そんな気持ちを紛らすように部屋を見渡してみたけれど、これといって変わったものはなかった。唯一目にとまったのは、本棚の一番上の段に置かれた写真たて。立ち上がってそれを覗き込めば、それは黒い学生服に身を包んだ数人の学生が写っていた。
「…志乃?」
何人かの友達らしい男の子が肩を並べて写るそれ、ぱっと見ただけではどこに志乃が居るのか分からない。真っ先に分かったのは、今と変わらない鮮やかな赤い髪をした樹くんで。その横に居るのが…志乃のような…でも真っ黒の髪と、巻かれた包帯。隠された片目に、さらに片頬には盛大にガーゼが貼られていて、顔なんて全然見えない。ただ、あどけなく笑うそれは確かに、志乃だ。
「……顔、変わってない」
怪我や包帯がなければ、今と同様整った顔がそこにはあるんだろう。
「…でも、なんか……」
なんだろう、どこかでみたことがあるような…いや、黒髪になるだけで、こうも親近感が沸くものなのかというべきか。
しばらくじっとそれを見ていたら、トントンと階段を上がってくる足音が聞こえて、はっとして目を逸らした。
「お待たせ。シロップ、イチゴだけどよかった?」
「うん、ありがとう」
手作りらしいかき氷は、この夏最初のかき氷だった。普通のかき氷なのにひどく美味しく感じたのは、実際すごく美味しかったのかもしれないし、もしかしたら志乃が作ってくれたからかもしれない。
「美味しい?」
「ん、美味しい」
「良かった。また作るね」
「ありがとう」
「へへ」
また、か。
またお家に招いてくれるという解釈で、いいんだろうか。
へらりと笑った志乃に、それを問うことはできなかったからその疑問はそのままにして。まおのお迎えの時間までしばらく、僕は志乃と他愛もない話をして過ごした。
ふとした瞬間に、あらぬ雰囲気になりそうになるのをなんとか回避しながら。
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