「好きとか好きじゃねえとか、ちゃんと“付き合ってる”とか、そういうのはっきりさせるし、何よりあんなゆるゆるだけど適当に誰かと遊ぶってこともしない」

「適当…」

「あんな見た目だからさ、相手から寄ってくるのは当然。でもそれをへらへらして受け取ったりはしないってこと。それで失敗したことがあるのかどうかは知らんけど、そういうとこは妙に敏感。本当は結構周り見てて、細かいとこまで気づいてんのかもな」

樹くんも結構、志乃のこと見てる。
志乃が妙に、僕に…僕だけに限ったことではないだろうけれど…嫌われることを気にしているのは気づいてる。必要以上に“嫌われる”のを嫌がり、そんな弱い部分を持っている人だってことを、僕だけが知っていればいいと思ったのだから。それを、樹くんも知っていた。それだけなのに、なんだか胸がモヤモヤして、ぎゅっと絞められたみたいに苦しくなった。

「……結果、俺が言いたいのは」

俯き加減になっていた僕の視線を上げるように、樹くんの手が僕の肩を掴んだ。自分より全然大きな手だった。

「普段気張ってる遥が、俺や…とにかくそういう奴ら以外とつるんで、ああやって心許してるんだから、音羽はその自覚をした方がいいってこと」

「…ごめん、つまり、僕は志乃の─」

「大事にしたい奴、なんじゃねえの」

好きだと言われた。
その好きの意味を、僕は知らない。それでも志乃は僕にキスをして…そう考えたら急に顔が熱くなり、顔が赤くなる感覚に俯いた。

「その上で、音羽はどうなんだろーって、てのが俺の最近の疑問」

「ど、ど、」

どうなんだと言われても…

「遥が考えまとめちまえば、話は早いんだけど…まあ、その感じじゃまだ無理か。あー…ねみー。俺寝るけど、音羽は?戻んの?」

「っ、あ、戻る」

5限は完全にサボってしまう形になった。6限はちゃんと出たい…こんなに頭のなかが混乱してちゃ、勉強どころじゃないけれど…重い腰をあげ、樹くんに別れを告げから教室へ戻った。その途中5限の終業のチャイムが終わり、なんとか最後の授業には間に合った。一人で戻ってきた僕に、教室内は少しざわついたけれど。
やっぱりこういうのは、嫌だ。元々一人で、その先も一人のままだったらこんな思いもしなかっただろうに。

「……」

そして隣の席は空席のまま、授業が始まった。
やっぱり全然内容は頭に入ってこなくて、先生の声を聞き流して、教科書をボーッと眺めるしかできなかった。樹くんの言葉も、何度も反響していて、こんなにも他事を考えて授業を受けたのは初めてだった。そして時おり、不意に志乃の唇の感触がよみがえって一人で勝手に恥ずかしくなって悶絶した。

「次のところ、音羽」

「……」

「音羽ー起きてるか?」

「っ、!あ、はい…えっと……、」

「この問題、解けるか」

「あ、はい…」

重い足を引き摺って黒板の前に立ち、書かれた数式を眺めた。たいして難しいものではない、そう思いながらチョークを滑らせたが、途中で簡単なミスをしていると指摘されてしまった。

「珍しいな、音羽。体調でも悪いのか」

「い、え…すいません」

小さな笑い声と、冷ややかな視線。それから目を逸らし、間違えたところを直してから席に戻った。
その授業が終わる頃、志乃は宣言通り戻ってきた。僕と目が合うなり、一瞬気まずそうな顔をして…いや、気まずい、というよりは申し訳なさそうに眉を下げて。


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