「どうかしたの、まだ気分悪い?」

「ちが…それは、大丈夫」

「ほんと?」

「…うん」

至近距離で顔を覗き込んできた志乃に自分の顔が熱くなるのを感じて、目を伏せた。

「…りん、再試が終わったら言いたいことがあるって話、覚えてる?」

「っ覚えてる、よ」

「今、してもい?聞いてほしい」

伏せていたまぶたを親指で撫でられ、促されるまま視線をあげた。すぐそこにある志乃の顔は相変わらず綺麗で、けれどその表情は子供のようなものではない。真剣で…真っ直ぐな、男の顔。

「な、に?」

子供みたいなあの笑いが好き、でもこの顔は、胸が苦しくなる。

「俺ね、りんのこと好きだよ」

「それは─」

「分かってる、りんがその意味理解してないの、ちゃんとわかってる。だから、もう一回こうやって、告白、してるんだよ」

「告白って…」

「前言った時、りんに伝わるまで待つつもりだったし、それは変わってないけど…でも、俺我慢できずにちゅーしたり、勝手に焼きもちやいたり…それを上手く、りんに伝えられずにいたから…」

どくんどくんと、心臓が馬鹿になったみたいにうるさい。

「もうね、本当に限界。りんのこと好きで好きで、大好きでたまんない。副会長とか、樹にまで嫉妬するくらい。本当は、まおちゃんだって羨ましい。俺もずっとりんのそばにいたいのに、って」

「しの…」

「ちゃんとわかってる?前みたいに、“友達”の好きだって、勝手に思い込んでない?俺、りんのこと独り占めしたいとか、ちゅーとか、それ以上のこととか、したいって思ってるんだよ?りんのことずっとずっと守るって、それは変わらないし、俺のこと知っても変わらないでいてくれるりんが大事で仕方ないんだよ」

どうしよう…
何て言えばいいんだろう。

「あ、ありがとう…?」

「なんで疑問系…」

分かってる、もうとっくに、分かってる。
友達同士でキスなんてしないってことも、僕が志乃に対してこんなにもドキドキする意味も、男同士だから、ってそれ以上考えないようにしてた理由も。

「だって…僕は」

「、待って、待って!まだ心の準備が…」

「どうして志乃に、心の準備が必要なの」

「だって、失恋の心構えなんて、そんなに簡単にできないよ」

「失恋?」

「ふられるってことくらい、分かってる。でも、言わずにはいられなかったの。りんがおんなじ気持ちじゃないのわかってて、ちゅーとかしたこと謝りたかったの。でもほんとのほんとに好きだって、俺の気持ち、ちゃんとわかってほしかった」

部屋に入ってすぐつけたクーラーが、今になってやっと効いてきた。冷たい風が汗ばんだ肌を撫でていき、鳥肌がたってそう気づいた。

「…ずるいよ、そんなの」

「っ…ごめん。だけどっ、それでも…嫌いにならないでほしい。りんが友達としてしか無理だって言うなら、それでもいい。嫌いにはならないで」

そんなの…

「無理だよ」

「え…」

「無理だよ、ずるい、そんなの」

濡れたまつ毛と、なんの抵抗もなく頬から顎へ伝っていった涙。どうしてそんなにも綺麗に泣けるんだろう。いつもはぐずぐずと鼻をならして泣くくせに、どうして今に限ってこんなにも…


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