「ほらみろ、早とちりして殴りかかってきやがって」
「してるように見えたの!樹がりんの両肩掴んで、そのあとりん俯いて…」
そう言われてみれば、確かにそんな行動もあったけど。いやでも、普通そんな勘違いはしない気がする…
「だからカッとなって殴りかかってきたと」
「樹のことは殴ってない」
「ベンチは見事に壊れたけどな」
「……」
「そもそもそんなこと心配する前に─」
「分かってる!ちゃんと話するって決めてる!りん、行こ」
「わっ、ちょ…い、樹くんも、もう体育館行かないと」
「樹のことなんてほっとけばいいの」
「でも…」
「いーの!」
うんざりしたようなため息を落とした樹くんを一目振り返って、けれどもう振り向くこともできないまま腕をひかれて体育館へ向かった。ほとんど引きずられるようにしてたどり着いたそこは、すでにクラスごとに列ができていた。僕らは慌てて自分のクラスの列を見つけ最後尾に並んだ。
ギリギリセーフで始まった始業式は、とくに代わり映えもないつまらないものだった。ただただ暑さに頭がくらくらして、先生たちの話なんてこれっぽっちもはいってこなかった。なのに、数分前の志乃と樹くんの会話が何度も繰り返し再生されていて。
「夏休みだからといって…」
樹くんが僕にキスしたって勘違いして…怒って、カッとなってベンチ壊しちゃった。
それって、どうしてだろう…それって、嫉妬…とか、ありえない、か。あの日、志乃は喧嘩はしてないと半ベソをかきながら溢していた。その言葉通り、怪我はしたものの原因は喧嘩じゃなかった、それが分かって安心はした。でも…まさしくその日からパタリとなくなった“また明日”のキス。
それが意味するものは…そもそも最初から、それに意味なんてなかったんだろうか…それを寂しいと思ってしまう自分がいるのはもう隠せない。
「特に三年生は」
ああ、なんだかもう考えるのもしんどい。
今日は半日で、授業もないからコンタクトさえしてこなかった。それが原因なのか、ぼんやりとした視界。定まらないそれと暑さに、おもわず目を伏せた。
「りんー?眠いの?」
「ん…?」
「顔、ぽやぽやしてるよ」
「大丈夫だよ、ちょっと暑くてくらくらしただけ」
「無理しないで」
後ろに座っていた志乃はそう言うと、僕を背中から抱え込むように体を密着させてきた。余計に暑いじゃないかと思ったけれど、背もたれができていくらか楽になったのは事実だった。
「有意義な、夏休みにして下さい」
ああ、そういえば…
“再試が終わったら言いたいことがある”って言われていたんだった。大事な話、なんだろうか…でも話し出さないし、もしかして忘れているのかもしれない。志乃ならあり得るから怖いところだ。
そんなことを考えているうちに終業式は終わり、12時を少し回った頃学校を出た。今から夏休みだ、と賑やかに僕を追い越していくクラスメイトの背中を見送りながら、本当にもう夏休みなのだと実感した。
二年生になって、もう3ヶ月以上経ったなんて、なんだか変な感じだ。
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