「こんなに、苦しいのに。ドキドキして、おかしくなりそうなのに…責任もとらないで、友達でいようって言うの?」

「りん、」

「ずるいよ、僕はまだ全然志乃に…遥に、気持ち言ってないのに、自己完結するなんて。踏み込んできたのは、遥なのに…僕は、知らないことばかりだって思いしるたび悲しかったし、最近、ばいばいするときベタベタされないことも、寂しいとか…感じてたし…」

「りん、たろ…」

「でも、何より一番知りたいのは遥が僕を好きな理由だよ。遥は僕が思い出すまで秘密っていったけど、それは…そんなにも僕を大事に思ってくれるほど、大きなことだったの?」

「…うん、その時の俺には、生きてきた中で一番、大きな出来事だったよ。でも、それは確かにきっかけだけど…今は、もっとりんのこと好き。そのきっかけがなかったらりんと仲良くなれなかったかもしれないけど、でも、それでもきっと俺は、りんのこと好きになったよ。絶対、なってた」

どうして思い出せないんだろう。
僕の記憶のどこにも、志乃はいない。始まりは新学期初日の、あの微笑みなのに。

「りんが、今の俺を見てくれてるようにね、俺だって今のりんが好きなの。だから、俺と…」

“俺と、付き合ってください”

それが、結論だったらしい。
好き、キスしたい、抱き締めたい、その先にあったもの。志乃が考えて考えて、導きだした答え。簡単なその一言を、志乃はたくさん考えたのだと、あとでそっと教えてくれた。

「正直…付き合う、って…よくわからない。でも、遥のこと、好きだと思う」

それはもう少し、あとの話だけど。

「ドキドキしたり、寂しかったり、モヤモヤしたり、僕も遥と同じだから…きっと、これは遥のことが好きだからでしょ?」

「りんっ」

「その…」

“お願いします”
と、一言返すだけなのに、それを口にするには勇気が必要だった。
だって僕は誰とも付き合った経験がない。それから不安とか疑問とか、人の目とか家族のこととか、いろんなことが頭の中に浮かんでいる。それを振り切って頷くほどの自信がまだないから。それでもこれを“恋”と呼ぶのなら、いつか返せると思うんだ。

「いいよ、ゆっくりで。りんが、そう思ってくれてるって知れただけで、嬉しい。自信もって頷いてくれるの待つから。でも、俺はりんに触りたい。嫌なときは嫌って言っていいから…ぎゅーってしてもいい?」

「っ…」

もう、してるじゃないか。そう思いながら、僕もその背中に手を回した。
それが記念日、になるのかは分からないけれど、それでもその日は僕にとって、特別だった。



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