「りん、ちゅーしてい?」

「えっ、と…ほっぺなら…」

「ほっぺ…」

可愛い。子供みたいだ。
その表情に笑えば、志乃は一瞬首をかしげてから僕の頬に唇を寄せてきた。柔らかいその唇はそっと頬に触れて、離れた。

「ここは?」

それから鼻と鼻がぶつかり、志乃の指が僕の唇をゆるゆると撫でた。

「志乃っ」

「あー、志乃に戻っちゃった。遥でしょー」

「だって…」

「いいよ、これで許すね」

志乃はそう言うと柔らかく唇を重ねてきて。
三度目のキス、僕は完全に志乃のことが好きだと、理解していた。放心状態で涙の味がした一度目とも、“キス”を実感して苦しくなった二度目とも違う、気持ちが通じあった三度目のそれは、ひどく心地よくて気持ちよかった。

「りん、」

「…ん」

「口、そんなかたく閉じないで」

「ふ、ぁ…」

親指で少し強引に割られた唇。その隙をついてまた重ねられた志乃の唇は、今度ははむはむと僕の下唇を挟んだり甘噛みしたりしはじめた。なんていうか、くすぐったいような痒いような、でもからだの奥が熱を帯びていくことに、気づいていてしまった。

「はる、待っ…」

どさりと音が響くのと同時に背中に衝撃がきて。視界には志乃と、天井だけで。押し倒されたのだと、状況を理解するのはまあまあ早かった。けれど、その状況から脱するには力で志乃に対抗しなくてはならない。

「凜太郎」

無理、絶対無理。
手はしっかりと床に縫い付けられて、僕を跨いだ両足で腰はホールドされている。抜け出さないと、何となく大変なことになる気がしてならないのに…

「し─」

「はるかー!」

そんな状況から救ってくれたのは、おばあさまの声だった。
階段の下から発せられたであろうその声に、志乃は我にかえって目を見開き、弾かれように僕の上から退いた。

「ご、ごめ…」

「遥ー?」

「な、なにーばあちゃん」

「かき氷食べるかい?」

「食べる!ごめん、りん、ちょっと待ってて。あ、かき氷いらない?」

「へ?あ、食べたい…」

「ん、じゃあ持ってくるね。適当に待ってて」

「う、うん」

志乃はバタバタと騒がしく階段を降りていき、勢い余って転んだのか派手にビタン!と止めの音が家中に響いた。おかしくなりそうだった心臓は、その緊張から解放されてもしばらくドキドキと煩かった。


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bkm


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