは、その…引かないの?」
付き合ってくださいの返事に了承はした。
だから“付き合っている”と堂々と答えてもいいはずなのに。なんとなくそれが出来なかったのは僕の返事に曖昧さが含まれていたから。
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